湖イベント
皆さん、こんにちは。
オレは現在、とても退屈しています。
それと言うのも、今は馬車でお留守番。
黒王号と二人きり(?)です。
女性陣は林中の湖で水浴び中。
ここから、少し離れた場所に居る訳です。
……やる事無いし、剣の稽古でもしてるかな。
そして、鞘から刃を抜き放つ。
シミター先生もぶるりと身を震わせてくれた。
――と、そこで頭に声が届く。
『ジャンヌさんの傷も、かなり消えましたね』
『ええ、頂いたお薬が効いたみたいです』
『わあ、お肌が綺麗になってきましたね!』
女性陣の会話が聞こえる。
てか、アン・ズーはどうして届けるし?
これは試練なのか?
オレの精神力を試す試練なのか?
『ふふっ、ラザーちゃんに言われてもねぇ?』
『ええ、ラザーちゃんも艶々の肌になりましたね』
『あわわ、美味しい物を沢山食べてますから!』
とても楽しそうで何よりだ。
ただ、剣の稽古に集中出来ないけど!
アン・ズーさん、聞こえてますよね?
止めて頂けませんかね?
『それにしても、ライラさんの体形は完璧ですね……』
『はい! とっても綺麗だと思います!』
『ふふふ、お二人も素敵なスタイルだと思いますよ』
止めてくれないの?!
オレの声、絶対聞こえてるよね!
いや、オレも年頃の男子なんですよ?
妄想が捗ると言いますか……。
『お二人とも、とっても大きいですね……』
『あら? ふふっ、ありがとうございます』
『ラザーちゃんも、すぐ大きくなりますよ』
……ちょっ?!
シミター先生落ち着いて下さい!
集中出来なくてすみません!
でも、オレのせいじゃ無いんです!
シミター先生はご立腹みたいだ。
いつも以上に、オレを振り回す。
「あいつ、何がしたいんだ……?」
とりあえず、頑張って意識を切り替る。
何とか剣の稽古に集中する。
すると、女性陣の声がピタリと止まる。
代わりにアン・ズーの声が届く。
『あ、ご主人様。そちらから、鳥の姿が見えませんか?』
「鳥……? ああ、あれか……」
林の中の少し開けた場所。
そこに、じっと動かない鳥がいた。
いつものアン・ズーの魔法か。
『暗闇』で視界を塞いでいるのだ。
『今晩の夕食に使います。仕留めておいて頂けますか?』
「うい、了解っと。それじゃあ、さくっと仕留めますか」
動かない鳥に意識を向ける。
シミター先生も落ち着きを取り戻してくれた。
そして、気付かれぬ様に静かに走る。
こういう狩りも手馴れて来たよなー。
「あらよっと」
間合いに入り、シミター先生が閃く。
鳥の頭がぽーんと飛んだ。
オレは鳥の足を持ち、逆さの首から血を落とす。
サイズ的にこれは雉かな?
――と、そこでふと気付く。
こちらに向けられる視線に……。
「「「…………」」」
森の中の開けたスペース。
その先には、湖が広がっていた。
そして、その中には裸体の女性が三人。
しっかりと目が合った。
「…………え?」
……落ち着けオレ!
慌てずゆっくりと視線を逸らすんだ!
オレは『偽装』スキルを意識する。
そして、何食わぬ顔で馬車へと引き返す。
――と、再び女性陣の声が送られて来る。
『え? 今、ばっちり目が合いましたよね?』
『ええ、しっかりと見られてしまいましたね』
『ち、違うんです! あれは事故なんです!』
何故か必死に、弁護してくれるラザーちゃん。
君は天使なのかな?
そして、女性陣の会話が更に続く。
『……この後は、アルフ様が水浴びですよね?』
『ジャ、ジャンヌさん。それってまさか……!』
『ふふふ、それではお互い様ということで……』
……何て会話してるの?!
そういうの、はしたないと思うよ!
ああ、くそっ!
先ほどの光景が脳裏から離れない!
だ、誰か記憶を消してくれ!
この先の旅に耐えれる自信が無いんだ!
オレは悶々として、馬車の中を転げまわる。女性陣の声は続いていた。
「ぶるる……」
そんなオレに対し、何処か冷めた黒王号の声が届く。
どうやらオレには、この先も大いなる試練が待ち受けていそうだ……。