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クシュ国の王

 余が更けて、皆が寝静まった時間。

 石造りの宮殿を、オレ達はゆっくりと進む。


 特殊な訓練を受けているらしく、エジプト軍の皆さんは夜目も効いているらしい。


 先行する皆さんは明かりも無く進み続けた。

 オレ達はその開かれた道を進むだけだった。


 なお、一部廊下では明かりもあった。

 しかし、その場には崩れ落ちた兵士の姿が……。


 エジプト軍の皆さんは、暗殺者の様に音も無く敵兵を切り伏せていた。


「ふむ、やはり気付かれたみたいですね……」


 唐突に、先頭を進むアン・ズーが呟く。

 どうやら、敵の動向を魔法で探っていたらしい。


 アン・ズーの隣を歩くラダメスさん。

 彼はアン・ズーへと小声で質問する。


「気付いたのはクシュ王でしょうか? 警備状況はどうなっていますか?」


「王の魔法で気付いたのでしょう。隊長クラスも動き出したみたいですね」


 クシュ王国の軍は魔法使いが中心である。

 その国王も当然ながら魔法の使い手だ。


 そして、この世界では強者が支配者となる。

 国王とは最強の戦力という事を意味する。


 その為、元より暗殺は不可能なのだ。

 夜襲は味方の被害を最小に抑える目的でしかない。


「城内の広場へ移動しています。そこで我々を迎え撃つ様ですね」


「予定通りですね。それでは、このまま広場に向かいましょう」


 そう、こうなる事は予定通り。

 決着はクシュ王とラダメスさんの戦いで決まる。


 大将による決着は両軍共に望むもの。

 無駄に戦力を消耗せずに済むからである。


 それ程までに、この世界ではクラス一つの差が大きいのだ。


「順調、ですね……」


 アン・ズーはポツリと呟く。

 しかし、その声色はどこか硬く感じられた。


 予定通りなのは良いはずだ。

 なのにその声は、何か不安を感じさせる物だった。


 一抹の不安を抱きつつ、オレ達は目的地へと向かう。

 城の一角にある広場へと。


「ふん、やはり来たか。エジプトの手先共が……」


 松明を手にした複数の兵士達。

 その中央に一人の中年男性が立っていた。


 黒目黒髪の浅黒い肌。

 手入れされた豊かな髭を持つ四十前後の偉丈夫。


 彼は黒い軍服姿だった。

 服の豪華な装飾から、その立場も感じられた。


 そんな彼に対し、ラダメスさんが前に出て問い掛ける


「クシュ王――アモナスロだな?」


「いかにも。余がこの国の王、アモナスロである」


 国王アモナスロも一歩前に出る。

 尊大な態度で、ラダメスさんを睨み付けた。


 声は冷静だが、その瞳は怒りに燃えている。

 そして、憎しみが滲み出ている様だった。


 国王は腰の剣をゆっくりと抜く。

 その剣は――西洋のサーベルだった。


「軍服にサーベル……? その装備はもしや……」


 アン・ズーの呟きに、国王はニヤリと笑う。

 ただ、反応はそれだけだった。


 ラダメスさんも腰から剣を抜く。

 こちらは中近東で主流のシミターである。


 そして、ラダメスさんは油断なく構えながら、相手へと問い掛ける。


「念の為に聞いておく。投降する気は無いのだな?」


「愚問だな。投降する理由がなかろう?」


 その返答と共に、国王の体を陽炎が包む。

 恐らく、あれも魔人化なのだろう。


 ゾクリと背筋に悪寒を感じた。

 国王から感じられる、禍々しい気配によって。


 そして、ふと脳裏を何かが掠める。

 オレはこの気配を、どこかで感じた気が……。


「さて、始めるとしよう」


 先に動いたのは国王だった。

 彼は残像を残す速さで、ラダメスさんへ切り掛かる。


 そして、その攻撃をラダメスさんは受け流す。

 それと同時に、反撃の刃が閃く。


「おっと、危ない危ない……」


 身を捻り、難なくかわす国王。

 距離を取りながら、複数の火球を生み出し放つ。


 しかし、ラダメスさんはシミターを一閃。

 それによって火球は掻き消された。


 飛散する火の粉は気もせず、ラダメスさんは更に鋭い踏み込みを行う。


「はあぁぁぁっ!」


「ふん、小癪な!」


 目の前で、高レベルな攻防が繰り広げられる。

 恐らく、この戦いにオレは手出しが出来ない。


 下手に助けようとすれば足手まといとなる。

 瞬時に国王に切り伏せられるだろう……。


 それ程までに、その攻防は凄まじかった。

 遠目から見て、何とか目で追える速さなのである。


 ……これでも、少しは成長したつもりだったんだけどね?


 そして、相手との実力差に気落ちしたのはゾラも同じらしい。

 彼女も隣で、悔しそうな表情を浮かべていた。


「あの二人は強い……。私ではまだ、あの域には届かない……」


 手を強く握り締め、歯を食いしばる。

 その状態で、必死に目の前の攻防を凝視する。


 その戦いを少しでも経験に変えようと、自らの糧にしようと考えている様だった。


 クシュ王国軍、エジプト軍の両軍が見守る中、二人の大将が激しく打ち合いを続けていた。

<蛇足な補足>

・シミター:

 アラビア、ペルシャ起源の湾曲した刀の総称。

 中近東に見られる、わずかに曲がった細身の片刃刀。

 エジプトやアラビアなどではシャムシール、西洋ではシミターと呼ばれ、

 西洋のサーベルなどに影響を与えたといわれる。

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