【幕間】ゾラの物語
<注意>
ここまでの投稿内容を見直したいと考えています。
ここからは更新頻度が週2日となりますのでご了承下さい。(更新:水・土)
私の名前はゾラ。
アシャンティ族とポルトガル人の混血児として生まれた。
そして、私は父の血を色濃く継いだ。
髪は金色で、瞳の色は青かったのだ。
アシャンティ族にとって、その髪と目の色は憎しみの対象でしかなかった。
私は村の中で常に一人だった。
親代わりの族長の助けを除けば……。
『あんたの姿は異端なのさ。受け入れられたきゃ、力を示すんだね』
幼少期に告げられた言葉。
その族長の言葉は私を傷付け、心を逞しくした。
私はこの世に一人の異端児だ。
自分の力で戦って行くしかないと理解した。
そして、私は辛い修行にも耐えた。
族長の元で誰よりも強い力を手にした。
……ただ、結果は望む物では無かった。
私はやはり受け入れられなかった。
誰も表立って言わなくなっただけだ。
誰も私を仲間とは思っていなかった。
それもそのはず。
アシャンティ族が受けた怨嗟は、それ程に深いのだから。
憎しみの象徴を持つ私が、アシャンティ族で認められるはずが無いのだ……。
だから、私は心を無にする事にした。
自らの感情を殺し続ける事にしたのだ。
族長から受けた恩もある。
そして、力の生かし方が、他に無かった事もある。
私は自分と言うものを殺し、ただ村を守る戦士として生きる事を選んだのだ。
どうせ誰にも必要とされない。
ならば、こう生きるしかないと思ってだ……。
しかし、そんな私にも転機が訪れる。
アン・ズー様が私の前に現れたのだ。
族長から話は聞いていた。
かつての飢饉で、多くの村を救った精霊がいると。
人間の友と二人で旅をし、世界中で困っている人々を救う方々が存在すると。
その片割れである精霊がアン・ズー様だ。
村に今でも伝われる精霊様なのだ。
……私を試していたのか、出会った時には素性を明かしてはくれなかったが。
アン・ズー様は族長へと告げられた。
ポルトガルの相手に手を貸したいと。
族長はそれを歓迎し、すぐに行動を開始した。
たった五日で全ては終わった。
巧みで繊細な魔法にも驚いた。
しかし、それ以上の驚きがその智謀であった。
アン・ズー様の頭の中では、敵も味方も全ての情報が揃っている様であった。
作戦は既に組み立てられており、アン・ズー様の指示通りに動けば良かった。
そうして、この地を支配していた、ポルトガルの者達を追い出す事が出来た。
精霊という存在は、私達とは異なる次元の存在という事なのだろう……。
更に、アルフも只の剣士では無かった。
アン・ズー様が認める存在だからな。
その剣の腕も素晴らしかった。
だが、それ以上に剣技の美しさに驚かされた。
舞う様に剣を振るう。
相手を倒す為で無く、魅せる為の剣を振るうのである。
それはまるで遊びに誘うかの様な、私を踊りに誘うかの様な剣技なのである。
楽しかった。嬉しかった。
友と遊ぶ感覚とは、こういう感じなのかと思った。
その時点で既に、私は彼に心惹かれていたのかもしれない……。
そして、私が真に惚れたのは、私の心が怒りで染まったあの砦の一件である。
あの醜悪な父親の存在が、私の心を破壊した。
全てが壊れてしまえと願った。
それにより、私の力は暴走した。
魔に飲まれ、魔人へと落ちてしまったのだ。
本来ならば救う事など出来ない。
しかし、あの御二方は救う術を持っていた。
――私の心へと入り込み、私を憎しみから解放してくれたのである。
あの暗い闇こそが、私の心だった。
封じ続けていた本当の気持ちだったのだ。
誰にも理解されず、誰にも求められない。
諦めが生んだ、心の闇だったのだ。
けど、アルフはそんな私を見つけ、こう言葉を掛けてくれた……。
『ゾラは悪くない。ゾラは醜くない。ゾラはゾラのままで良いんだよ?』
その言葉を聞いて、私の心は理解した。
これこそが、私の求めていた言葉だと。
族長は幼い私に強くなる事を求めた。
しかし、それは私の求める言葉ではない。
私は認めて欲しかった。
私はここに居ても良いのだと、認めて欲しかったのだ。
あの時に求めた答えが、今になってようやく与えられたのである……。
そして、私は救われた。
私は本当の意味で、私と言う人間になれたのだ。
その上、アルフは私を求めてくれた。
私が必要だとハッキリ告げたのだ。
今でもあの感動は忘れない。
この先生きている限り、決して忘れないだろう。
私に告げてくれた、アルフのあの熱い告白を……。
『夢の中でも伝えたけど、改めて言うよ。オレ達と一緒に着いて来て欲しい』
『旅の目的は魔王討伐。その為の戦力を集めていて、ゾラの力も貸して欲しい』
魔王とは人類を脅かす存在。
その魔王を倒す旅をしていると告げて来た。
驚きはしたが、納得も出来た。
そして、私の力が役立てるならと思った。
だが、話はまだ続いていた。
アルフの思いはその先に続いていた。
『これまで悲しい思いを沢山したよね? でもオレは、ゾラにそんな思いはさせない』
『それと、オレはこう思う。その髪は黄金より、その瞳はどの宝石よりも美しいと』
唐突に話の流れが変わった。
そして、急に褒められて思わず照れてしまった。
この髪も瞳も、忌むべき存在でしかなかった。
それが急に褒められたのだ。
それでもう、私の心はぐらついていた。
既に平静な状態ではいられなかった。
……それなのに、続けて全てを吹き飛ばす、力強い告白が私へと発せられた。
『魔王を倒したら結婚しよう。オレと幸せな家庭を築いてくれないか?』
唐突なプロポーズに唖然とした。
アルフは私に向けて、手を差し出していた。
この私に告白だと?
女である事も、家庭を築く事も諦めていた、この私に?
私は戸惑ってアン・ズー様を見た。
すると、何も問題ないと頷いて下さった。
アン・ズー様が認めてくれた。
それによって、私は安心してその手を掴めた。
――そう、私はアルフの妻となる事を決心したのだ。
今にして思えば、私の人生はこの為にあった。
この出会いの為にあったのだ。
そう思うと不思議と心が熱くなる。
かつてない力が身に宿るのを感じるのだ。
私はこの先も戦い続ける。
だがそれは、今までの様に心を殺す戦いでは無い。
アルフの力となる為に、彼の障害を打ち払う為に、この力を振るうのである。
二人の幸せな未来の為、私は必ず魔王を倒すと心に誓ったのだ。