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ウォルバートン先生の家につくと、村人達が数人集まっていた。中にはベンジャミンさんもいる。この時間は畑に出ている人達だった。
「おお、クレイとメーラか。どうも、また、吸血鬼が来たみたいだ」
「この村も変わったなあ。吸血鬼に好かれる村になるとは」
「あんた達がうちの野菜食べてくれるとありがたいんだけどねえ。吸血鬼じゃそうはいかないねえ」
おっちゃんとおばちゃんがそう言って笑う。
家の中に入るとメイヤーさんが手招きしてくれた。病室のベッドがある部屋だ。
消毒液の匂いに鼻がつんとなる。
病室に入ると、見知った顔がベッドに横になっていた。
「あ、アカーリア!」
クレイとメーラは同時に叫ぶ。
「しい!大きな声ださないの」
「ご、ごめんなさい、びっくりして」
「何でここにいるんだ?こいつの家とは別方向なのに」
「メーラ、この子の家知ってるの?どこ?」
メーラがメイヤーさんにアカーリアの家について話している間に、クレイはアカーリアの顔を覗き込んだ。ちょっと顔色が悪い気がするが、吸血鬼ならば問題ない程度だ。
「あの、倒れていたって聞きましたけど・・・?」
「そうなの、ベンジャミンさんが朝早くに村の入り口で見つけたんですって。すぐにウォルバートン先生を呼んで、ここに運び込んでくださったみたい」
「・・・ってことは、アカーリアは昨日パッパース村に着いたのか?でも、なんで?」
メーラが首をかしげる。
そこへ、ウォルバートン先生が来た。
「ああ、クレイ、メーラ、来てくれたんだね。ケビンのところにいけなくて済まなかったね。朝からバタバタしてたんだよ。それで?この子は君たちの友達かい?」
「はい、アカーリアです。吸血鬼の」
「先生、アカーリアはどこか怪我しているんですか?」
「いいや、足が大分汚れていたけれど、どこにも怪我はなかったよ。倒れていたってのはおそらく疲労じゃないかと見ている。それか、お腹が空いているか」
「・・・・・・」
クレイ達が黙りこむと、先生が笑った。
「そんな心配しなくても、お腹が空いているのなら私の血をあげるよ。ステアさんで慣れているしね」
「ありがとうございます」
メイヤーさんが深々と頭を下げた。
「それよりも、心配なのはどうして倒れるまで無茶をしたかってことだね。たぶん、このアカーリアちゃんは森の中を歩き続けたんだ。靴があんなにボロボロになるほどに」
そう言って、先生はベッドの下におかれているアカーリアの靴を見た。確かに靴はボロボロだった。土と草がひっついて、中まで汚れている。かなりの悪路を歩いてきたらしい。
「なんで、飛んでこなかったんだ?蝙蝠になればいいだけなのに・・・」
メーラが呟く。
「まあ、その辺りはこの子が起きてから聞くとしよう。ひとまず、この子の素性がわかってよかった。この辺りじゃ見かけない子供が倒れていたって聞いて、村中が大騒ぎになるところだったよ。遠くの町で誘拐された子供が逃げてきたんじゃないかってね。誘拐犯が隠れているかもしれないって、森の中を探索するところだった」
先生はほっとした顔をした。
「さて、それじゃあケビンの様子を見に行こうかな。どうだい?ケビンは起きたかい?まだ寝ているかい?」
「あ、さっきまた、寝ちゃいました。でも、ご飯は食べました。半分くらい」
「あ、そうなのかい。それじゃあ、お昼過ぎくらいに行こうかな」
ウォルバートン先生は持ちかけた黒い鞄を、手放した。