表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/73

アシャンティ族

 アン・ズーが見つけて来たのは、白い布で顔を隠した少女だった。

 顔はまったく見えないが、白いマントから覗く手足は細かった。


 身長はオレより少し低い。

 しかし、纏う空気は戦士の様だった。


 そんな少女に案内され、オレ達は森の中の小さな村へ辿り着く。


「族長へ話を通してくる。お前達はここで待っていろ」


「ええ、よろしくお願いします」


 馬車に乗ったオレ達を残し、少女は村の中へと消えて行く。


 そして、目の前には槍を手に持つ男性が二人。

 この村の門番みたいだ。


 彼等の服装は布を巻いた簡素な物だ。

 少女の様に厚着はしていない。


 彼等から警戒気味な視線を向けられるが、それ以外は特に行動も無い。

 オレは暇つぶしも兼ねて、村の様子を観察する事にした。


 見える建物は、簡素な木製の小屋。

 木を寄せ集めて縛った様な作りだ。


 そんな建物が五十軒程度だろうか?

 そこまで大きな村ではなさそう。


 そして、数人の子供と女性達の姿が見える。

 彼女達は家事等をしている。


 物珍しさはあるが、普通の村だろうと感じた。

 これが彼等の日常なのだろう。


 ……と、こちらへ戻って来る少女の姿を発見した。


「族長がお会いになるそうだ。案内するから着いて来い」


「ありがとう御座います。馬車はここへ停めておきますね」


 アン・ズーは二人の門番へ告げる。

 その門番達も静かに頷いていた。


 そして、オレとアン・ズーは村へと向かう。

 ラザーちゃんは留守番だ。


 なお、ラザーちゃんは布で顔を隠している。

 白人とバレると面倒だからだ。


 急に襲ったりしないだろうけど、彼等を刺激するのは避けたいからね。

 なお、仮に襲われたとしても、黒王号が撃退する物と予想している。


「……お前達は、族長と知り合いなのか?」


 少女は前を歩きながら、オレ達に話し掛ける。

 視線だけをこちらに向けていた。


 そんな少女に、アン・ズーは微笑みながら答える。


「ええ、過去に少しばかり……」


 アン・ズーのぼかした回答に、少女はそれ以上の質問を断念したらしい。

 少女は前を向き、無言で静かに歩き続けた。


 てか、過去っていつでしょうね?

 アン・ズーの見た目はニ十歳な訳だが?


 そんな事を考えていると、オレ達はすぐに目的の小屋へと辿り着く。


「族長、客人を連れて来た。中に入るぞ」


 少女は返事を待つ事無く、中へ踏み込んでいった。

 そういう文化なのかね?


 オレ達も少女に続く。

 小屋には扉は無く、ただ布が掛けられているだけだった。


「――おやおや、懐かしい魔力を感じるねぇ」


 小屋の中には黒人の老婆が座っていた。

 ニコニコと笑みを浮かべながら。


 詳しくはわからないが、かなりの高齢だろう。

 顔はしわだらけだった。


 そして、身に着けるのはカラフルな布。

 オレンジ中心の明るい布地だ。


 首元や腕には黄金の飾りが見え、彼女の地位が高い事を感じさせた。


「トゥトゥ、変わりない様ですね。息災で何よりです」


「ふぇっふぇっふぇっ、アン・ズー様は随分と御変わりの様ですけどね」


 アン・ズーの挨拶に笑いながら答える。

 族長の名はトゥトゥさんらしい。


 てか、アン・ズーの事を知っている?

