星空の下で
こんばんわ、夜神 衣千伽です。
今は星空の下で寝ころんでいます。
アン・ズーの用意した毛皮が柔らかく、路上でも何とか眠れています。
というか、こうして見上げると星が凄いね……。
吸い込まれそうな星空に、オレは猛烈に感動してる!
ちなみに、アン・ズーは焚火の管理中。
夜中の間は、周辺警備もしてくれています。
「……アン・ズーって寝ないんだよね。夜の間って暇じゃないの?」
「やる事はありますよ。ご主人様の記憶の整理等を行っています」
記憶の整理?
コピーした記憶の事だよね?
あっちの世界の常識を調べて、オレとの意思疎通に役立ててるのかな?
一人だけ寝て悪いとは思ってたからね。
暇潰しになってるなら良いんだけど。
「そういや、魔王ってどんなやつ? 人類に迷惑を掛けてるんだよね?」
「ええ、世界征服を企んでいますね。人類滅亡も企てている存在ですよ」
ガチでヤバイ奴じゃないですか……。
それ倒せらたら、確かに勇者だね。
というか、そんなヤバイの倒せるのかな?
「今はまだ無理ですが、必要な力は集めます。時間を掛けて、一歩ずつ進みましょう」
「うん、その辺りは任せるよ。正直、オレではどうすれば良いかわからないしさ」
シミター先生の凄さは良くわかった。
並みの魔物は、スパスパ斬ってくれる。
アン・ズーの凄さもわかった。
小技中心だけど、判断力がとにかく凄い。
……けど、オレはやっぱり普通のままだ。
これで、本当に魔王の相手になるのかな?
「ご安心下さい。ご主人様も、これから鍛えて行きます。今よりも強くなれますよ」
「はははっ。あくまでも今よりも、なんだね。まあ、そっちは期待してないかな?」
アン・ズーの事は信頼してるけどね。
ただ、強くなれるイメージが沸かない。
特別な力も無いオレが、無双なんて夢物語。
本物の勇者になんて、なれるはずがないのだ。
まあ、それでも、この旅は楽しいからね。
アン・ズーと一緒なら、この先も続けたいかな?
――と、そこでふとアン・ズーの視線に気付く。
優しい眼差しで、オレの事を見つめていた。
「どうかした?」
寝ころんだまま、顔だけをアン・ズーへ向ける。
そのまま彼女に問いかけた。
アン・ズーはそっと目を伏せる。
そして、小さく首を振って答えた。
「いえ……。ご主人様は、優しい色をしているのだな、と思いまして」
「優しい色?」
何の話をしているのだろう?
肌の色って事はないよね?
アン・ズーは悪魔だし、魂の色とか?
そういうのは、確かにありそうだよね。
「ふふふ、正解です。ご主人様の、魂の色を見ておりました。――きっと、争いと無縁の、優しい世界で生きて来られたのでしょうね」
「どうだろうね? 周りに戦争は無かったけど、優しいだけでも無いと思うよ?」
以前は漫画やゲームでそれなりに楽しかった。
ただ、退屈さも同時に感じていた。
もう少しすれば、受験勉強が本格化しただろう。
その後も、就職活動が始まるのだ。
大人になれば、もっと大変なんだろうし。
そういうのって、憂鬱になるよね……。
「どこにいても、争いはあるんじゃないの? それが無い世界ってあるのかな?」
「ふふふ、確かにその通り。人が人である限り、争いは無くならないでしょうね」
お金持ちや有名人になりたいとかさ。
欲を持つのが人ってもんだろう。
ただ、そういうのが無ければ、もっと幸せになれるのかな?
それとも、ただの弱者になるだけなのかな?
……よくわからないね。
欲の無い人なんて、見た事もない訳だしさ。
「――とはいえ、平和を望むのも人です。それを夢見る事は、素晴らしい事です」
「……アン・ズーって、やっぱり悪魔らしくないよね?」
言動が妙に優しいし、下心みないなのも感じない。
聖人かって程の善人っぷりである。
もし、それが演技だとしたら大した物だけど。
そこまで行けば、稀代の詐欺師だろう。
アン・ズーは何故か目を丸くしていた。
そして、楽しそうに微笑んで見せた。
「ふふふ、そう思われますか? それはまだ、ワタクシを知らないからでは?」
「うん、そう言われると、返す言葉も無いんだけどさ……」
オレとアン・ズーは、出会って二週間足らず。
互いの事を良く知っているとは言えない。
けど、こんな良い人なんて初めてだしさ。
いや、人ではなく悪魔なんだけどね……。
「それでも、これからも宜しく。二人で楽しくやって行きたいね!」
「ええ、そうですね。そうなれる様に、今後も宜しくお願いします」
オレとアン・ズーは互いに微笑む。
今夜もこうして、優しい時間が過ぎて行った。