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戦士ゾラ

 日暮れ前に夕食を食べました。

 今は就寝前のくつろぎタイムです。


 今日はアン・ズーとラザーちゃんも一緒。

 皆一緒で寂しくないよ!


 なお、場所は借りた小屋。

 今日はもう、早めに就寝するつもりだ。


 ――そして、明日は夜明け前に砦を襲撃する予定。


 奴隷狩りの拠点。

 近隣にある大きな施設を一つ潰す計画なのだ。


 そして、オレもその襲撃メンバー。

 トゥトゥさん達と砦攻めだ。


 トゥトゥさんの手配で、近隣の村からも戦士が集められている。


 砦の戦闘員は50名前後。

 それ以上の戦力が集結する事になっている。


「――邪魔をする」


 入口の布を押し上げ、突然ゾラが入って来た。


 そして、その姿にオレは驚く。

 彼女の身に着ける、その装備が原因だ。


 茶色っぽい鱗で覆われた鎧。

 それで全身をガッチリ固めているのだ。


 どこぞのハンターが身に着ける、ドラゴン製の鎧に見えるのだが……。


「ん? ああ、この鎧が気になるか。これは皇帝鰐製エンペラー・クロコダイルの鎧だ。族長から譲り受けた逸品だな」


 ゾラは事もなげに告げる。

 それに反応したのはアン・ズーだった。


「おや、あの時の皇帝鰐ですか? ふふふ、懐かしい品ですね」


 ……ちょっと待って。

 その皇帝鰐って何なんですかね?


 何やら、アン・ズーさんも関わっているご様子ですが?


『過去に池の主となった鰐が暴れまわっていましてね。それをトゥトゥ達と討伐したのです。その時の素材で、トゥトゥは鎧を作ったみたいですね』


 池の主を討伐っ?!

 ってか、名前からして絶対強い奴だよね!


『罠を仕掛けて動けなくし、精鋭メンバーで攻略しました。あれは、過去に類を見ない程の強敵でしたね』


 そういうゲーム知ってる!

 完全にハントして装備作るやつじゃん!


 その話を詳しく教えて!

 そういうの、オレもやってみたいんだけど!


『ご主人様には、まだ早いかと……。ふふふ、過去の話は砦の攻略後にでも』


 くぅ、やっぱ主はまだ無理なのか。

 めっちゃ、狩ってみたいのに……。


 けど、思い出話はしてくれるみたい。

 今はそれで我慢しておくか……。


「それで、こんな時間にどうされました? 明日の作戦に変更でも?」


 アン・ズーの問いに、ゾラは姿勢を正す。

 そして、畏まって答える。


「いえ、作戦に変更は御座いません。しかし、事前に互いの実力を、知るべきと思いまして」


 そして、ゾラの視線がオレに向く。

 その視線はとても鋭い。


 ……え?

 もしかして、オレの腕試しをご所望ですか?


「なるほど、それは必要でしょう。ですが、明日がありますので魔法は無し。怪我の無い範囲でお願いします」


「承知しました。それでは、表で待っています」


 頭を下げ、小屋を出るゾラ。

 つか、アン・ズーへの敬意が凄いな。


 これって、トゥトゥさんが言っていた、精霊ってのに関係するのかな?


『この土地の民族には、天使や悪魔の概念がありません。超常の力を持つ霊的存在を、一括りに精霊と呼んで信仰しているのです』


 なるほどね。

 それでアン・ズーの事も、信仰の対象として敬ってるのか。


 ……それは良いとして、腕試しはやらないと駄目っぽいですか?


『ゾラは村で一番の強者。その実力は見ておくべきでしょう。……とはいえ、トゥトゥの弟子なので、その本領は魔法にあるはず。魔法無しの戦いであれば、ご主人様でも問題無いかと』


 一番の武器である魔法が無し。

 だから、何とかなるって事なのかな?


