強さの指標
オレ達はラムフィス大臣の屋敷に集まった。
明日の襲撃作戦前に最終確認を行う為だ。
そして、場を仕切るのはラダメスさん。
作戦立案及び当日の指揮を行う人物だからね。
「では、作戦会議を始めます。まずは、現状の戦力分析から」
ラダメスさんが参加者に視線を送る。
その場の全員が、ラダメスさんへ頷きを返した。
なお、エジプト軍からは、ラダメスさんの他に五名の隊長さんが会議に参加している。
いずれも浅黒い肌を持つ偉丈夫である。
また、金属製の鎧で身を固めていた。
クシュ王国からは、ラムフィス大臣。
それに、アイーダ王女と護衛の戦士が二名。
クシュ王国側の戦士は襲撃メンバーでは無い。
エジプト軍の足元にも及ばない実力なのだとか……。
最後に、オレとアン・ズー。
それに、今日はゾラも会議に参加している。
ゾラは魔人化を使いこなす戦士だ。
エジプト軍からしても、遊ばせるには勿体無い戦力らしい。
「襲撃に参加するのは、ここのメンバー全員です。更には、城の周辺に潜伏させた、エジプトの精鋭部隊が100名となります」
100名という人数は少なく感じるかもしれない。
けれど、この時点では誰も反応を示さなかった。
それというのも、重要なのは数では無く質だからだ。
その事を、この場の全員が理解しているのである。
「この100名は全員が隊長クラスです。クシュ城の戦力は1000名ですが、殆どが兵士クラスですので、戦力的には負ける事が無いでしょう」
「隊長クラス……?」
ラダメスさんの説明に、ゾラがポツリと呟いた。
首を傾げている事から、ゾラには馴染みがない言葉らしい。
……勿論、それはオレも同じである。
オレはゾラに、ナイスアシストと内心で拍手を送る。
そして、ラダメスさんは真剣な表情でゾラへと説明を行う。
「魔法や法力を高いレベルで使う者は、その多くが軍隊に所属します。その中での階級として、一般的には将軍、隊長、兵士に分かれます。更に細かく言えば、その中でも上級、中級、下級に分類されますので、九段階で強さが分けられると考えて下さい」
なるほどね。
そう考える事で、おおよその戦力が計れるってことか。
オレが内心で頷いていると、ゾラは隣に立つアン・ズーへと尋ねた。
「ライラ様、私の強さはどうなりますか? それと、ラダメス殿の強さは?」
おっと、いきなり切り込んで来たね。
まさかのマウント取りとかじゃないよね?
オレは内心でハラハラするが、アン・ズーはいつもの微笑みで軽く答える。
「今のゾラなら中級隊長クラス。ラダメス殿は上級隊長クラスでしょうね」
流石に軍の指揮官だけあり、ラダメスさんはゾラの上を行くみたいだね。
しかし、ゾラはその辺りは気にならないらしい。
アン・ズーへ更なる質問を行う。
「では、魔王は上級将軍クラスでしょうか? 今の我々では、届かない相手という事になりますか?」
「――っな! 魔王ですって……?」
ゾラの質問に絶句するラダメスさん。
その他の参加者も似た表情だった。
しかし、気にした様子の無いゾラへ、アン・ズーも気にせず答えを返す。
「いいえ、魔王は更にその上に立つ者です。今の我々では、足元にも及ばないでしょう」
「ふむ、そうなのですか……」
ゾラは難しい表情で考え込む。
どうやら頭の中は、未来の敵で一杯の様だ。
そして、ラダメスさんは動揺を浮かべながら、アン・ズーへと問い掛ける。
「もしや、ライラ殿とアルフ殿は、魔王討伐を目標とされているのですか?」
「ふふふ、最終目標はそうなります。まだまだ、戦力は不足していますがね」
アン・ズーの返しに周囲がざわめく。
ただ、どちらかというと良い反応ではない。
本気で言ってんのか?
っていう、心配する様な雰囲気に近い……。
しかし、ラダメスさんだけは、笑顔でアン・ズーへ声を掛ける。
「おお、それはファラオもお喜びになるでしょう! 是非とも頑張って下さい!」
「「「…………っ!!??」」」
周囲の反応がさっきより凄い。
皆が目を見開いて、驚いてるんだけど……。
やっぱ、ラダメスさんは立場あるからね。
胡散臭いオレ達と違ってさ……。
そして、周囲の反応に苦笑を浮かべ、ラダメスさんは話を戻す。
「さて、話を戻します。兵の戦力は我々が上回っています。そして、クシュ王の力は高く上級隊長クラスとの事ですが、これには私が当たれば何とかなるはずです」
「同格ではないのか? 本当にどうにかなるのか?」
ゾラが再び首を捻っている。
ナイスアシストに、オレは再び心の拍手を送る。
ラダメスさんは再び、ゾラに対して説明を行ってくれた。
「クシュ王は魔法の使い手です。それに対し、我々エジプト軍は全員が法力の使い手。同格であれば、法力の使い手の方が有利なのですよ」
「……そうなのか?」
ゾラは首を捻って考えている。
彼女にとっては、経験上ピンと来ないらしい。
村にはどちらの使い手もいたはず。
それでも、ゾラには理解出来ないのかな?
「まあ、完全に同格の相手と戦えば、僅かに法力が有利と言う程度ですしね。それに、襲撃を受けた動揺などで、心が乱れると不利な状況となるでしょうから」
「ふむ、それならば私でも理解できる話だな」
ゾラが腕を組んで頷いている。
どうやら、彼女もようやく納得したらしい。
そして、ラダメスさんは笑みを浮かべ、アン・ズーへと尋ねる。
「それと皆さまは、私のサポートをお願いします。多少の想定外は、対処してくれるのでしょう?」
「ええ、そちらについてはお任せ下さい」
どうやら、オレ達はラダメスさんの補佐らしい。
アン・ズーがサポートに付くなら安心だね!
それに、オレとゾラも少しは役立つはず。
お守り程度の効果はあると思うよ?
オレの気持ちが通じたのか、ラダメスさんはオレにも微笑んでくれた。
そして、更に細かな作戦を説明し始める。
「それでは、行動開始と合図についてですが……」
こうして、オレ達はラダメスさんの立てた作戦を頭に詰め込んでいく。
そして、日が暮れるまでゆっくり休んだ後、襲撃先戦へと移行したのだった。