精霊の加護
アン・ズーの加護を得て、オレは精霊の力を一時的に手に入れた。
この力により、まずは見ている世界が完全に別物になってしまった。
人の魂というのだろうか?
霊的な輝きが見える様になったのだ。
それにより、相手の強さが理解出来る。
輝きが強い程強者という事だ。
この場で最も強いのが国王。
バフォメットという暗黒の力を身に纏っている。
「――なるほど。所詮は着ぐるみか」
「なんだと? いや、その力はまさか……」
国王は暗黒の霊気を揺らす。
オレの姿を見て、心の乱れが生じたのだ。
それと同時に気付く。
国王の掲げる右手から、火球へと注がれる力に。
――あの流れを断ち切れば?
オレはシミター先生を軽く振るう。
指と火球の間に、霊力の刃を飛ばした。
「――なあっ?!」
やはり、制御を失った火球は暴発した。
国王の指を軽く焦がしてしまった。
それに慌て、国王がオレに対して構える。
新たな魔法を構築しようとしていた。
「いや、丸見えなんだよな……」
精霊の瞳で見ると、時間の流れが遅く感じる。
魔力の展開が手に取る様にわかる。
なので、相手の魔法の脆い部分。
そこを斬れば、魔法を簡単に防げてしまう。
「ぐあっ……?! き、貴様……。精霊の加護を得た者なのか!」
問いかけながらも策を弄する。
再びアイーダ王女を標的に魔法を展開していた。
しかし、それを許すはずもない。
オレは国王の右手と魔法を斬り飛ばしてしまう。
「ぎぃあぁぁぁ……! こんな、こんな馬鹿な……!」
心の動揺により、化けの皮が剥がれる。
着ぐるみの下を覗きやすくなった。
暗黒の魔力の下に、国王の魂が見える。
ただ、その魂は黒く染まっていた。
「もう、手遅れなんだね……」
ゾラの時の様に救う事は出来ない。
闇を払えば、その魂が崩壊してしまうからだ。
ならばもう、オレに出来る事は一つしかないのだろう……。
「こんな、こんな所でぇぇぇ……!!!」
国王は自棄となって、殴りかかって来る。
勿論、魔法の展開も行いながらだ。
しかし、オレは静かに剣を振るう。
その魔力と魂を、一閃して絶ち斬った。
「な、あ……?」
禍々しい魔力が吹き飛ぶ。
そして、魂から闇の個所を斬り飛ばした。
それにより、国王は悪魔バフォメットの姿を維持出来ずに崩れ落ちる。
「せめて、苦しまずに逝ってくれ……」
人の姿に戻り、床へと倒れる国王。
その姿を見下ろし、オレはそっと目を閉じた。