聖女の素顔
翌朝、朝食を食べ終えると、さっそくユリアさんにお呼ばれしました。
そして、案内されるままに移動する。
どうやら、完全に二人きりになるらしい。
それは良いが、ルキウス兄様が睨んでいたのが、とても気になるんですが……。
「では、どうぞ自由に座って下さい」
「うん、それは良いんだけどさ……」
どうして、扉に耳を付けてるの?
もしかして、外の物音を確認してる?
しばらくそうして、満足したらしい。
頷きながらこちらへ向かってくる。
そして、オレの手を強引に引き、共に中央のテーブルに着く。
「ねえ、イチカ君って高校生だよね? いやあ、やっぱ初々しくて良いねー。本物の高校生って、本当に久々だわー」
「は……?」
テーブルに肘を付き、相好を崩すユリアさん。
雰囲気が何だかガラリと変わった。
先程までの聖女然とした、清楚な雰囲気が吹き飛んでしまっている。
「あ、初めに言っとくね。生まれ変わる前の私は、中川 明子って名前。三十歳でOLやってたんだよね。いやー、貴族の家庭に転生したのは良いんだけど、やっぱ息苦しくってさー。あ、二人っきりの時は明子さんって呼んで良いからね?」
「そ、そうっすか……」
何これ、どういうこと?
キャラが違い過ぎるんだけど……。
あははーと朗らかに笑うユリア――もとい、明子さん。
オレが戸惑っていると、明子さんは楽しそうに話を続ける。
「生前は転生物とか良く読んでたけど、まさか自分が聖女に転生するなんてねー。まあ、楽しくやれてるから良いんだけどさー。――あ、イチカ君もそういうの読んでた? その恰好からして、アラビアンナイトとか好きなの?」
「あ、はい。転生物のラノベは読んでましたよ。ただ、アラビアンナイトが特別に好きな訳じゃないです。これは、ライラからの借り物ってだけで……」
テーブルに身を乗り出す明子さん。
楽しそうなマシンガントークだ。
というか、これが素なの?
仲間を見つけてテンション上がってる?
「それにしても、イチカ君も災難だったねー。ネガティブ系の召喚物でしょ? よく闇落ちしなかったよねー。ライラさんのお陰かな? まあ、それ抜きにしても、そんな状態から人助けの旅なんて、イチカ君って本当に良い人なんだねー」
「あ、いえ……。ライラに助けて貰って、そう見える様に、振る舞ってるだけで……」
明子さんは、悪い人では無いのだろう。
ただ、ちょっとハイペース過ぎるよね?
付いて行くのが難しい。
何となく、親戚のおばさ――いや、これ以上はよそう。
「あ、それと重要な確認があった。あのペンダントの意味わかってる?」
「国宝に贈られるってのですか? その事なら知っていますけど……」
アン・ズーの予想通り質問が来た。
というか、急な角度から攻めてくるな……。
上手く対応出来た気はしないが、何故か満足そうにうんうんと頷いている。
「うん、お姉さんそういうの好き。むしろ、大好物です。イチカ君って年上好きだったりするの? ほれほれ、お姉さんに話してみ?」
「いえ、そういう訳で……も、ありますけど……」
否定しかけ、ふとアン・ズーを思い出す。
そう、今のオレに否定権はない。
お姉さんに甘やかされたい等と、密かな願望を持っていたんだからね……。
恥ずかしくなって俯くオレ。
何故か、明子さんは体をクネクネさせていた。
「良い! イチカ君、凄く良いね! もう、お姉さん応援しちゃう! 困った事があったら、何でも助けてあげちゃうから!」
「は、はあ……。それは、どうも……」
助けてくれるのは嬉しいが、その姿でハアハアしないで欲しい。
顔と中身のギャップが凄すぎて、どうして良いかわからなくなる。
そして、ご機嫌な明子さんは、サムズアップしてウインクをする。
「ジャンヌさんの事は、心配しなくて良いからね。私がしっかり面倒見てるから。だから、旅が落ち着いたら、必ず戻って来るんだよ?」
「わかりました! ジャンヌさんはオレの大切な人です! 宜しくお願いします!」
オレは笑顔で頭を下げる。
紆余曲折あったが、やっと本来のゴールに辿り着いた。
始終ペースを乱されたが、これでアン・ズーの計画通りに事は進むだろう。
アン・ズーの友達の遺品も、最終的には返して貰わないとだしね……。
オレと明子さんは、共に笑顔を浮かべる。
しかし、急に彼女があっと声を出した。
「そういや言い忘れてた。ルキウス兄様から伝言があったんだ」
「伝言……?」
何だろう、凄く嫌な予感がする。
少し前に、睨まれてた訳だしね……。
そして、苦笑を浮かべる明子さん。
オレの予感は的中していた。
「この後、剣を持って広場に来いってさ。実力を見定めるって言ってたよ?」
「……やっぱ、そういう流れかー」
オレはガクッと肩を落とす。
明子さんは笑いながら、オレの肩をペシペシ叩いた。
<蛇足な補足>
・明子さんは喪女や干物女の疑惑が……。
・作者は聖女への転生物も大好きです。
悪意は無いので、辛辣なコメントは御控え下さい……。