100
その夜、聖也は練習前に突如発生したドッチボールの事を思い出しては笑いを堪え、家族と夕飯を取っていた。
そして下のきょうだい達が先に食卓から離れると、今日は早く帰宅している父親が話し掛けてきた。
「来週から学校か?」
「うん。」
「お前の事で心配はないけど、夏には受験だな。本命は決めたのか。」
「附属の大学に・・・行くかもしれない。」
「まあ悪くはないよ。伝統ある良い大学だ。」
「だよね。それか父さんの勤める大学に行くとか。」
「それは好きにしろ。ところで・・・お前彼女いるのか。」
本題はこれか、と聖也は思った。
「ああ・・・。」
「バイト先か?同じ学校か?」
「学校・・・。後輩だけどね・・・。もういい?」
「聖也、お前は出来た長男だと思うよ。でも自分の可能性を先に決めない方がいい。」
「どういう意味?」
「いつか本当に何かしたいと思った時に、役に立つ事が必ずある。だから目指せるだけ目指しなさい。上の大学を。」
「わかってるよ・・・。」
聖也はキッチンに行き冷凍庫の扉を開け、氷を口に乱暴に投げ入れた。そしてガリッガリッと奥歯で噛み砕きながら自室に戻った。
女の事なんて今まで口を挟んで来なかったくせに、ここへ来て急に外野共がうるさい。と聖也はイライラした。
確かに聖也は受験の為の英語のテストを今月2つも控えていた。父親は何も見ていないようで見ているのだ。その上で聖也が今、彼女の事しか頭にない事を指摘したかったのだ。
今まで恋愛をしても成績が下がる事はなかったけれど、父親の心配する気持ちも十分にわかっている。これからは空き時間は全て受験勉強に費やさなければいけない。
そう、ちゃんとしなきゃ。そしてこれは水樹のよく言う口癖だった。
ふっ、ちゃんとって何だよバカヤロー。聖也は鼻で笑った。
聖也にだってちゃんとしなければならない時がある。そして父親と話した事により、聖也の心に新しい変化が生まれたりしたのだろうか。
ここで聖也は大きな掛けに出る。
何かがわかる、何かが変わる。そんな日曜日の訪れを待つ聖也の気持ちとして、期待と不安、どちらでいる事が正しいのだろうか。