 まあ、魔法や法力が無ければ、シミター先生が何とかしてくれるか……。


 オレは渋々納得し、小屋の外へと出る。

 流れ的に戦いは避けられないしね。


 そして、その後ろから、アン・ズーとラザーちゃんも付いて来ていた。


 見れば村の広場でゾラが待っていた。

 オレは剣を抜いて彼女へ近づく。


「アルフ殿の武器はその剣か。私は武器を持たない主義だ。遠慮せずに掛かって来い」


 そういうと、ゾラは素手で構えを取る。

 柔道を思わせる構えだった。


 つまり、ゾラのスタイルは格闘技。

 打撃や投げが主体と考えられる。


 相手は素手だけど大丈夫?

 オレはシミター先生が無いと戦えないけどさ……。


 そして、躊躇するオレに対し、ゾラは躊躇なく踏み込んで来た。


「来ないなら、こちらから……!」


 ギョッとする早さだった。

 法力込みのルキウス兄様より早いかもしれない。


 しかし、その攻撃はシミター先生が避けてくれる。

 更に反撃の刃も加える。


「ふっ、そう来なくてはな!」


 ゾラは嬉しそうに笑みを浮かべる。

 野生を思わせる荒々しい笑みだったが。


 そして、手甲でシミター先生を受け流す。

 流石にまともに受けはしなかった。


「良い動きです! 村の男達よりも巧みな技です!」


 シミター先生の剣技が気に入ったらしい。

 合わせる様にゾラも円舞する。


 ……ってか、シミター先生の動きに合わせられるの?


 ゾラの本領って魔法なんだよね?

 いやいや、いくら何でも強すぎない?


 内心で動揺するオレを他所に、ゾラは楽しそうに笑い声を上げる。


「はははっ、アルフ殿は楽しそうに剣を振るう! 私まで楽しくなってしまうではないか!」


 ギアを一段上げるゾラ。

 それに合わせ、シミター先生も加速する。


 高速の円舞が繰り広げられる。

 見る人が見れば、美しく見えただろう。


 ……けど、オレの内心は冷や冷やだ。

 一歩間違えば大怪我である。


 流石にこれって、腕試しってレベルじゃない気がするんだけど……。


「――そこまで」


 アン・ズーの声が静かに響く。

 その声により、オレ達もダンスを終える。


 物足りなげなゾラに対し、アン・ズーは優しく笑みを向ける。


「互いの腕は確認出来たでしょう? 今日はここまでにしておきましょう」


 ゾラは一瞬、子供の様な表情を浮かべた。

 しかし、それもすぐに消える。


 ゾラは表情を引き締め、アン・ズーへと頭を下げた。


「はい、実力は申し分ありませんでした。アルフ殿であれば、背中を預けられます」


「満足して頂けた様で良かったです」


 いや、全然満足してないよね?

 どう見ても、続けたがってたよね?


 しかし、アン・ズーは無視する。

 まあ、続けられても困る訳だけど……。


 オレが内心でツッコんでいると、ゾラの視線がオレに向く。


「明日の戦いは期待してくれ。必ず勝利を捥ぎ取ってみせよう」


 ゾラの力強い言葉に、オレは頷いておく。

 その実力を疑うつもりはない。


 けれど、何故かゾラは自嘲気な笑みを浮かべた。


「……この通り醜い姿だ。私には戦う事しか出来ないのだからな」


 ……は?

 醜い姿ってどういうこと?


 ゾラはハーフである。

 黒肌を持つが、容姿はどちらかと言うと白人寄り。


 金寄りの茶髪も、青い瞳も悪くない。

 普通に綺麗な子だと思うけど……。


 オレは内心で首を傾げる。

 しかし、ゾラはそれに気付かず去って行った。


 ――と、アン・ズーの呟きが聞こえた。


「……見えた!」


 何事かとアン・ズーを見つめる。

 彼女はゾラの背中を見つめていた。


 ……何が見えたんですかね?

 良からぬ企みでなければ良いけど。


 若干の不安を抱えつつも、オレは明日に備えて眠る事にした。

<蛇足な補足>

・ゾラの名前の意味は「夜明け」。

 アフリカの方々が、実際に使われている名前。


・ゾラのモチーフはポケモン剣盾のサイトウ(格闘ジム)。

 歴代のジムリーダーで一番好き。次点はタケシ(岩ジム)。

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