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【幕間】ジャンヌの物語

 私の名前はジャンヌ。

 フランスの農村で生まれ育った娘である。


 18歳で幼馴染と結婚。

 そして、その翌年には男の子を産んだ。


 22歳でもう一人の子供も産んだ。

 けれど、こちらはすぐに病死した。


 普通の貧しい農村である。

 治療も薬も簡単に手が出るものではない。


 更に領主様からの納税も厳しく、冷害の年も度々やって来るのだ。

 だから、病気や飢えで人が死ぬなんてよくある事と思っていた。



 ――けれど、私は夫と息子の事を、そんな風には割り切れなかった。



 近隣の森で新しい主が生まれたらしい。

 それにより森が騒がしくなった。


 本来なら現れぬ場所に魔物が現れる。

 そんな事が度々起こる様になった。


 そして、とうとう村にまで現れた。

 魔狼の群れが突然襲って来たのだ。


 魔狼に逃げ惑う村の人々。

 しかし、息子は腰を抜かして走れなかった。


 そんな息子を助けようと夫が駆け付けた。

 息子の事を抱き上げたのだ。


 ……けれど、無情にも二人は魔狼の餌食となってしまった。


 その光景に、私の心が怒りで染まった。

 抑圧された感情が爆発した。


 それを切っ掛けに周囲は炎で染まった。

 私は魔法を使ってしまったのだ。


 魔狼はその魔法に恐れをなした。

 驚くほどあっさりと逃げて行った。


 そう、村は助かった。

 魔狼の脅威から逃れる事が出来たのである。



 ――けれど、それが絶望の始まりだった。



 フランスでは天使教が信じられている。

 魔法は禁忌とされているのだ。


 魔法使いは悪魔の使い。

 魔女は厄災を招く存在と信じられていたのだ。


 私は縄で縛られ、魔狼を呼んだ張本人として虐げられる様になった……。


 あんまりではないか?

 大切な家族を失い、魔法で村を救ったのに……。


 そんな思いも空しく消えた。

 その言葉が、彼等に届くはずがないのだ。


 ……そう、私は運が悪かった。

 悪い運命の巡り合わせだったのだろう。


 普通に農村の妻として働いた。

 良き母であろうと頑張って来た。


 悪いことをしたわけじゃない。

 けれど、なるべくしてこうなったのだ。



 ――だから、全てを諦めて死を受け入れた。



 だが、気が付くと私は馬車の中にいた。

 見知らぬ異邦人に助けられていた。


 彼等はとても心配そうに、とても丁重に私の事を治療してくれていた。


 ぼんやりした意識の中でも理解出来た。

 彼等が善人なのだと感じられた。


 なのに、私は彼等に暴言を吐いた。

 恩人に対して嫌みを言ってしまった。


 自暴自棄になっていたのだ。

 本来ならば、見捨てられて当然の行為なのだ。


 ……なのに、彼等は私の事を見捨てなかった。


 それどころか、私に対して希望となる言葉を投げ掛けて来たのだ。



『ならば、その命をアルフ様に捧げなさい。アルフ様の為に、人生を費やすのです』



 その言葉に私は戸惑った。

 何を言われているのか理解出来なかったのだ。


 そんな私に、ライラさんは更なる言葉を続けた。



『貴方と同様に虐げられた人々。家族を失い、失意の底にいる人々。それらを貴女が救うのです』



 そこで私はハッと気付く。

 私のこの境遇は、この世界では唯一無二ではない。


 多くの人が同じ目に合っている。

 多くの人が救いを求めていると気付いた。


 しかし、心のどこかで疑っていた。

 この人達はどこまで本気なのかと……。


 だから、私は不敬にも試した。

 旅の中で、アルフ様の反応を伺い続けた。


 場合によっては失礼と取れる発言をした。

 怒らせて当然の言葉を放った。


 しかし、アルフ様は一切動じない。

 そこに失礼等無かった如き振る舞いだった。


 そして何より、ラザーちゃんへの態度。

 彼女は従者なのに家族同然の扱いだった。



 ――ああ、この人は本当に違うのだ。



 そう感じられ、私はアルフ様を信じる様になった。

 信じてみたくなったのだ。


 この御方の想う優しい世界。

 その助けになれるなら、この命を捧げてみたいと。


 そう決意し、修道女となる決心を行う。

 本当の意味で未来へと目を向け始めた。


 ……だが、そこで怖くなった。

 今の時間が優しすぎて、今が終わってしまう事に。


 我慢できなくなり、私は甘えてしまった。

 アルフ様なら拒みはしないと考えて。


 しかし、アルフ様の反応は、私の考えを遥かに凌駕する物だった。


 肌身離さず身に着けた宝玉。

 それを私の首に掛けて下さったのである。


 夜空の様に深い青。

 星々の様な黄金が浮かぶ、うっとりする程の美しい宝石。


 その価値を考え、私は怖くなった。

 私の命と釣り合うはずの無い代物なのだ。



 ――なのに、アルフ様は返却を拒んだ。



 強く腕を握り、私の手を留めた。

 それを望まぬと、首を振って伝えて来た。


 そして、旅の中で初めて笑みを見せた。

 優しく慈悲深いその笑みを……。


 その神々しい笑みに涙が流れた。

 私の信仰はこの瞬間に定まった。


 この御方をどこまでも信じよう。

 この御方の為に身命を捧げようと。


 この世界を救済すべく旅を続ける聖人。

 この世で最も尊き御方なのだ。


 私はただ、その教えを信じて生きようと……。

「第三章 オルレアンの魔女」が終了しました。

引き続き、第四章もお楽しみ下さい!


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挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
[良い点]  旅に同行することになった、ラザーちゃん。一生懸命で可愛いですね。  未亡人(爆)のジャンヌさんとはここでお別れですが、彼女の〝アルフ様〟への信仰度合いがMAXすぎて「おお!」となりまし…
[良い点] ジャンヌさんともお別れか。 しかしアルフの対応は良かったですね。 だんだんアルフも成長してきましたね。 あとジャンヌさんのキャライラストが可愛いです♪
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