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08.『嫉妬』

読む自己。

「杏さんの馬鹿!」

「なっ……んで」


 テストが終わってから数日後、私は溜まりに溜まった不満を彼女にぶつけていた。

 穂を杏が喜んでくれるのならと住ませたのは私だけど、あまりにベタベタしすぎていたから。

 だって私が洗い物をしている間にも一緒にお風呂に入ってイチャイチャとする。

 交代制と決めたこともあり、穂とベットに寝たときもイチャイチャとする。

 ……少なくともふたりでいるときは私を見てと言ったのに穂の名前をだしたりする。

 悪いのは私と穂だけど、どうしても杏に言いたくなってしまった。


「ちょっと菫っ、なんで杏に怒るの!」

「だってこの子が……あなたにばかり意識を向けるからよっ」

「そんなことないでしょ! 寧ろ杏は菫にばかり優しくしていると思うけど!!」


 言い争いをする私達を見て杏が静かに涙を流す。

 後悔したときにはもう遅くて、私は大好きなクッションを抱きそれを見ないようにした。

 ……杏だって贔屓したりしなければ怒らなくて済んだのに。

 今日はベットで彼女と寝る日だったのに気まずくて下で寝ることにした。

 案の定、穂が慰め杏も甘えるという構図に。

 ……私には甘えてくれないのも悲しかった。




 学校でもふたりが仲良くするところを呆然と眺めた。

 他の子は来てくれるのに杏だけは来てくれなかった。

 ご飯も教室から抜け出しひとりで食べて。

 帰るときも今日はひとりだった。

 家に帰って大好きなクッションに顔を埋めていると杏が帰ってきて言う。


「……迷惑だろうから穂ちゃんの家に行くよ」


 私はなにも答えられなかった。

 だから向こうもなにも言えなくて荷物を持ちでていった。

 どうしてだろうなんて言うつもりはない。

 私が悪い、醜く嫉妬した私が悪いだけだ。

 穂に甘えるのは当たり前、だって小学生の頃からずっと一緒にいるって言ってたし。

 それだというのにいつの間にか同じラインに立っていると自惚れてしまっていて。

 大好きなクッションを水滴でびしょ濡れにして。

 周囲は綺麗だなんだと持て囃してくれるけど、綺麗でも気になっている子すら振り向かせられないならなにも意味がない。

 時間が足りないから一緒にいて仲を深めなければいけないのに、自分から遠ざけてどうするんだ。

 自分のためだけにご飯を作るなんてこれまでは当たり前だったのに空虚さを感じて。

 お風呂にだけは入ってベットに寝転んだ。

 ひとりで寝るのも当たり前だった。

 部屋はある程度狭くてもベットは大きめが良かった。

 広々と寝られることが嬉しかったから。

 だというのに――


「……寂しいっ」


 その広さがいまの私には辛かった。




 昨日なにも答えなかったのが致命的だったのかもしれない。

 寂しくて仕方がなくて話しかけてはみたものの、視線を逸らして複雑な表情を浮かべるだけだった。

 それが悲しくてなにも言えなくて席に戻ってどうしようもなくて。

 やって来た穂が言う。


「いまはそっとしておいたほうがいいよ」


 と。

 優しさから言ってくれているのは分かる。

 彼女が杏をよく理解しているのも分かる。

 でも、誰のせいでこうなっていると思っているんだろうか。

 だから私は彼女にも当たってしまった。

 怒鳴られても彼女はこちらを可哀想な子を見るような視線をぶつけるだけだ。

 思わず立ち上がってしまったので静かに座ると、


「そういうところじゃないかな、それに杏に怒って距離を作られて私に怒るのはおかしいでしょ?」


 正論をぶつけてくれた。

 私はいつもの杏みたいに突っ伏して悔しさから泣く。

 そうだ、私が自分勝手に怒って距離を作られて寂しがるってなにやってるんだろう。

 周りの子が心配してくれて、「あの子は最低だよね」と言ってくれたけど。

 その全てが私に突き刺さったことを彼女達は知らない。

 全ての授業を終えて教室をでようとした際、楽しそうに会話しているふたりを眺めるしかできなかった。

 ベットは大きいけど家が狭くて本当に良かった。

 これで家まで大きかったら発狂して今頃、多分壊れていた。

 彼女の電話番号を選んで発信しようとしてやめる。


「も、杏からのメッセージ!」


 でも――


『今日みたいに迷惑しか掛けないから、もう近づくのやめるね』


 という内容で。

 私はスマホを投げつけ――はしなかったけど、完全に電源を消してベットに寝転んだ。

 終わりなら終わりと直接顔を見て言ってくれた方がマシだ。

 顔を見ずに言うのは卑怯ではないだろうか。

 それとも……顔を見たくないくらい嫌だったの、か。

 どちらにしても学校へ行きたくなくなるくらいのパワーがそこにはあった。

 不貞腐れているとインターホンが鳴った。

