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最後の言葉

 人の姿へと戻った国王。

 彼は辛うじて意識を保っていた。


 そして、地に伏せた国王に対し、娘のアイーダ王女が声を掛ける。


「お父様、最後に伺います。どうして、この様な愚かな真似を?」


 その声に、国王の顔が動く。

 何とか娘へ視線を向け、擦れる声で答えた。


「どうして……? 理由など、家族を守る為に……」


 国王は言い掛けて言葉を切る。

 自分の言葉に驚いた表情を浮かべる。


 そして、斬り飛ばされた右腕を見つめて呟いた。


「ならば、何故……。何故、私は娘を殺そうとした……?」


 国王は自分へと問い掛ける。

 混乱した様子で呟き続けた。


「激しい憎悪が沸いた……。身を焦がす憤怒に包まれた……。私は何に、突き動かされていたのだ……?」


「お父様……?」


 心配そうに問掛けるアイーダ王女。

 父親の狼狽する姿に戸惑った様子だった。


 そんなアイーダ王女へ、国王は再び視線を戻す。


「すまない……。取り返しのつかない事をした……。我が愛しき娘よ……」


「そんな……。これまでの行動は、お父様の意思では無かったのですか!」


 倒れた父親へと駆け寄るアイーダ王女。

 その背中にそっと額を付ける。


 嗚咽を漏らす娘の左手に、国王は何とか自らの手を重ねる。


「ああ、私は悪い夢を見ていたらしい……。こんな結果になってすまない……」


「こんなの、あんまりです……! お母様を亡くし、お父様までこんな……!」


 広場を悲しみが包み込む。

 その場の誰もが口を開く事が出来なかった。


 静まり返ったその空間に、国王の囁きが響き渡る。


「そうだ、妻を亡くした時だ……。あの商人が来てからおかしくなった……。あの白い仮面の商人が……」


「白い仮面の商人……?」


 アイーダ王女が父親へ尋ねる。

 彼女はその人物に心当たりが無いのだろう。


 そして、問われた国王は、夢を見る様にぼんやりと答える。


「妻の病気はエジプトの呪い……。エジプトが我が国を滅ぼそうとしている……。そして、エジプトには死者蘇生の秘儀が隠されていると……」


「その言葉を信じたのですが……?」


 父親の言葉にアイーダ王女が驚く。

 父親の顔をまじまじと見つめていた。


 そんな視線にも気付かず、国王は一人で呟き続けた。


「不思議な商人だった……。怪しいのに惹かれてしまう……。危険とわかっても信じてしまう……。あの悪魔の囁きに、私は惑わされたのだな……」


 白い仮面の商人。

 それが、この事件を引き起こした張本人なのだろうか?


 国王の言葉は嘘ではない。

 その魂は澄み渡り、嘘に揺れる気配が無かった。


 そして、その輝きが消える間際に、最後の言葉が残された。


「我が娘アイーダよ……。どうか、幸せに……」


「そ、そんな……。お父様……。お父様……!」


 国王の輝きが失われた。

 その魂が肉体から解き放たれてしまったのだ。


 それが人の死だ。

 失われた魂は、決して元に戻る事はない……。


 その光景に心を痛めていると、不意にアン・ズーの声が聞こえた来た。


『ご主人様、そろそろ限界です……。私はこれより眠りにつきます……』


 ……眠りにつくってどういう意味?

 アン・ズーは寝ないんじゃなかったの?


『ご主人様の中で、霊力回復に務めます……。数日は目覚めないと思われます……』


 ――えっ!

 オレの中で数日間の眠りっ?!


 それって、何だかヤバイ気がする!

 どういう事か説明して下さい!


『申し訳ございません……。それでは、おやすみなさい……』


 その言葉を最後に、精霊の加護が消えた。

 オレの視界が元へと戻ってしまった。


 呆然とするオレは次の瞬間に理解する。

 アイーダ王女の叫びが理解出来ないと。


「通訳機能が、死んだ……?」


 オレはその事実を理解した。

 そして、血の気が引くのを感じてしまう。


 ……どうやら、ここから数日は地獄の日々が待っているらしい。


 オレは助けを求めて視線を這わせる。

 誰ならオレの助けになるかと考え。


 そして、ゾラと視線が合う。

 彼女はただ不思議そうに見つめ返すだけだった。

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