聖女との会話
オレとユリアさんは向かい合う。
そして、オレは日本語で語り始めた。
「えっとさ、まずオレはイギリスで、勇者召喚みたいなので呼ばれたんだよ。けど、言葉も話せないし、『偽装』スキルも見えなかったみたいで、役立たずって事で殺されそうになったんだよね」
「まあ、その様な事が……」
ユリアさんは痛ましそうな表情を浮かべる。
同情してくれたらしい。
そんなユリアさんに対し、オレは笑顔で話を続ける。
「けど、そこのライラに助けられたんだ。魔法で死んだ風に見せかけて、オレを城から連れ出してくれたんだよね」
「なるほど、そちらの女性が……」
オレとユリアさんは、揃ってアン・ズーを見る。
アン・ズーは静かに微笑んでいた。
てか、悪魔という事を伏せないと行けない。
ここは端折って説明すべきだな……。
「まあ、色々とあったんだけど、助かったのは彼女のお陰。そんでもって、オレにこの世界でどう生きたいかって質問してきてさ。――それで、魔王を倒す勇者になりたいって伝えたんだ」
「魔王を、倒す……?」
ユリアさんがポカンと口を開いている。
彼女にとっては想定外の言葉だったらしい。
オレは苦笑を浮かべて説明を続ける。
「いや、今なら無茶な話だってわかるよ? でも、召喚されたばかり。それも、役立たずって殺されそうになった直後だったんだ。……悔しいって気持ちも、少しあったんだよね」
「うふふ。イチカさんは、素直な方なんですね?」
ユリアさんは楽しそうに笑う。
そこには、含みや嫌みは感じられなかった。
オレは少し照れながらも、構わずにオレの物語を話し続けた。
「その後も、港町のスラム街では、こっちのラザーちゃんと出会ってさ。病気だった弟を宿屋に運んで、病気が治るまで治療をしたんだよね」
「あの国も、余裕がありませんからね……」
ユリアさんはラザーちゃんを見る。
その瞳には、同情的な色が感じられた。
スラムの子達を憐れんだ。
しかし、イギリスには彼等を救う余力が無いんだろう。
……そういや、ユリアさんは慈善活動をしてたっけ?
そういう子達も対象かな?
「ただ、その後に殺人鬼に攫われてさ。結局は助けてあげられなかったんだ……。その代わりと言っては何だけど、ラザーちゃんはオレと一緒に居たいって望んでくれてね。今は従者として、旅に同行して貰う事になったんだよね」
「そんな事が……」
その話にユリアさんの表情が曇る。
楽しい話題で無いのは確かだからね。
じっと俯いてしまうユリアさん。
彼女には少し、刺激が強すぎたかな?
とはいえ、次もジャンヌさんのヘビーな話しなんだよね……。
「その後、フランスへ渡って旅をしてたら、ある村に立ち寄る事になったんだ。そこで、魔女として虐待を受けてたジャンヌさんを見つけてね。瀕死の状態だったから、連れ出して治療したんだよね」
「魔女狩り、ですか……」
ユリアさんは苦しそうな表情を浮かべる。
ジャンヌさんに同情したのだろう。
もしかしたら、同じ境遇の人達を沢山知っているのかもしれないね……。
「けど、回復したジャンヌさんは、自分には生きる道が無いって言ってさ。それならって事で、ライラが修道女になる事を勧めたんだ。同じ悲しみを知る者として、苦しんでいる人々の助けになったらどうかってね」
「それで、ここまで来られたと……」
ユリアさんは、そっと目を閉じる。
そして、そのまま動かなくなってしまう。
何かを考えているみたいだった。
その為、オレはそのまま様子を見る事にした。
――と、そこでドアを叩く音が響いた。
「ユリア様、至急お耳に入れたい事が御座います」
「どうぞ、お入りください」
ユリアさんは入室の許可を出す。
そして、一人の修道士さんが入って来た。
彼は先ほど、オレ達を案内してくれた人だ。
オレ達に対しても一礼を行う。
そして、ユリアさんの元へ歩み寄り、その耳元でそっと何かを伝えた。
「――それは、間違い無いのですね?」
ユリアさんは、厳しい視線を修道士さんに向ける。
彼は静かに頷いて見せた。
すると、何故かユリアさんは大きく息を吸う。
そして、その息をゆっくり吐いた。
「……イチカさん、貴方は面白い方ですね」
「え? そうかな?」
どこら辺で、そういう感想になったんだろう?
自分ではまったくわからない……。
しかし、ユリアさんは輝いて見える、綺麗な笑みでオレへ告げた。
「はい、私はイチカさんを好きになれそうです。また明日、二人でゆっくりお話ししましょう!」
「あ、えっと……。はい……」
ユリアさんの誘いに、オレはドギマギしてしまう。
こういう時、どうすれば良いの?
好きって言われたけど、そう意味じゃないよね?
流石に違いますよね?
オレはソワソワする気持ちを抱えてしまう。
そして、今日の会話はここまでとなった。