ゾラとの付き合い方(戦闘編)
クシュ王の襲撃まで少し時間が出来た。
エジプト軍の準備に五日ほど必要との事らしい。
そして、オレ達は思い思いに空いた時間を使う。
気楽に旅してるけど、街での自由時間は久々かもね!
……ただし、今のオレは何故か草原にいる。
ゾラから修行に付き合えと、誘われてしまったんだよね。
なお、ラザーちゃんは宿でお留守番である。
女将さんに頼み込んで、今は料理を教わってるよ!
「さあ、行くぞアルフ!」
手足を魔人化させ、やる気満々のゾラ。
腰を落としてこちらへ飛び掛かる。
うん、やっぱゾラの動きは早いね。
オレの目では、完全に追いかける事が出来ない。
しかし、辛うじてシミター先生が対応してくれる。
ゾラの魔法の爪を受け流してくれた。
「ふふふ、油断してはいけませんよ?」
そして、隙の出来たゾラに、アン・ズーが忠告する。
それと同時に、ゾラへと魔法の攻撃を開始した。
そう、この戦いはオレへのサポート有り。
アン・ズーさんの支援が付いているのである。
なお、使う魔法は『土の槍』。
地面から高質化した槍が飛び出してきた。
「なんの、まだまだ!」
ゾラは身を捻り、腹部を狙う攻撃を回避。
更なるアン・ズーの追撃にも、バク転で距離を取った。
……いや、ゾラの動きが凄すぎる。
サーカス顔負けのアクロバットなんですが?
実はゾラが魔人化した状態での訓練は初めてだ。
だが、今の動きだけで、その強さは物凄く理解出来た。
アン・ズーと二人掛かりで何とかって感じ。
シミター先生の力でも、オレ一人ではまず無理だろう。
というか、今までは魔法抜きの模擬戦しかしていない。
それが何故、今日は魔法有りに変わったんだろうか?
「はははっ、二人とも流石です! こんなに楽しいのは初めてだ!」
「ふふふ、まだ全力ではないのでしょう? ここからが本番ですよ」
――って、まだ全力じゃないのっ?!
アン・ズーさん、ゾラを煽らないでよ!
めっちゃ、目が爛々と輝いてるじゃん!
嬉しそうな表情のゾラに、オレは嫌な予感を覚える。
絶対にこれ、アカン状態になる奴や……。
案の定、ゾラは更にギアを上がてきた。
獣を思わせる動きで、オレへと突撃してくる。
「ふふふ、させませんよ?」
ゾラも凄いのだが、アン・ズーも負けていない。
ネチネチとした小技が嫌らしすぎる。
足元に穴を開けたり、目の前で火花を散らしたり。
完全に嫌がらせに徹している……。
ただ、そのお陰でオレは、何とか対応出来てるんだけどさ。
「くっ、何と言う巧の技! この様な戦い方があるとは!」
アン・ズーの嫌がらせに、何故か嬉しそうなゾラ。
その表情は、遊んでもらってる子犬の如しだ。
手足は魔人化により、黄金色の毛並みを纏っている。
尻尾まで生えていたら、絶対にブンブンと振っている事だろう。
……とはいえ、ゾラはそんな可愛い相手ではない。
襲われているオレからしたら、野生のライオンと何ら変わりない。
「おや、これも避けますか? では、これならどうですか?」
「うわっ、そんな死角から! やりますね、アン・ズー様!」
背後からの攻撃にも、難なく対応するゾラ。
……むしろ、どうやって今のを感知したし?
そして、無理な姿勢で回避したゾラに、シミター先生も追撃する。
アン・ズーとの連携は凄いが、シミター先生も容赦ないよね?
――と、攻撃直前に、雷の矢が出現した。
急な攻撃にオレは焦るが、シミター先生はそれをあっさり切り捨てた。
「あははっ、私の切り札を防ぎますか! 流石です、未来の我が夫よ!」
いや、今のは完全に不意打ちだった。
シミター先生だから良かったものの……。
ってか、ゾラは普通に魔法でも攻撃するんだね。
獅子モードでの肉弾戦オンリーでは無いって訳か。
「ふふふ、甘いですね。魔力の制御が乱れていますよ?」
「なんの、まだだっ!」
容赦ないアン・ズーの攻撃が続く。
それを猫の様にしなやかに回避するゾラ。
アン・ズーも今日は魔力の大盤振舞みたいだ。
かつて無い程に、多くの魔法を行使している。
オレは二人の楽し気な攻防に頑張って付いて行く。
そして、二人の気が済むまで付き合い続けた……。