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「おかしい・・・どうして、空を飛んできただけであれ程までに疲れているのか・・・」

 ステアが腕を組み、首を傾げて呟く。

 気絶したケビンを古城へと運び、ウォルバートン先生に診てもらって、ケビンは疲労のため気絶したのだろうという診断結果をもらった後の事だ。

 体力お化けのケビンが、ただの疲労で倒れるはずがないと思い込んでいたステア、クレイ、メーラ、それに村の人々は、気絶しているケビンを見て大騒ぎになった。 

 魔界で悪いものでも食べたのではないか、どこか見えないところい大ケガを負っているのではないかと、ケビンの服をひっぺがしたほどだ。

 幸いなことに、ケビンに怪我はなく、毒を飲んだ様子もない。

 ぐったりとした様子で目を閉じてはいるが、眠っているだけだ。

 「まあ、ケビンだって人の子だ。疲れて気を失うこともあるさ」

 ウォルバートン先生はそう言って、帰っていった。

 「クレイもメーラも平気だというのに・・・」

 ステアはさっきから、首を左右に傾け続けている。

 「疲れただけよ。あんなに長く空を飛んだのは初めてだったんだし」

 メイヤーさんが、キッチンで鍋をかき混ぜながら言った。ケビンが起きたら食べられるように、疲労回復に効くスープを作ってくれているのだ。キッチン中に良い匂いが漂っている。

 そこへ、お客さんがやってきた。

 クレイとメーラが帰ってきたことに加えて、ケビンが倒れたときいて、今日は村中からお客がひっきりなしだ。

 「こんにちはあ・・・ああ!クレイちゃん!メーラちゃん!お帰り!!」

 「おばちゃん!ただいまあ!!」

 村の雑貨屋さんのおばさんが来てくれた。

 「ケビンが倒れたって聞いて来たの。やっぱり魔界は大変だったみたいねえ」

 そう言っておばちゃんは、体に良いから食べてと卵をかご一杯くれた。

 「ありがとう!ケビンも大丈夫だよ。死んだように寝てるけど・・・」

 「・・・ちょっと顔見せて」

 おばちゃんはケビンの寝顔を見てから帰っていった。

 「ケビンまで魔法が使えるようになるなんて、驚きだよなあ!」

 「オレ今度、箒に乗せてもらおうっと!」

 村の子供達のいつものメンバーが、キッチンに集まりお喋りしている。ケビンの事を心配してついてきたのだが、今はクレイとメーラのお土産話を聞きたがっている。

 誰もがケビンはただの疲労だと思っていた。

 村に帰ってきたのがお昼過ぎ。夕方まで寝れば、スッキリと起きてきて、夕飯は一緒に食べられるだろう。

 そう思っていた。

 しかし、ケビンは夜になっても起きてこなかった。次の日の朝になっても起きる気配はなく、とうとうお昼になった。

 クレイ達はケビンの部屋に集まっていた。

 ケビンは寝相こそ違っているが、昨日の同じようにぐっすりと寝ていた。

 「おかしい。人間はこんなにも長く寝られるものじゃ無い。そうだろう?ウォルバートン先生」

 既に先生も呼び寄せてある。

 先生は難しい顔をしながら、ケビンを見下ろしている。

 「トイレに行った様子はあったかな?水を飲みにキッチンに行った様子は?」

 先生の質問に、クレイ達は顔を見合わせる。

 「トイレはわからないけど、水差しの水は減ってたような気がします」

 「そうか・・・しかし、もう丸一日だ。ちょっと起こしてみようか」

 ウォルバートン先生はケビンの背中にそっと触れて、軽く揺する。

 「ケビン、ケビン、起きれるか?」

 「・・・ん?」

 ケビンがうっすらと目を開けた。

 ぼんやりとした目でクレイ達を見る。

 「どうした?なんか、あったのか?」

 かすれた声だったが、ケビンがそう呟いた。

 クレイ達は、ケビンが起きて喋ったことに、ほっと安堵した。

 「まだ眠いかい?ちょっと起きてこないか?もう、お昼だ」

 「昼?え?そんなに寝てた?」

 ケビンは起きようと身を起こしかけたが、億劫そうだった。

 「・・・ステアさん、水差しに水をたっぷりと淹れて、持ってきてくれないか?食べ物があればそれも」

 「わかった」

 「あ、消化の良いものが良いかな」

 「私の作ったスープがあるわ」

 ステアとメイヤーさんが水とスープを用意してくれた。

 ケビンはベッドから降りるのもしんどそうだったので、ウォルバートン先生がベッドに座らせ、クッションを背もたれにしてくれた。

 「なんか・・・スッゲーつかれてる・・・すいません」

 「いやいや、いいんだよ。体に痛みはあるかな?」

 「いや、それは、無いです。ただ、眠いだけ・・・」

 ケビンはそう言っている間も、目をしょぼしょぼさせている。クッションにもたれて、今にも寝てしまいそうだ。

 水をコップにいれて差し出すと、ケビンは喉の乾きを思い出したかのように飲んだ。スープも少しだけ食べた。

 しかし、食べている最中に、うつらうつらし始める。

 「・・・ごめん、もういいや。寝たい」

 そう言うと、ベッドに横たわり、ほんとうにすぐに寝てしまった。

 ケビンのその様子を見て、ウォルバートン先生の顔はますます渋くなる。

 部屋中に嫌な沈黙が落ちた。

 ステアもクレイも、すがるような目でウォルバートン先生を見る。

 「・・・ケビンは死ぬのか?」

 メーラが静かな声で聞いた。

 「死なないよ!そんなこと言わないでよ!メーラの馬鹿!」

 「馬鹿って何だよ!?だって、こんなのおかしいじゃねえか!いつものケビンならとっくに起きてる!」

 「でも、死んだりしないよ!」

 「そんなのわかんねえじゃねえか!」

 「こらこら、あなたたち、喧嘩しないの」

 今にも掴みかかりそうになっていたクレイとメーラを、メイヤーさんが引き離し、部屋の外に連れ出す。

 「・・・うん、ひとまず、場所を移そうか。ケビンは今のところ寝ているだけだ。私にできることは無さそうだからね」

 ウォルバートン先生がそう言って、開けられることの無かった黒の医療カバンを持ち上げた。



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