再会の約束
昼食を食べ終えたオレ達は、そのまま旅に戻る事となった。
修道院へ来た目的はジャンヌさんを届ける為。
その目的は果たせた。
それ所か、聖女であるユリアさんの後ろ盾まで得る事が出来たのだ。
これでもう、思い残す事も無く、旅立てるというものである。
次なる目的地はアフリカ。
そこでようやく、戦力も増強されるのだろうか?
――と、馬車へ向かうオレに、見送りのユリアさんが近寄って来る。
オレの耳元へ顔を近づけ、そっと日本語で囁いてきた。
「ねえ、最後に話さなくて良いの……? しばらく会えないんだよ……?」
ユリアさんは背後に視線を送る。
そこにはジャンヌさんが立っていた。
オレは首を傾げながら、ユリアさんの問いに答える。
「見送りに来てくれてますし、そりゃあ最後に挨拶はしますけど?」
見送りにはルキウス兄様も来ている。
最後に全員へさよならはするつもりだ。
しかし、どうもユリアさん――いや、明子さんの様子がおかしい。
「そっかー、イチカ君は思春期の男子だもんね。そりゃ、そんな感じだよね……」
ユリアさんはオレから離れる。
そして、ジャンヌさんの元へと向かう。
そして、先程と同じように、ジャンヌさんの耳元で何かを囁きだした。
すると、ジャンヌさんの顔が赤く染まる。
あれは何をしてるんだろう?
明子さんはジャンヌさんの手を引く。
そして、オレの元へと連れて来た。
狼狽えた様子のジャンヌさん。
何故か二人は、小声で言い争いを始める。
「ほら、年上なんだから……。ここは勇気を出して……!」
「し、しかし聖女様……。流石にそれは、恐れ多いと言いますか……」
状況が良くわからない。
誰か説明してくれないかと周囲に視線を送る。
アン・ズーは何故か背を向けている。
そして、プルプル肩を震わせている。
ラザーちゃんはポカンと口を開けている。
同じく状況がわからないらしい。
ルキウス兄様は呆れ顔だった。
ユリアさんを、困った様子で見守っていた。
「ちゃんと言わないと後悔するよ……? 彼が戻って来なくて良いの……?」
「うぅ……。わかりました……。やるだけ、やってみます……」
そして、ジャンヌさんがオレと向き合う。
真剣な視線をオレに向ける。
……ただ、何故か真っ赤な顔でプルプルしてる。
涙目だけど大丈夫かな?
「ア、アルフ様、これまで大変お世話になりました。私は受けたこの恩を、決して忘れる事は無いでしょう」
修道院に着く前日にも聞いたよ?
改めて言う必要あったかな?
状況がよくわからないので、ひとまず空気を読んで頷いておく。
「そして、このジャンヌの身も心も、全てアルフ様の物です。アルフ様の御心のままに、この人生を費やす所存で御座います」
それも回復後に聞いたやつだね。
同じ境遇の人の救済に努めるってやつ。
ちゃんと忘れてないよってこと?
その辺りは別に疑ってないんだけど。
「旅の目的を果たされましたら、必ずここへお戻り下さい。その時は、――アルフ様の望むものを、全て差し出させて頂きます」
……え?
もしかして、遺品のペンダントを返してくれるの?
アン・ズーが話を通した?
それとも、明子さんが大切な品と伝えたかな?
おお、これはラッキーだ!
どうやって返して貰うか、悩んでいたからね!
「ですので、必ず戻るとお約束頂けるなら、どうかあの時と同じ様に……」
ジャンヌさんはその場で膝をつく。
そして、自らの頭をそっと差し出した。
もしかして、頭を撫でろってこと?
オレが声で返事出来ないから?
状況的に仕方がないか……。
皆の前では、少し恥ずかしいんだけど……。
オレは周囲の視線に耐える。
羞恥心を抑え、ジャンヌさんの頭を撫でた。
ほうっと息を吐くジャンヌさん。
何やら緊張の糸が切れた様子だった。
そして、強い視線に気付く。
明子さんが、親指を立ててウインクしていた。
「そ、それでは、そろそろ宜しいでしょうか? 名残惜しいですが、これで出発としましょう」
アン・ズーの声で謎イベントが終了する。
オレ達は馬車へ乗り込んだ。
そして、馬車の荷台から、見送りの明子さん達へ手を振る。
「それでは、一日でも早い再会を心待ちにしております」
「次に会う時は、魔王軍と戦える強さを得ておくのだぞ」
明子さんはユリアさんに戻っていた。
聖女スマイルで手を振っている。
ルキウス兄様も良い笑顔で、こちらにサムズアップしていた。
しかし、ジャンヌさんは俯いた状態で、こちらに手を振っている。
何となくフラフラして見える。
体調が悪いとかで無いと良いけど……。
オレは手を振り続けた。
皆の姿が見えなくなるまで。
そして、オレが荷台に腰を下ろすと、アン・ズーが問いかけて来た。
『ところで、ご主人様にとって、ジャンヌさんはどの様な存在でしょうか?』
オレは御者台のアン・ズーを見る。
彼女は顔だけこちらに向けていた。
急にどうしたんだろう?
お別れした事で、何か思う所があったのかな?
……そうだな。
ジャンヌさんは若くて綺麗な――お母さんって感じかな?
オレは隣に座るラザーちゃんを見る。
きっと彼女も、同じ感想だろうね。
しかし、何故かアン・ズーは身を屈める。
お腹を押さえて蹲ってしまった。
「ライラさん、どうかしましたか?」
「い、いえ……。何でもありません……」
心配そうに問うラザーちゃん。
しかし、アン・ズーは何でもないと首を振る。
どうしたのだろう?
悪魔でもお腹が痛くなったりするのだろうか?
時々、アン・ズーも不調になるしね。
そういう日もあるんだろうね。
そして、オレ達は馬車に揺られ、のんびりと旅を再開したのだった。