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アカーリアはほどなく目を覚ました。
見知らぬ家のベッドで寝ていることに気づいて、吃驚していたが、クレイとメーラ、そしてステアの顔をみて、心底ほっとしたような顔をした。
ステアとメイヤーはアカーリアの体調について、色々と質問した。
怪我はなく、ぐっすり眠ったお陰で気分も良いと言う。しかし、アカーリアはなんと丸二日かけて徒歩でこの村を目指して歩いてきたと言ったから驚いた。
「徒歩で!?何故?」
「途中までは飛んできたんです。でも、森に入ったところから急に魔法が上手く使えなくなって・・・クレイ君から魔力の弱い土地だって聞いていたので、たぶんそのせいじゃないかって思ったんですけど・・・」
「ああ、なるほど、確かにこの土地で魔法を使うには慣れが必要だ。そうか、それじゃあ・・・魔法無しでここまで?」
アカーリアは恥ずかしそうに俯いた。
魔法を上手く使えないことを恥ずかしがっているのかもしれないが、クレイ達からしたら、森のなかを一人で歩ききった根性と体力の方に感嘆している。丸二日ということは夜もあそこにいたということだ。村の男達でさえ、夜に暗い森に入るのは嫌がるのに・・・
「それで・・・私、ステア先生にお願いしたいことがあって来ました。」
アカーリアはステアを見つめながらそう言った。その目は真剣で、怖いくらいだった。
「私の魔法を見て欲しいんです。お願いします」
そう言って、頭を下げた。
「私、魔法がすごく下手なんです。赤ちゃんの頃からスージー先生に見てもらって勉要しているのに、全然できなくて・・・クレイ君がたった一年であれだけ魔法が使えるようになったって聞いて、ステア先生に見てもらえたら、私もなんとかなるんじゃないかって思って・・・」
アカーリアは必死だった。とても真剣に魔法を上達させたいと思っているようだった。
丸二日も歩いてきたのだ、その気持ちに嘘は無いだろう。
「ほんの少しだけでも良いんです。私の魔法を見てくれませんか?悪いところがあったら教えて欲しいんです!」
アカーリアの言葉を聞いて、ステアは少し考え込んだ。
「魔法を見るのはかまわない。むしろ、大歓迎だ。私は教師だからな。ただ、聞いておきたいことがある。ここへ来ることはご両親には言ってあるのかな?」
アカーリアは強張った顔をした。
「まさか、黙って家を出てきたのか?」
「い、いいえ!手紙を置いてきました。友達の家に行くから、心配しないでって・・・だ、大丈夫です!私の姉も去年同じことをしたんです!だから、両親も・・・あの・・・」
「その時、ご両親は心配すること無く過ごしていたかい?」
ステアの言葉に、アカーリアは俯いた。
「手紙だけでも残してきたのは偉いよ。一番怖いのは、何もわからずにいることだからね。アカーリア、私に魔法を見てもらいたかったら、まずはご両親に連絡を取るのだ。君が無事でいること、私とケビンという教師が一緒にいることを伝えるのだ」
アカーリアは強張った顔でステアを見る。両親に連絡をしてほしくないと、その表情が言っていた。しかし、ステアもまた譲るつもりはないという顔だった。
しばし、無言の時間が流れ、アカーリアが口を開いた。
「・・・わかりました。あの、お願いがあります。私がここに来たのは、クレイ君に会いに来たからだって言ってもらえませんか?人間の生活に興味があったと」
「・・・それは、どうしてだね?私はマーリークサークルの教師だ。私に魔法を見てもらいたいという理由は、全く恥ずべきことではないと思うが?」
「・・・・・・」
アカーリアはクレイを見て、ステアを見た。
「私にも、家庭教師の先生がいます。赤ちゃんの頃から教えてくれたスージー先生です。スージー先生はすごくいい人で、バカな私にずっと付き合ってくれました。今もです。でも・・・わたし・・・何をやっても上手くできなくて・・・」
アカーリアの瞳に涙が溢れてきた。
それを見てステアは慌てる。ウォルバートン先生がハンカチを貸してくれた。
「学校に行ったら、もう少しできるようになるって思ったんです。でも、全然・・・ファヴァーヴァル先生もイゴー先生も、スージー先生と言うことは同じで・・・でも、どうしてもできなくて・・・わたし、わたし、自分が情けなくて・・・」
アカーリアは涙をぬぐいながら言った。
「スージー先生には、私がここに来た理由を知られたくないんです。スージー先生はわたしの家庭教師なのに、わたし、他の先生に頼ろうとしているなんて・・・それって、スージー先生を貶めている気がして・・・でも、わたし、どうしても自分の悪いところを知りたくて・・・」
「わかった。理由はよくわかったよ、アカーリア」
ステアがアカーリアの背中を撫でながら言った。
アカーリアは、真っ赤になった目でステアを見る。
「さっき君が言ったように、ご両親には伝えよう。そして、君の魔法をよく見てみることにしよう」
ステアの言葉に、アカーリアはほっとしたように笑顔になった。
「ありがとうございます!」
「では、まずはご両親に連絡だな。ああ、それと魔法の授業だが2、3日待ってほしい。今、ケビンが寝込んでいるんだ。原因がさっぱりわかっていなくてね」
ステアはケビンに何があったかを、簡単に説明した。
アカーリアはそれを聞き、驚き慌てた。
「そ、そんな大変な時にごめんなさい!私、来るんじゃなかったわ・・・」
今にもベッドを降りて帰り支度を始めそうなアカーリアを、ステアが止める。
「まあ、待ちなさい。君が魔法に悩んでいることはよくわかる。ケビンについては原因がよくわかっていないが、とりあえず回復には向かっているようだし、君が心配することではない」
「は、はい・・・」
「今はケビンが倒れた原因について調べるのを優先させてもらうが、それが終われば、君の魔法についても考えよう。そう長くはかからないだろう。原因がわからなくても、ケビンのコーテャーが心配ないと言っているのだから、それほどの問題はないしな」
「あ、あのワンちゃんですね」
「そうだ。君もせっかく来たのだから、人間の生活を実体験してみるといい。なかなか楽しいぞ。料理は特に良い。おすすめだ」
ステアは楽しそうに頷きながらそう言った。
アカーリアは曖昧に微笑む。
来たタイミングの悪さに、落ち込んでいるようだ。しかし、それはアカーリアのせいじゃない。
「よし、それでは城にアカーリアの部屋を用意しよう。南向きの部屋に余りがあったな。あそこにしようか、クレイ」
「そうですね。今から掃除します」
「うむ、頼んだ。その間にアカーリアはご両親に連絡だ」
「はい」
アカーリアは頷いた。
迷いはあるようだが、帰る気はなさそうだ。
アカーリアも自分の魔法をどうにかしたいと、真剣なのだ。そうでなければ、二日も歩き通しでこの村を目指したりはしないだろう。