 姿違うのに良くわかったね……。


 アン・ズーはトゥトゥさんの前に座る。

 オレも促されてそれに倣う。


 オレが座ると、アン・ズーはトゥトゥさんへと尋ねた。


「ポルトガル相手に苦戦していると聞きました。少々、助力しても宜しいですか?」


「おやまあ、これは嬉しいね! また、アン・ズー様と戦えるなんてさ!」


 トゥトゥさんは目を見開く。

 そして、本当に嬉しそうに笑みを浮かべていた。


 しかし、すぐにその笑みは苦笑へ変わる。

 そして、入口に控える少女を見る。


「……と言った物の、私ももう歳でねぇ。戦士達を率いているのは、そこのゾラなのさ」


「そちらの少女が、今の戦士長なのですね?」


 全員の視線がそちらに向く。

 少女はその視線に、身を僅かに硬くしていた。


 対応に困った様子の少女――ゾラ。

 トゥトゥさんは、顎をしゃくって告げる。


「ゾラ、顔を見せな。この方々なら問題無いからね」


「……わかった。族長の判断に従おう」


 トゥトゥさんの言葉で、ゾラが布を剥がす。

 そして、その素顔を晒した。


 その素肌は浅黒い色。

 しかし、髪は短い金髪で、瞳は青色をしていた。


 ゾラは口を一文字に閉じ、睨む様にオレ達の事を見ていた。


「見ての通り、ゾラは混血なのさ。母親は弄ばれ、衰弱して早死にしてね。それで、私が親代わりに育て上げたのさ」


「なるほど、トゥトゥが育てたのですか。道理で良い戦士に仕上がっている訳です」


 アン・ズーに褒められ、満更でも無い様子だ。

 楽しそうに笑い声を上げる。


 そして、その様子にゾラは戸惑う。

 二人の関係が理解出来ていないのだろう。


 まあ、アン・ズーの素性を知ってるオレも、大して理解はしていないんだけど……。


 ――と、そこでトゥトゥさんは、厳しい視線をゾラに向ける。


「姿形に惑わされるんじゃないよ。アン・ズー様は精霊なのさ。精霊眼で見れば、あんたにもわかるだろう?」


「――っ?! 確かにこの力は、精霊様の持つもの……」


 ゾラは血相を変え、その場で膝を付く。

 そして、アン・ズーへと頭を下げた。


 しかし、アン・ズーはゆっくりと首を振る。


「その様に畏まらなくて良いのですよ。ワタクシは、この地の精霊ではありません。貴方達へ加護を与える存在では無いのですからね」


「何を仰いますやら! 我々の部族がアン・ズー様に、どれだけの恩を受けたことか!」


 トゥトゥさんは信じられないという様に、オーバーなアクションを見せる。


 そんな態度に、アン・ズーが苦笑して見せる。

 ちょっと困った感じだった。


「トゥトゥ、その話は止めましょう。貴女も薄々は気付いているのでしょう?」


「――これは失礼しました。私とした事が、配慮に欠けていたみたいです……」


 アン・ズーの言葉で、トゥトゥさんの態度が変わる。

 畏まって頭を下げた。


 その態度に、アン・ズーは頷いて返す。

 そして、話題を変えてしまう。


「それでは、本題へと移ります。この地を取り戻す為、作戦会議を始めましょう」


「ふぇっふぇっふぇっ、年甲斐も無く血が騒いじまうねぇ!」


 アン・ズーとトゥトゥさんは笑みを浮かべる。

 それは本当に楽しそうに。


 二人の様子には強い繋がりを感じる。

 二人の間に何らかの歴史がある為だろう。


「さあさあ、ゾラもこっちに来な! あんたも参加するんだよ!」


 トゥトゥさんに呼ばれ、輪に加わるゾラ。

 その瞳には強い意志が宿っていた。


 ゾラにも辛い過去があるのだろう。

 何らかの思いがあるだろう。


 多くの疑問を胸に抱くが、それは改めてアン・ズーに聞く事にしよう。

 今は彼女達の輪に加わり、作戦の内容を頭に入れる事にした……。

<蛇足な補足>

・アシャンティ族

 ガーナ南部と隣接するトーゴ,コートジボアールに居住する

 アカン諸族の一民族。


 初めは森林地帯に住む小民族であったが,18世紀,火打石銃の

 導入を利して強力なアシャンティ王国を形成した。


 やがて近隣のアカン諸族を従えてアシャンティ連合を結成し,

 奴隷,金,銃などの交易に基づくその繁栄は,1901年イギリスに

 征服されるまで続いた。


 社会組織の基礎は母系出自に基づくが,儀礼などには父系の要素もみられる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ブクマ・ポイント評価お願いしまします!
小説家になろう 勝手にランキング

script?guid=on
cont_access.php?citi_cont_id=614561884&size=300
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