踊る魔剣
こんばんわ、夜神 衣千伽――改めアルフです。
現在は剣術の特訓を行っています。
場所は街道沿いの森付近。
アン・ズーことライラは、夕食を準備してくれている。
そして、オレは握ったシミターを振り続ける。
そう、『シミター先生』の動きに合わせてね。
「そのダンシング・シミターは魔剣です。早く動きに慣れて下さいませ」
「うっす。頑張ります」
そう、アン・ズーが用意したシミターは魔剣だった。
自らの意思で勝手に動いてくれるのだ。
そして、オレはシミター先生の動きに合わせて舞う。
ゆっくりとだが、ひたすらクルクルと舞い続ける。
……ごめん、言い過ぎた。
まだ舞うという程、綺麗な足裁きは出来てないです。
「そのシミターが本領を発揮すれば、ご主人様は凄腕の剣士となるでしょう。もっとも、その動きに付いて行けねば、半人前の腕前しか発揮出来ませんがね」
「うっす。早く慣れるように頑張ります……」
今のオレは盆踊り程度の速度である。
それは、シミター先生がオレに合わせてくれているから。
けど、これは本来の性能ではない。
本来ならソード・ダンスと言う剣技になるんだってさ。
うん、カッコいいよね、ソードダンサーって。
ただ、まだまだ時間は掛かりそうだけどさ……。
「そういや街を離れたけど、オレ達ってどこに向かってるんだっけ?」
……本当に今更の質問だと思う。
けど、オレはアン・ズーに言われるままだから仕方ないよね?
クルクル回るオレに、アン・ズーは微笑みながら答えてくれる。
「南の港町です。海を渡り、まずはフランスを目指す予定です」
「海を渡る? イギリスでは仲間を集めないの?」
イギリスって強い騎士がいそうだよね。
仲間に出来たら心強いと思うのにな。
そんなオレの疑問に、アン・ズーは苦笑を浮かべる。
「今のご主人様では、弱すぎて見向きもされませんよ。それに、この国は魔王軍との戦闘があります。下手に名声を得ると、戦場に送られて早死にしてしまうでしょう」
「それは、おっかないな……」
うん、イギリスなんて早く離れよう。
まずは安全な国で修業なんかが良いだろう。
……とすると、しばらくはフランスに滞在?
花の都パリで、観光なんかも出来るのかな?
「いえ、観光の予定は御座いません。それ以前に、フランスは魔女狩りが盛んですしね。早々に通過してしまう予定です」
「ま、魔女狩りっ……?!」
仮の姿とは言え、アン・ズーは魔法を使う女性。
完全に狩りの対象じゃん……。
……え? ちょっと待って?
そんな国に入って、オレ達って大丈夫なの?
「田舎の方は酷い物ですが、都心はそこまで露骨ではありませんよ。とはいえ、長居するのは賢い選択では無いでしょうね」
「うん、そんな国は早く離れてしまいましょう」
そう、今のオレは弱いのだ。
強い仲間だってまだ居ないのだ。
アン・ズーが居るとはいえ、万全とは言えない。
まずは、『いのちをだいじに』で行動すべきだろう。
「その後は、ローマ――イタリアを経由して、アフリカへと渡る予定です。その頃には、ご主人様も最低限は戦える様になり、仲間集めを開始出来るでしょう」
「仲間集めはアフリカか……」
つまり、黒人選手の獲得ですね。
屈強な戦士が手に入りそうです。
そういや、黒人って奴隷にされてるのかな?
昔のアフリカって、確かそんな気が……。
「多くの国で奴隷制度はありますが、それは自国の犯罪者向け等です。表向きで言えば、黒人の奴隷は認められておりません」
「……表向きで言えば?」
また、アン・ズーさんが含みある言葉を……。
それ、完全に裏では居るって事だよね?
そして、オレの予想は正しかったらしい。
アン・ズーは怪しく微笑みながら答える。
「ええ、非合法の奴隷狩りが存在します。裏ルートでのみ、売買されていますね」
「……もしかして、その裏ルートを使うおつもりで?」
そもそも、アン・ズーって悪魔だしな。
こういう非合法も有りなんじゃないかな?
しかし、今回はオレの予想が外れたらしい。
アン・ズーは冷たく言い放った。
「いえ、奴隷を購入する予定はありません。ご主人様は勇者を目指しているのです。奴隷を堂々と使うのは、リスクが高いだけで効果的とは言えません」
「な、なるほど……」
もしかして、少し怒ってらっしゃる?
向けられる笑顔がちょっと怖いんだけど……。
それって、オレが奴隷を買うと言ったから?
それとも、アン・ズーなら有りって思ったから?
「……ご主人様、ワタクシは退屈な手段が嫌いなのです。奴隷を購入し、奴隷に代わりに戦わせる。それは多くの権力者が使った手段。その事如くが、今では歴史の中に消えております」
「す、すんません……」
オレの短絡的な考えが、お気に召さなかったみたいです。
これは反省しないといけないね。
とはいえ、オレに反省なんて出来るのかな?
アン・ズーの満足する答えを出すなんてさ……。
「ふふふ、その様な心配は不要です。ご主人様を勇者とするのが契約ですからね。立派な勇者として、多くの尊敬を集めてみせましょう。――そう、表向きは王道に見える手段で、です」
「あくまでも、表向きなんすね……」
アン・ズーさん、そこん所は拘るよね。
やっぱり、悪魔のプライド的な感じかな?
オレはクルクル回りながらも、アン・ズーの事をちょっと理解出来た気がした。
<蛇足な補足>
・ヒカルの碁は知っているでしょうか?
あんな関係を書ければと思っています。