異世界召喚
オレの名前は夜神 衣千伽。15歳で高校一年生。
趣味はアニメにゲーム。何処にでもいる普通の高校生と思って良い。
そして、オレは先ほどまで、自室でマンガを読んでいた。
部屋着のジャージで、ベッドに寝ころびながらね。
……だが、何気なく呟いた一言の為か、とんでもない事が起きた。
「異世界に転生して、一発逆転してえ……」
そう、その一言と共に体が光りだした。
何事かと固まっていると、周囲の景色が変わってしまった。
そこは窓の無い石造りの部屋で、体の下もベッドではない。
ゴツゴツと硬くて痛い、石の床である。
「これって、まさか……」
周囲を見れば、ローブ姿の見知らぬ外人が複数名。
立ち上がった足場にも、魔法陣らしき不思議な模様が描かれている。
「嘘だろ……。マジかよ……!」
これはほぼ間違いないだろう。
勇者召喚とかで、異世界に招かれた奴だ。
きっと、チートな能力が与えられているはず。
そして、そのチート能力を使った無双が始まるのだ!
……しかし、内心で沸き上がる喜びと共に、ふと不安も沸き上がって来る。
目の前で異世界っぽい人が話し掛けている。
けど何故か、話す言葉がわからないんだけど?
「――? ――! ――っ?!」
「いや、何いってるか、わかんないっす……」
伝わらないだろうと思いつつ、とりあえず日本語で話す。
しかし、相手のローブさんは顔を顰めて首を振る。
それと、ローブさんの背後には、マント姿の偉そうな中年男性が控えていた。
その人物は、隣のローブさんの耳打ちで、どんどんと不機嫌な表情へ変わっていく。
「――! ――っ!!」
その叫びで、奥から三人の兵士が駆け寄って来る。
金属製の鎧を身に纏い、手には槍を持つ屈強な男性達である。
マントさんが叫ぶと、兵士の二人がオレの左右に移動する。
オレは左右の腕を、ガッチリとホールドされてしまった。
「え? なんすか? すげえ、嫌な予感がするんすけど……」
オレは涙目になりながら、眼前に迫る兵士を見つめる。
相手の兵士は無表情で、オレへとゆっくり歩み寄って来る。
そして、槍を構えるその姿に、オレは首を激しく振る。
まだ始まってもいないのに、こんな終わり方って有りですかっ?!
――しかし、パニック状態のオレに、優しい声がそっと届く。
『そのまま死んだふりを。死にたくなければ……』
突然の出来事に、オレは思わず固まってしまう。
それに合わせて、兵士が槍を突き刺して来た。
「な……?」
……しかし、何故か槍はオレから逸れ、何もない空間を素通りしたが。
槍を付いた兵士は、何かを呟き槍を引く。
冷たい瞳で、オレの事を見下しながら。
そして、兵士は振り返り、マントさんに頭を下げる。
マントさんは満足そうに頷き、そのまま部屋から出て行ってしまう。
『ゆっくりと頭を下げて。……そう、そのまま死んだふりです』
オレはひとまず指示に従う。
状況は理解出来ないが、唯一敵では無さそうに思えるからだ。
そして、じっとしていると両隣の兵士が、オレの事を運び始めた。
腕を抱えたまま、オレの足を引き摺る様にして……。
『多少の擦り傷はご了承を。それでは、後ほど迎えに参りますので……』
そこで謎の声は聞こえなくなる。声の人物は、ここには居ないという事だろうか?
今の状況は、色々と謎は多い。
しかし、オレはじっと動かず、運ばれるまま我慢を続ける。
登りの階段で、ガンガン膝がぶつけられる。
涙目になりながらも、必死に声を我慢し続けた。
ただ、死にたくない一心で、謎の声を心の頼りにして……。
<注意事項>
・この作品は後書きで補足説明を行う事があります。
説明が余計と感じる人は、読み飛ばす様にお願いします。