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おもいでにかわるまで  作者: 名波美奈
第二章
103/263

103

聖也にバレない程度に体を硬直させたつもりの水樹は、聖也の腕の中から抜け出し聖也をしっかりと直視した。それから、ほとんどの真実とほんの少しの嘘とを混ぜて、あの日勇利と駐輪場で話した内容を説明した。


聖也と一から始める、そう誓った所なのに、水樹は早くも嘘を付く。うつろで悲しくて、声に気持ちが入らなかった。


「あ、あの、はい、すみません。あの後宇野さんに駐輪場まで送って貰って、そこで話をしました。どうして間宮さんとやり直さないのかって聞いたんです。どう見ても二人ともまだ好き合っていそうだったから・・・。」


「うん。」


「でも宇野さんはそれはないって。間宮さんだって宇野さんが好きなのにどうして新しい彼氏をって思って、わからない事ばかりで苦しくなりました。」


「勇利の彼女な・・・、浮気したんだよ。そして勇利はそれを潔癖に拒んだ。まあ、許せる人間と許せない人間と二パターンいるから別に不思議じゃないけどね。」


「えっ・・・。」


自分だけが知らなかった初めての事実に水樹はショックだった。


「しかも浮気するやつってさ、理由とかなくてさ。だから共感できる部分を探そうとしても意味ねーから。別の場所で生まれた擬似的な恋愛感情に快感を得る。勇利の彼女の事は知らないけどさ、育った環境とか、影響してる事もあるんじゃないかな。」


「はい・・・。」


「白か黒、そのどちらでもない答えのない世界が、きっと俺達の周りには沢山溢れているんだと思うよ。」


「なんとなくですけど、わかるような気がします・・・。」


「水樹は真っ直ぐだから、グレイの部分はないのかもね。」


「あっ、いえっ、私はっ、そんな出来た人間ではっ・・・。ごめんなさい。」


返信された前田礼からのメッセージにも水樹は傷付いていた。


‘宇野さんとのデート楽しんでね’


礼は勘違いをしているのだ。確かに詳細を聞かれなかったので水樹は彼氏の名前を伝えてはいなかったけれど、そもそも勘違いをさせたのは水樹本人で、そしていつも水樹の近くにいた礼が勘違いをする程に、水樹は勇利の事を見ていたんだな、と自覚した。


都合よく全てうまくいったように見せかけていただけだった水樹は、ここで現実を思い出す。勇利の事が好きだったのに、すがるように聖也の手を取り、また今何もなかったかのようにその聖也の胸でドキドキしている悪魔のような自分が許せない。


水樹は、それじゃ駄目だ、と思った。今からでも聖也に誠意で返さないと手遅れになる。そしてずるい事をしてごめんなさい、こんな自分だけど一からお願いしますと、ちゃんと始めて貰いたいと偽りなく望んだ。


「聖也さん、あのっ、聞いて貰いたい事がありますっ。」


「うん・・・。」


「私・・・、宇野さんの事が・・・。」


「うん・・・。」


「好きでした・・・。」

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