情報交換会
全員揃ってのランチです。
周囲には修道院の皆さんもちらほら。
ユリアさん、ルキウス兄様は貴族だけど、ここでは身分とか気にしないらしい。
他では違うという事を、こっそりアン・ズーが教えてくれたよ。
「さあ、兄弟よ肉を喰え。戦士ならば、もっと筋肉を付けねばな」
「お兄様? アルフさんは、ローマの戦士ではありませんわよ?」
オレの両隣に座る兄妹。
さっきから、めっちゃ話し掛けて来る。
なお、今のユリアさんは聖女モード。
今日はルキウス兄様がグイグイ来る。
「ああ、それと本来のローマ戦士は、先ほどの様に綺麗な戦い方はしない。拳や足も使う実践向きな戦い方を好む。イギリスの騎士みたいに戦い方に拘らず、勝ちに拘るので勘違いするなよ?」
別に負け惜しみという訳ではないらしい。
軽い口調で忠告をくれる。
悔しさは感じないので、先ほどの戦いは本気では無かったのかもね。
とりあえず、オレが頷くと楽しそうに肩を叩いて来る。
「だが、ユリアから聞いた話では、実践は数か月前からだそうだな。それを考えれば、凄まじい才能だと言える。このまま努力を重ねて励むと良いだろう」
うん、そこはオレの才能では無い。
けど、言わない方が良いんだろうね。
アン・ズーも、オレが口を滑らさない様にじっと様子を伺ってるし……。
てか、ルキウス兄様には返事が出来ないんだけどさ!
「それと、オレの実力はローマ貴族では平均程度。魔王軍の将とは本気で戦っても、単騎で勝つのは難しいだろう。実力が付くまでは、出会っても戦いを挑んだりするなよ?」
「お父様かユリウス兄様なら、単騎でも勝てるかもしれませんけど……。まあ、魔人の方々とは、一対一で戦うべきでは無いでしょうね」
時々、話に出て来る魔王軍か。
その将ってのは魔人ってことだね。
強さはやはり、イギリスの殺人鬼よりも強いくらいなのかな?
『いえ、あれは成り損ないです。本物と比べれば、足元にも及ばないかと』
アン・ズーからの声が頭に届く。
オレの考え違いを指摘してくれる。
てか、アレでも弱いってこと?
初めの方とか、動きが見えなかったんだけど?
「そう言えば、貴殿等はイングランド王国から来たのだろう? あちらの騎士団について、何かしらの情報は持っておらぬか?」
「噂程度であれば聞いております。騎士団長の虎の子である、円卓の騎士が北欧で活躍していると。その助力が無ければ、欧州はより厳しい状況になっていたでしょうね」
……ん? 円卓の騎士?
それって、アーサー王物語の?
てか、あれって史実では無くて、作り話って聞いた事がある様な……。
『はい、国王は別の人物です。しかし、騎士団長の名はアーサー。この人物は、ご主人様と同郷の可能性が御座います』
マジかー。
異世界転生してアーサーを名乗っちゃうかー。
でも気持ちはわかる。
イギリスで騎士の家なら、オレでもやっちゃう。
同郷の人間に出会う事なんて、その時には考えもしないだろうし……。
「北欧の心配はしていたが、それならしばらくは大丈夫か? とはいえ、そこが崩れるとアルビオンに後が無い訳だが……」
「ええ、北欧およびイングランド王国が落ちれば、その勢いで欧州は飲まれるでしょう。やはり、ローマ皇帝に働きかけて、欧州連合を結成するべきだと思うのです」
ユリアさんの強い口調に、ルキウス兄様が難しい表情を浮かべる。
……てかさ、けっこうヤバい話してない?
欧州ってそんな危険な状況なの?
オレが内心で焦っていると、アン・ズーがくすりと笑う。
「イングランド王国では少々伝手が出来ております。我々が祖国へ戻った後には、少しばかり動きがあるやもしれませんね」
「何だと? 其方の祖国とはもしや……」
ルキウス兄様が狼狽える。
アン・ズーの顔をまじまじと見つめる。
そして、ユリアさんも考えこむ。
眉を寄せて難しい顔をしていた。
……うん、アン・ズーさん。
前から気になってたけど、祖国って何処なの?
『時が来たらお伝えします。もうしばらく、お待ち頂ければと……』
おうふ、またお預けかー。
ただ、トーンからすると友人関係かな?
ナイーブな話しっぽいから、あまり深くも踏み込めないんだよな……。
オレがモヤモヤしていると、急にユリアさんがハッと顔を上げる。
そして、オレとアン・ズーを交互に見ながら、擦れる声で呟いた。
「ライラさん、もしや貴女は……?」
ユリアさんの問いかけに、アン・ズーはただ静かな微笑みで返す。
否定も肯定もしない。
しかし、それでユリアさんは納得したらしい。
「……わかりました。我々は我々で、環境を整えておきましょう」
二人だけで何やら通じ合ったご様子。
ルキウス兄様も困り顔を浮かべている。
いつも通り、オレは置いてけぼり。
寂しくなって、そっと視線を隣に逸らす。
「……え? どうかしまたか、アルフ様?」
もきゅもきゅとパンを食べていたラザーちゃん。
首を傾げて問い掛けて来る。
その姿に癒される。
オレの寂しい気持ちが、すっきりと消え去ってしまう。
オレはゆっくり首を振り。
そっと手元の料理に手を伸ばすのだった。
<蛇足な補足>
・この先、数名程度の転生者が出て来る予定です。