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アイーダ

 ラダメスさんから紹介したい人がいると言われた。

 その人物こそが、戦争回避の鍵を握る人物なのだとか。


 そういう訳で、翌日にオレ達はある屋敷へ招待された。

 そこでオレ達は重要人物を紹介される事となる。


 その人物は、オリーブ色の肌を持つ、二十歳程の綺麗な女性であった。

 ラダメスさんはその女性と並び、オレ達へと彼女を紹介してくれる。


「彼女はアイーダです。この様な恰好ですが、この国の王女です」


「初めまして、アイーダです。皆様の事はラダメスから伺っております」


 紹介されたアイーダさんは儚げに微笑み頭を下げる。

 王女と言う事だが、その態度に横柄な雰囲気は感じられない。


 そして、アイーダさんは質素な白い服を着ていた。

 飾り気の無い服装で、ぱっと見は召使さんみたいだった。


 オレは内心でアイーダさんの服装を不思議に思う。

 しかし、ラダメスさんはそれに気付かず、もう一人の紹介を行う。 


「そして、彼はラムフィス殿。この国で政を行っている大臣となります」


「ラムフィスです。国王に代わり、行政の取りまとめを行っております」


 ラムフィスさんは、五十歳程の高齢の人物だった。

 そして、眼鏡を掛けた、厳しい視線の持ち主でもある。


 ラムフィスさんも軽く頭を下げる。

 しかし、その態度はアイーダさんと違い、警戒心が感じられた。


 ラムフィスさんは頭を上げ、ラダメスさんへ疑う様に問い掛けた。


「ラダメス殿、昨晩の話は間違いないのでしょうね?」


「ええ、間違いありません。ファラオのお墨付きです」


 ラムフィスさんの問いに、ラダメスさんが力強く告げる。

 それでラムフィスさんも、一応は納得した様で頷いていた。


 そして、ラダメスさんはオレ達の事も簡単に紹介してくれた


「こちらがお話した、アルフ殿とライラ殿です。従者の方々は別室に案内しています」


「ライラと申します。アルフ様は諸事情により話す事が出来ません。ご理解頂ければと」


 アン・ズーの説明に、ラムフィスさんが静かに頷く。

 疑問に思う様子も無いし、先にラダメスさんが説明してたのかな?


 ああ、ちなみにゾラとラザーちゃんは別室で待機だ。

 重要人物との密会なので、人数は厳選している感じだ。


 互いに挨拶を終え、オレ達は席へと案内される。

 そして、ラダメスさんは続けて話を始めてくれる。


「まず、ラムフィス殿は戦争反対派。アイーダ王女も同じく反対派です」


「戦争等しても、得る物がない。むしろ、負けて失う物が多いだろう……」


 険しい表情を浮かべるラムフィスさん。

 彼の言葉に、アイーダ王女も静かに頷いていた。


 そして、ラダメスさんはアイーダ王女に視線を移して説明を続ける。


「それと、アイーダ王女の格好は、国王の警戒が強い為です。召使に変装しないと、城から抜け出す事も出来ませんのでね」


「なるほど。この街の状況では、それも納得ですね」


 ラダメスさんの説明に、アン・ズーが頷く。

 良くわからないが、一応はオレもそっと頷いておく。


 ……ただ、至る所に居る兵士達は国王の目だと思う。

 きっと、見つかれば王女でも連れ戻されるって所かな?