 どうでもよくて無視をしていると連続で鳴って仕方なく入り口に向かう。

 なんだおらぁ! と当たり散らそうと扉を開けたら。


「……輸送」

「えっ?」


 顔を涙でグシャグシャにした杏だけを置いて穂は扉を閉じて帰っていってしまう。


「あ……と、とりあえずリビングに」


 突っ立ったままの彼女の腕を優しく引いて私も輸送。


「……あの子はいつも困ったことしかしないわよね」


 直前に『もう近づくのやめる』とメッセージを送ったのにこれじゃあ気まずいだろう。

 穂に怒られて泣いたのか、本当は私と離れるのが嫌だったのか、……どちらだろうか。

 自分も同じように泣いているけれど彼女には泣いてほしくなくて顔を勝手にタオルで拭かせてもらう。


「……菫ちゃん」

「……なに?」

「……また怒られると思ったから関わるのをやめようと思ったの」


 ここで怒らないと言っても説得力がないので「そう」と答えておく。


「でも……今日泣いてたし穂ちゃんとも言い争いしているのを見て……」

「違うわよ、あの子は正しいことを言ってくれただけよ」


 杏のことをよく理解していることを改めて知った。

 彼女を泣かせるくらいなら自分から距離を置く方がいいのかもしれなかった。

 でもできなくて、寂しくなって、悲しくなって、不貞腐れて泣いて。

 だけど、なんでかは分からないけど穂が連れてきてくれて、いまこうして彼女と向き合えている。

 これがなかったら本当に終わっていた。

 だって「関わるのをやめる」と言われてどうやって近づけと言うのだ。

 それでも近づけるメンタルであったのなら、ベットに寝転んで拗ねたりなんかしないだろう。


「私は……菫ちゃんとだって一緒にいたい……でも、怒られるのが怖くて」


 テスト週間のときに彼女が言っていたことを思いだす。

 兄に怒鳴られるようになってから怒られるのが怖いんだと言っていたことを。

 それを聞いていたというのに私は自分勝手な理由、嫉妬から怒ってしまった。

 大きい声をぶつけて泣かせてしまった。

 ……拒まれる可能性はあったけど彼女の体を優しく抱く。 


「ごめんなさい杏っ」


 謝ってから謝罪していなかったことを思いだしてまた涙がでた。

 どれだけ不安な状態にさせてしまったんだろうと不安になって彼女を強く抱きしめる。

 彼女もまた拒むことはせず抱きしめ返してくれた。

 そのことがあったからだろうか?


「杏、離れてくれないとご飯も作れないしお風呂にだって行けないわよ」

「や……離れない」


 先日までとはまるで違う彼女がそこにいて。

 私は呆れつつも彼女が甘えてくれることに喜びを覚えて。

 なんとかベットのところにまで移動してスマホの電源をつける。

 穂に『今日はごめんなさい! ……それとありがとう』と送ってスマホを置いたら電話が掛かってきた。


「……仲直りしたいのに素直にならないから怒ったんだ」

「ふふ、だから泣いていたのね」

「違うよっ、一緒にいたいのに菫のためだと考えて別れを切り出したからだよ!」

「あ……ごめんなさい」

「……杏は?」

「私に引っ付いて離れないのよ、こういうときはどうしたらいいの?」

「ん~そうだね~……ない! ずっと抱きつかせておけば直るよ!」

「でも……ドキドキして仕方ないんだけど」

「贅沢言うな! 明日から私も行くかんなっ、覚悟してろよ!」

「あ……もう穂ったら」


 電源を消して杏の頭を撫でる。

 いつもこちらの髪を綺麗だって褒めてくれるけど、彼女のそれだって十分綺麗だと言えた。

 サラサラでキラキラで私と違って黒色で。

 私の方が触りたかった、でもできなかった。

 しかし、いま私は彼女のそれに触れられている。


「もーも、落ち着いた?」

「……うん」

「ふふ、今日はあなたが甘えん坊さんね」

「……本当はいつもこうなの、寂しいの」

「ええ、私も昨日からずっと寂しかったわ。そんなときにあんなメッセージ送られてきて、もう学校に行きたくないって思った。でも穂さんがあなたを連れてきてくれていまこうして一緒に入られる、それが凄く嬉しいのよ」


 離したくないという意思を込めて彼女を少し強く抱きしめる。

 例え彼女がそういう意味で私を好きになってくれてもそれでいい。

 穂を好きになったり他の子を好きになってくれてもいいから、せめてふたりきりのときくらいはと。


「菫ちゃん?」

「引っかからなくていいわ、ただ私があなたを抱きしめたかっただけよ」


 ……嘘だけど嘘じゃない。

 彼女が本当の意味で好きな子と幸せになってほしい。

 でも、それでも“もし”があったのなら。

 頑張ることで“可能性”が増えるのなら。

 いまよりももう少しだけ頑張るのも悪くしれないと、私はそう思った。

うん、嫉妬するのは心があるし仕方ない。

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