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クシュ王国

 オレ達はガーナを離れ、馬車に乗って東へ移動した。

 元来た北へ向かわなかったのは、サハラ砂漠を避けてる為である。


 そして、現在はエチオピアへと到達し、ナイル川沿いを北上している。


 そんな旅の道中に、オレ達はクシュ王国へと立ち寄った。

 特に用事がある訳ではなく、補給と宿のベッドが目的である。


 ……ただ、街に入ると、馬車から見る風景は奇妙だった。

 何というか、戦争でもしているのかっていう物々しい雰囲気なのだ。


「ライラ様、何やら街が殺気立っていませんか?」


「ええ、周囲から警戒の視線を向けられています」


 ゾラの問い掛けに、御者台のアン・ズーが答える。

 周囲から向けられる視線に、二人も周囲を警戒している様子だった。


「アルフ様……」


 不安そうなラザーちゃんは、オレのマントを握りしめていた。

 その不安を晴らそうと、オレは彼女の頭をそっと撫でる。


 ……そして、ギロリと睨んで来るゾラ。


 睨む理由については、アン・ズーに代理で問い掛けて貰った。

 しかし、黙秘権を行使され、その理由は教えて貰えなかった……。


 オレは内心でビクビクしながら、ゾラから視線を逸らす。

 そして、ラザーちゃんのに視線を落とし、その笑みに癒して貰う。


 ――あ、ちなみに、オレとアン・ズーの本名を隠している。


 ゾラとラザーちゃんの二人には、アン・ズーから名を隠す様に伝えている。

 厄介ごとを呼び込まない為、基本的に旅の間はアルフとライラなのだ。


 ……と、急にアン・ズーが馬車を止め、近くのアラブ系商人に話し掛けた。


「もし、そこの主人。何やら物々しいですが、理由をお尋ねしても?」


「ああ、同郷の方かね。この辺りの情勢を知らずにやって来たのか?」


 その人は、食材を扱う店の店主らしかった。

 浅黒い肌を持つ、高齢の商人である。


 そして、同郷と言った事から、彼もバビロニアの出身みたいだね。


「余り大声では言えんが、国王がエジプトと戦争する気みたいでね……」


「エジプトとの戦争? この国の王は正気ですか?」


 主人の答えに、アン・ズーが戸惑った様子を見せる。

 どうも、今のは戸惑いは演技では無さそうだ。


 そして、アン・ズーの態度に、店主も苦笑を浮かべる。

 アン・ズーの戸惑いに、主人も共感を覚えた様だ。


「ああ、本気みたいだよ。国王は今の立場が気に入らんのだろうね」


「それは残念な事です。エジプトからの恩恵が理解出来ないとは……」


 店主も同意らしく、腕を組んで疲れた様に頷いていた。

 この地を治めている王様は、余り良い王様では無さそうだ。


 その後、アン・ズーはいくつか尋ね、礼を述べて馬車を動かす。

 今の会話について考えていると、アン・ズーが説明を始める。


「この地は東に農耕地帯、西に鉱物資源を抱えています。それをエジプト経由で交易し、代わりに東の文明を取り入れる事が出来ていました。いわばこの国は、エジプトと共に栄えた国と言えるのです」


 そう言えば、この国への道中には、小さなピラミッドがあった。

 エジプトの真似かなと思っていたが、あれも文化を取り入れた結果なのだろう。


「更にはエジプトの真南に位置し、友好関係にある国です。軍事的に強固なエジプトを恐れ、欧州や中東も手を出しません。今までは他国から、侵略を受けずにやって来れたのです」


 友好国であり立地的に恵まれたって事だね。

 それは確かにエジプトからの恩恵と言えるね。


 ただ、何でそんな国が戦争を仕掛けるのだろう?

 ここの国王は馬鹿なのだろうか……?


「本来なら感謝すべきと思うのですがね。しかし、実質的にこの国は、エジプトの属国に近い状況です。恐らく現国王は、それを快く思っていないのでしょう……」


「愚かな事ですね。食うに困っている訳でも無いでしょうに」


 アン・ズーの説明に、ゾラが険しい顔で頷く。

 国王の考えに怒りを感じているご様子だ。


 ゾラって思った以上に正義感が強いのだろうか?

 それとも、戦士としての吟じとか有るのかな?


 二人のやり取りを聞き、ラザーちゃんも寂しそうに呟く。


「沢山の人が傷付きますよね……。もっと、平和な世界なら良いのにな……」


 オレはラザーちゃんの言葉に同意する。

 戦争なんてしてないで、皆が手を取り合えば良いのにね。


 悲しそうなラザーちゃんの、その頭をそっと撫でる。

 そして、即座にゾラに睨み付けられる。


 ……無言で睨むの止めてくれない?

 何がそんなに気に入らないのさ?


 確かに、オレが撫でるのを止めれば睨まれないのだろう。

 しかし、それは出来ない相談というものである……。


 目の前に子犬や子猫がいて、撫でないという選択肢があるかな?

 いや、無い。これは、それと一緒なのだ。


 オレは内心でそっと息を吐く。

 そして、ゾラから視線を逸らし、ラザーちゃんを撫で続けた。

<蛇足な補足>

・この時代のクシュ王国はエチオピアだった。

 しかし、現代の地理だとスーダンとなる。


・古代エジプトとクシュ王国が共栄したのは史実。

(ただ、戦争したりとか色々な時代がありますが)

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