 そんな事を考えていると、アン・ズーがラダメスさんへ問い掛けた。


「それで、賛成派と反対派の構成は?」


「まず、賛成派は権力者で七割、国民では三割です。反対派はほぼその逆。大多数の国民は、望んでいないという事になります」


 その説明を聞き、何故かアン・ズーが難しい顔をする。

 そして、ラダメスさんへ鋭い視線を向ける。


「軍事関係者の構成は?」


「……九割が賛成派です。残り一割も、表立って反対出来ない状況ですね」


 その回答にアン・ズーが無表情で頷く。

 彼女からすると、予想していた回答だったみたいだった。


 ……というか、軍事関係者は団結してるんだね。

 理由はわからないが、完全に戦争をする気な訳だ。


 そのやり取りに、室内が重い空気で満たされる。

 しかし、そんな状況の中でアン・ズーは何かを考え続ける。


「つまり、国王の号令で戦争は可能……。この国の民では止める事も難しいと……」


 アン・ズーの呟きに、誰も反論の言葉を口にしない。

 ラダメスさん達も同じ考えと言う事だろう。


 そして、今の状況は流石にオレでもわかる。

 この世界ではクーデターが簡単に起こせないという事が。


 魔法や法力を使えない一般人では、簡単に反旗を翻せない。

 例えテロを起こしても、簡単に軍隊に鎮圧されるだけだからだ。


 一般人に出来る事なんて、命がけのストライキくらいだろう……。


 状況を考えて、オレまで重い気持ちになる。

 しかし、そんな中でも、アン・ズーはラダメスさんへ問う。


「それで、どうするのです? 我々に何を求めているのですか?」


 今回の相手は国とその軍隊である。

 ポルトガル相手の時と違い、派遣部隊の一部等ではない。


 城攻めをするにも、ゲリラ的な各個撃破も難しい。

 この状況では、少数のオレ達に出来る事なんて限られている。


 ――しかし、ラダメスさんは二っと笑みを浮かべた。


「エジプトから精鋭部隊が向かっています。アイーダ王女を旗印に、国王を誅殺します」


「簡単ではないが……出来なくも無いか……」


 ラダメスさんの言葉を、アン・ズーは目を細めて反芻する。

 アン・ズーさんの脳内シミュレートが行われているのだろう。


 そして、アン・ズーさん的には可能という判断みたいだ。

 それ程、無茶な作戦では無いみって事みたいだね。


 しかし、アン・ズーは鋭い視線をラダメスさん向ける。


「仮に上手くいったとして、その後の統治は? アイーダ王女が王の代わりに?」


 どうやら、アン・ズーはクーデーター後の心配をしている様だ。

 確かにクーデターが成功しても、その後の事も考える必要があるよね。


 そして、アン・ズーが視線を向けると、アイーダさんは視線を逸らす。

 どうも、アイーダさんは統治者として自信が無いみたいだ。


 そんなアイーダさんに代わり、ラダメスさんが胸を張って答える。


「ラムフィス殿と私で支えるつもりです。当面はそれで何とかなるでしょう」


「当面は何とかなる? その後は、どうするつもりなのですか?」


 アン・ズーさんが渋い顔をしている。

 少々、ラダメスさんの回答内容にご立腹らしい。


 確かに今の発言だと行き当たりばったりに聞こえる。

 先の事まで考えて無さそうに聞こえるよね?


 だが、何故だかラダメスさんは、照れた様子で説明を行う。


「あー、その……。私とアイーダ王女は、そういう感じでして……。ゆくゆくは、私が国王になる予定なんですよね……」


「なるほど……。そこまで、筋書きが出来ているのですね……」


 アン・ズーは疲れた様子で息を吐く。

 どこか呆れた雰囲気が体全体で滲み出ていた。


 そして、見ればアイーダ王女も顔を赤らめる。

 どうもこのお二人は恋仲だったらしい。


 アン・ズーは額をトントンと叩きながら、シミュレーション内容を口にする。


「エジプト関係者が国王となる……。エジプトの統治でなく、あくまでも婿として迎える……。ファラオは後援者としての立場を取ると……。はあ、ここまでお膳立てされているなら、我々の力など不要ではないですか……」


 アン・ズーが再び、冷たい視線をラダメスさんへ向ける。

 ラダメスさんは苦笑を浮かべた後、表情を引き締めて答える。


「ええ、何も無ければその通り。――しかし、ファラオからの指示です。保険の為に、皆様に同行して貰う様にと……」


「ふむ……」


 アン・ズーもその言葉に何やら考え込む。

 じっくり考えているらしく、何も反応を示さなくなった。


 そして、ラダメスさんは、そんなアン・ズーを不安げに見つめる。

 ファラオの指示した意図は、ラダメスさんも知らないのだろうか?


 ……結局、アン・ズーは皆に何も告げなかった。

 モヤモヤした気持ちを残しつつ、今日の密談は終わりを迎えた。

<蛇足な補足>

・アイーダとラダメスのモチーフは、オペラ「アイーダ」。

 エジプトとエチオピアのご当地オペラだとか。

挿絵(By みてみん)

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