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悪魔の騎士

 オレの身を包む魔法の鎧。

 艶の無い、赤と黒の入り混じった色合い。


 そのシルエットは非常に禍々しい。

 悪魔を彷彿させる歪な形だった。


『ふふふ、姿はお気に召しませんか? ですが、その力は本物ですよ』


 アン・ズーの声が頭に響く。

 その声は、どこか楽し気であった。


 そして、オレの右手がぶるりと震える。

 見るとシミター先生が震えていた。


 その刀身は黒く染まっている。

 光沢はなく、地下の闇に溶け込む様だった。


「ハハッ! ヤッパ、テメェモ仲間カヨ!」


「――っ?!」


 気が付くと、奴はすぐ目の前にいた。

 右手と一体化した剣を振り上げて。


 しかし、次の瞬間にその剣は弾かれる。

 反射的に動いたシミター先生のお陰で。


「ヤルジャネェカ!」


 相手の動きは速い。

 とても、オレの目で追える速さではなかった。


 しかし、シミター先生は反応する。

 その動きに、オレの体が勝手に動く。


 まるで、オレの体が操られているかの様に……。


『ふふふ、操らせて頂いております。ご主人様の、魔力をお借りしましてね』


 どうやら、本当に操られていたらしい。

 オレの役目は、魔力を供給するだけの様だ。


 だが、それで良いのだろう。

 シミター先生は遺憾なく、その能力を発揮していた。


 かつて無い程の高速の円舞。

 完成したソードダンスが、初めてその姿を披露した。


 ……だが、奴とオレの力は拮抗している。

 高速の剣技を、互いに弾き合っていた。


「クハハッ! ツエェジャネェカ! テメェモ、力ニ魅入ラレタ口カヨ!」


「……力に魅入られた?」


 こいつ自身がそうだと言うのか?

 力に魅入られて魔人化したと?


 だが、それで何故、子を喰らう?

 その力と、どう関係するのだ?


 戦いの最中だとだと言うのに、オレにはその言葉が引っ掛かっる。


「何ダ、喋レルジャネェカ! ソレトモ、ソノ姿ガ本当ノ姿ナノカヨ!」


 ……ん?

 今の声が理解出来たのか?


 何故、今になって伝わったんだ?

 魔人化と何か関係するのか?


『ええ、ワタクシと同化した事で、通訳機能が生きていますね。この状態でのみ、相手に考えを伝える事が可能な様です』


 なるほど。

 いつもアン・ズーの届けてくれる声と、同じ仕組みと言う訳か。


 ならば、折角だ。

 オレの疑問を、奴にぶつけて見るか。


「お前の望みは何だ? 何故、子供を喰う必要がある?」


 互いに攻撃の手は止めない。

 オレの場合は、勝手に体が動く訳だけど……。


 奴はオレの問いに、ニヤリと笑う。

 その問いに、自信をもって答える。


「俺ノ望ミハ強者デアルコト! 弱キ者ヲ喰ライ、俺ハ更ニ強クナル!」


「弱者を喰らう事で、強者になるだって?」


 その理屈は理解出来ない。

 強い相手を倒し、強さを磨くならわかる。


 しかし、弱者を喰う?

 それは、単なる食事と違うのだろうか?


「オ前ハ、知ラナインダ! 魔王軍ノ魔人達ヲ! 奴等ハ、ソノ圧倒的ナ暴力デ、俺ノ仲間達ヲ食イ殺シ、更ニ強クナッテイタ!」


「魔王軍……」


 オレの最終目標は魔王の討伐。

 その為には、戦う必要のある相手である。


 その相手は、こいつの様に強いのだろう。

 いや、それ以上なのかもしれない。


「俺ハ、ソノ強サニ憧レタ! 強ク求メ、ツイニ手ニ入レタ! ソシテ、更ナル力ヲ得ル為ニ、弱者ヲ喰ワネバナラナイノダ!」


『何と愚かな……』


 アン・ズーの呟きが聞こえる。

 とても、呆れ果てた声だった。


 そして、オレはその声に同意する。

 奴はわかっていない……。


 ――いや、わかっていて、自分を欺いているのだろう。


 オレは呆れた口調で、奴に冷たく告げる。


「お前のそれは、単なる逃げだろ? 弱者を喰っても、強くなれる訳がない」


「何ダト! 現ニ俺ハ強クナッタ!」


 振り翳す凶刃。

 それは確かに、常人を超える力だろう。


 しかし、奴は目を背けているのだ。

 自分自身の、本当の願望に。


 ――だから、オレが気付かせてやる。


「認めるのが怖いんだろ? 自分が弱いってさ。だから、強い奴と戦いたくないだけだろ?」


「ナッ! 貴様……!」


 奴の瞳が怒りに燃える。

 その攻撃に、先程までの遊びが無くなる。


 しかし、それに反して威力は弱まる。

 その動きも遅くなる。


「気付いてるんだろ? お前の願望は強さじゃない。――死から逃げたいだけだって」


「ダ、黙レェェェ……!!!」


 相手は我武者羅に剣を振るう。

 オレの言葉を打ち消そうと。


 しかし、その剣技は見るも無残。

 今や、オレの目でも追える速度でしかない。


 ……ああ、そういう事か。

 これが、アン・ズーの言う心の強さか。


「もう、お前に興味は無い。――後は地獄で反省してろ」


 そう告げると、シミター先生の刃が閃く。

 相手を頭から、一刀両断してしまう。


 どうやら、自重してくれていたらしい。

 オレと奴との、会話が終わるまではと。


「バ、カナ……」


 それが奴の最後の言葉だった。

 異形の魔人は、その場で崩れ落ちた。


 オレは周囲に目を向ける。

 そして、見つけたペンダントを拾い上げた。


「ごめんな、ドゥーヤ……。間に合わなくて……」


 その言葉と共に、身を包む鎧がふわりと溶ける。

 塵の様に霧散してしまった。


 その直後に、背後に生まれる気配。

 振り返ると、アン・ズーが微笑んでいた。


「お疲れさまでした、ご主人様。後の事は、このアン・ズーにお任せ下さい」


「……お?」


 急激にやって来る眠気。

 オレの体から、一切の力が抜けていく。


 今のオレに怒りはない。

 魔力が尽き、立っている事も出来なくなったのだろう。


 倒れるオレを、アン・ズーが抱き留める。

 そして、オレの意識はそこで途絶えた。

挿絵(By みてみん)

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