フォンテ・アヴェッラーナ修道院
調子よく書けているので、第四章も毎日更新します!
ローマ帝国の首都ローマから北部の山。
そこに目的の修道院が存在する。
修行場としては大きいが、首都から距離がある為に教皇の影響も小さい。
それもあり、魔女が受け入れられる、稀有な修道院でもあるらしいのだ。
オレ達は長旅を終え、その目的地へと到着した。
「ええ、彼女が対象となります。それと、こちらをお納め下さい」
年配のシスターと対話するのはアン・ズー。
相手はこの場の責任者らしい。
シスターは金貨袋を渡され戸惑っていた。
本来は必要の無い賄賂だろうか?
「我が主からの寄付となります。恵まれない方々の為にお使いください」
「それはありがとう御座います。天使様もお喜びになられる事でしょう」
アン・ズーの言葉にシスターが安堵する。
寄付であれば問題無いみたいだね。
しかし、アン・ズーの言葉は終わりじゃない。
シスターへ一つの願いを伝える。
「それと可能ならば、あのペンダントはご許可頂けないでしょうか? 我が主から、親愛なる友への贈り物なのです」
「なるほど。院長へはその様にお伝えしておきましょう」
どうも、持ち込みに制限があったらしい。
あの賄賂は、オレのせいみたいだね……。
ただ、特例が無い訳ではないのだろう。
シスターは笑顔で了承してくれていた。
そのやり取りを見て、ジャンヌさんも安堵の笑みを浮かべている。
「それでは、院長へ挨拶に参りましょう。お連れの方々は、少し客間でお待ち下さい」
「承知しました。それでは、しばらく休ませて頂きます」
面接みたいなものだろうか?
ジャンヌさんはシスターに連れて行かれてしまう。
代わりに部屋へ若い修道士さんがやって来る。
オレ達は別室へと案内して貰う。
ちなみに、案内役の修道士さんは二十程の男性。
飾りの無い白い服を着ている。
建物を歩いていると、同じ服装の人達を見かける。
これが彼等の制服みたいだ。
「どうぞ、こちらで御くつろぎ下さい」
「ご案内、ありがとう御座いました」
案内が終わると、修道士さんは立ち去った。
部屋にはオレ達だけが残される。
案内された部屋は簡素な部屋だった。
部屋全体は窓があるだけで飾り気は無い。
部屋の中央にもイスとテーブルがあるのみ。
お茶のセット等も特に無かった。
「ご主人様、こちらへどうぞ!」
ラザーちゃんが、率先してイスを引く。
オレに座れと言う事だろう。
オレは言われるままに席に着く。
偉そうだけど、主人だから仕方ないんだ……。
そして、アン・ズーとラザーちゃんが、オレの背後に無言で控える。
雑談という雰囲気ではないので、いつもの脳内会話を始めるとするかな?
……という訳でアン・ズーさん。この後の展開は、どんな感じですかね?
『ジャンヌさんが修道女となるのは問題無いでしょう。恐らく、鑑定道具で犯罪歴を調べられますが、彼女には困る前科もありませんしね』
そういや、そんなアイテムもあったね。
すっかり存在を忘れていたよ。
なら、オレも『偽装』を意識しないとね。
いつ使われるかわからないしさ。
『そうですね。偽名がバレると厄介です。警戒はしておきましょう』
さて、スキルは問題無いとして、この後の流れについてだ。
ジャンヌさんの許可が下りたら、オレ達はすぐに出発なのかな?
『いえ、今日は一泊させて頂きましょう。もう少しで、日も暮れるでしょうから』
オレは窓から外の様子を見る。
確かに、空が少し赤くなり始めているね。
じゃあ、今日は久々のベッドかな?
食事は修道院だし、期待してないけどさ!
……と、のんびり構えていると、ノックの音が鳴り響いた。
「失礼します。入っても宜しいでしょうか?」
「ええ、問題御座いません。どうぞ、お入り下さい」
外からの声にアン・ズーが応える。
尋ねて来たのは女性の声だった。
そして、部屋の扉が開かれる。
姿を見せたのは、二人の男女だった。
一人はオレと同い年位の女性。
白くて清楚なドレスを纏っている。
もう一人は、少し年上の男性。
豪華そうな飾り付きのスーツ姿だ。
二人とも金髪碧眼で、どこか似た雰囲気を漂わせていた。
「はじめまして、異国から参られた旅の方々。皆様がジャンヌさんのお連れ様ですね?」
「……え、ええ。その通りで御座います」
女性の言葉に、アン・ズーが動揺を浮かべる。
彼女がどうかしたのかな?
アン・ズーはいつもの笑顔を浮かべている。
表情からは何も読み取れない。
そして、女性は自らの胸に手を当て名を名乗る。
「私の名はユリア。隣は兄のルキウス。共にテレンティウス家の人間となります」
「これはご丁寧に。……こちらのお方は、我々の主であるアルフ様。そして、ワタクシはライラ。隣はラザーで、共に従者を務めております」
ユリアさんは、優しそうな声色だった。
この人は天使かって位に可愛い。
しかし、隣のルキウスさんはムッツリだ。
やや強面の戦士って感じだな。
「少しお話を伺いたいのですかが、宜しいでしょうか?」
これは大丈夫なやつだろうか?
アン・ズーさん的にどうなんですかね?
チラリと視線をアン・ズーに向ける。
すると、彼女から想定外の言葉が返る。
『ご主人様、朗報となります。あちらの女性は――ローマの聖女です』
……ローマの聖女?
初めて聞く名称だけど?
ただ、朗報という事は問題ではないのかな?
「ええ、問題御座いません。何なりとご質問下さい」
アン・ズーはオレの向かいに移動する。
そして、二つの椅子を引いて見せた。
兄妹は向かいの席へ座る。
オレはひとまず、状況を見守る事にした……。
<蛇足な補足>
・フォンテ・アヴェッラーナ
聖十字架に献納された イタリアのコムーネ、
ペーザロ・エ・ウルビーノ県のセッラ・サンタッボンディオ内の、
モンテ・カトリアの山の斜面にある。
その起源は1千年紀の終わりまで遡る。
修道者の住居はおそらく980年に聖ロムアルドにより創設された。
ここで1035年に修道士になり1043年にプリオーレになった
ピエール・ダミアーニの作業は、元の建築物の拡張だけでなく、
修道者の住居を強い文化的精神的発展のために宗教的社会的な
拠点とすることにより修道院に刺激を与えた。
その修道者の住居はダンテ・アリギエーリの神曲(天国編 第21歌)
により引用され、彼はそこに客としても滞在したと考えられている。
1982年9月5日、ヨハネ・パウロ2世は修道院の創設一千年の祝典の際に
フォンテ・アヴェッラーナを訪れた。(Wikipediaより)