大切な贈り物
修道院で質素な夕食を頂きました。
そして、今日は早めに就寝です。
ちなみに、オレは個室です。
アン・ズーとラザーちゃんは隣の相部屋。
当然っちゃ当然の部屋割りだけど、一人で寝るのは少し寂しいね……。
消灯済みの部屋でベッドに寝ころぶ。
すると、アン・ズーから声が届いた。
『お休み前に申し訳ありません。話しておきたい事が御座います』
おや、こんな時間に何だろう?
まだ、眠くないから大丈夫だよ!
それで、話しておきたい事って何ですかね?
『ご主人様が、ジャンヌさんへ贈ったペンダントについてです。本来であれば、もっと早くに話しておくべきでした……』
ペンダントって、あの青い石の?
金色の粒が混ざって綺麗だったね。
……てか、もしかして、勝手にあげたりしたら不味い物だったのかな?
『はい、あれは普通の宝石ではありません。素材はラピスラズリですが、魔力や法力を流すと模様が浮かぶ、特別な品となっております』
ラピスラズリって何だっけ?
結構高価な宝石だったりするのかな?
それに、模様が浮かぶってのは?
魔法の道具みたいな物なのかな?
『はい、その認識で問題ありません。ただし、高価さは重要ではありません。あれは我が祖国で、国宝と認められた者に贈られる品だったのです』
……はい?
国宝と認められた者に贈られる?
いやいや、何でそんな物があるの?
アン・ズーさんって国宝なの?
『いえ、あれは我が友の遺品です。正しく言えば、ご主人様の身に着けている物は、全て我が友が身に着けていた品となります』
……ごめん。
ちゃんと確認せずにプレゼントしてしまって。
友達の遺品って事は、大切な物だよね?
謝って返して貰った方が良いかな?
『まさに、その事が本題です。本来は取り戻す予定でしたが、事情が異なってしまいました。あのペンダントは、ジャンヌさんに預けておくべきでしょう』
取り戻す予定でしたってのは気になるけど、事情が異なってしまったってのは?
アン・ズーにとっても大切な品なのに、預けた方が良くなったのって何でなの?
『聖女がその価値に気付いたからです。それ程の貴重品をご主人様が贈った。その事で、聖女の中でジャンヌさんの価値が跳ね上がったのです』
ジャンヌさんの価値が跳ね上がった?
あのペンダントを持っている事で?
それってどういう意味?
持ってるだけで、凄い効果があるペンダントなの?
『そうではありません。ご主人様が、あのペンダントを持っていた。それだけで、この国では一目置かれる存在となります。しかし、それを道中に出会った女性に贈った。その偶然を、聖女はとても良い方向で解釈した様なのです』
んんん?
ユリアさんが、良い方向に解釈した?
いまいち理解出来ないな?
オレの意中の相手と誤解させたとか?
『その可能性も考慮はしています。ですがそれ以上に、ご主人様の善性を確信した様です。他人に施しを与える事が出来る人物。自らの地位やお金の為に動かない人物。――そう、欲ではなく、善意で行動出来る人物なのだと』
オレが善人に映ったって事か。
なら、それはアン・ズーの計画通りだね。
だから、取り戻して悪印象を与えるより、預けたままが良いって事かな?
『ええ、その通りです。聖女はご主人様と交友を深めたがっています。その一環で、ジャンヌさんを手元に置き、自らの庇護下に置こうとも考えています。ですので、未来への投資の意味も込め、このコネクションは維持するべきでしょう』
……うーん。
コネクションについては、正直良くわからない分野だ。
ただ、ユリアさんがジャンヌさんの、後ろ盾になってくれるんだよね?
そういう意味なら、オレとしても嬉しい話と言えるかな!
『ふふふ、ご主人様はその認識で宜しいかと。恐らく、明日の朝にでも聖女からコンタクトがあるでしょう。ペンダントについては、上手く話を合わせておいて下さい』
うん、了解。
意味を知って贈ったって方が、ジャンヌさんの為だろうね。
ユリアさんと話す時には、大切な人だから宜しくねって伝えておくよ。
『はい、その様にお願いします。それで、ジャンヌさんの地位も安泰でしょう』
まあ、このくらいの演技は今更だしね。
ジャンヌさんの為なら安い物だ。
……と、そういや気になる事があった。
アン・ズーに質問があるけど良い?
『ワタクシに質問? それは、どの様なものでしょうか?』
うん、アン・ズーの友達ってどんな人だったの?
国宝に認められたんだよね?
やっぱ、凄い人だったのかな?
『――そうですね。とても、凄い人でしたよ』
おや?
アン・ズーの声が暗くなった気がする……。
もしかして、話したくない内容?
無理に聞こうとは思わないんだけど……。
『……少し、ワタクシにも心の整理が必要な様です。この話はいずれまた』
うん、それで良いよ。
アン・ズーが話したいと思ったらでね。
それじゃあ、今日はもう良いかな?
何も無ければ寝てしまうけど?
『ええ、重要な話は御座いません。それでは、お休みなさいませ……』
うん、お休み。
それじゃあ、また明日ね!
そして、オレとアン・ズーの会話は終わる。
オレはベッドの上で目を瞑る。
アン・ズーの変化を心配しながらも、今日の所はそっとする事にした……。
<蛇足な補足>
・ラピスラズリは和名が「瑠璃」。
聖なる石とか、幸運を招く石と言われている。
(仏教では七宝の一つとも)