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07.『部屋』

読む自己。

 私は図書室でテスト勉強をしていた。

 中間テストとはいえ、しっかりと2週間前くらいからやっておかないと駄目なのだ。

 単純に家に帰りたくないからとも言えるけど。

 ちなみに、菫ちゃんの家にも穂ちゃんの家にもまだ住んではいない。

 どうしたってお母さんやお父さんが気になるし、ふたりに迷惑を掛けたくないから。

 だからあまり好きではないとはいえテストの存在は好都合となっていた。


「杏さん何時までしていくの?」

「あ、んー17時30分くらいまでかな」


 一応18時まで図書室はやっているものの、ギリギリまで残るのは申し訳ない気がする。

 私は数学のプリントから意識を外し目の前の女の子をチラリと眺めた。

 少し分からないところがあったのか唇にシャーペンを当てて「んー」と声をだしている彼女。

 悩んでいる姿すらも綺麗な女の子でこんな子とお友達でいられることを嬉しく思う。

 ……彼女について勉強している場合じゃないと残りの時間をきちんと集中した。


「んん~! ふぅ……帰りましょうかっ」

「うん」


 綺麗はただ伸びをしただけでも色っぽい、と。

 帰り道はいつもみたいに優しいオレンジ色ではなくどこか陰りのある世界だった。

 それでも彼女と帰っているだけであまり気にならなくなるから不思議だ。

 私が綺麗というわけではないのにまるで綺麗になったかのよう。


「……もうお別れね」

「うん、早いね」


 綺麗は寂しがり屋でもあって、明日も会えるというのにこうして長期間のお別れみたいな言い方をする。


「……杏さん、家に……」

「だめだよ、私がずっと居座るようになったらどうするの?」

「それでも……」

「だーめ、また明日会おうよ」


 しゅんとうなだれる彼女の頭を少し背伸びして撫でて、別れて帰路に就いた。

 お兄ちゃんのことがなければ自宅は実に平和な空間だ。

 以前と違ってただいまと言えばおかえりが返ってくるし話もしてくれる。

 父だって表情が明るくなってきている気がした。 

 あれから兄の部屋に行くこともなくなって。

 いつしか兄がいないのが当たり前となってしまった。

 恨みがあるとか憎んでいるというわけではない。

 最悪な展開にならないよう、刺激しないよう生活をしているだけ。

 だというのに、平和な空間なのにこの物寂しさはなんだろうか。

 ……それでも兄がでてくればみんなぎこちなくなってどうしようもなくなる。


「杏……この前はごめん」

「う、うん……」


 例え内容が謝罪であったとしても、私はもう兄の顔を見ることができなくなっていた。

 それがむかついたのか私に怒鳴り散らして2階へ戻っていく兄。

 あのときの怖さを思いだしてつつっと涙が頬を伝う。

 どうして私たちが我慢を強いられなければならないんだろう。

 早く施設に行ってくれと、……願うのはおかしいだろうか。

 菫ちゃんや穂ちゃんの家に逃げたいと、思うのはおかしいだろうか。

 お風呂に入って傷ついた心を癒やす。

 部屋で大好きな読書をしてもやもやをどこかにやる。

 寝て明日を迎えればまた数日感は顔を合わさない生活を送れるのだ。

 ……それでもお風呂に入ったあとに部屋で母と話した内容が不味かったんだろう。

 私がわざわざ寝て少ししてから兄が部屋に入ってきて「どういうことだ!」と怒り叩いてきた。

 無様に涙を流しながら「ごめんなさい!」と謝るものの、何回も頬を叩かれて痛かった。

 兄がでていった頃には顔はいろいろな意味でグシャグシャだった。

 私は非常識とは思いつつ家を飛び出して穂ちゃんの家に行く。

 顔が少しだけであったとしても腫れていたのか彼女は驚いた表情を浮かべて。

 部屋に上がってからは彼女も同じように泣いて。

 抱き合いながら朝まで寝た。




 放課後、私はまた図書室にいた。

 だけど全然集中できなくてもう痛くもないのに頬を押さえる。

 そうしたらズキッと痛くなった気がして突っ伏して泣いた。

 穂ちゃんから事情を聞いたのか「家に来なさい、それか穂さんの家でもいいから」と言ってきた。

 自分勝手だけど母とか父が心配とかそんなこと言ってられなくて。

 今日は横に座ってくれた彼女に抱きつきながら「逃げたいっ」と気持ちをぶつける。

 怖いと痛いを我慢し続ける生活を送れるようなメンタルはしていない。

 部屋が隣ということもあって変なことで難癖をつけられるかもしれない。

 手で暴力を振るっている内はまだいい。

 だけどなにか道具を使うようになったら?

 ……これは自衛だ、自分を守ろうとすることはおかしなことではないだろう。

 集中もできないテスト勉強はやめて彼女の家に行くことにした。

 外は生憎と雨だったけど、綺麗と手を繋いでいたから悲しくはならなかった。

 怖いから家の中にまで付き合ってもらって大きめのバッグにいろいろな物をつめた。

 母に事情を説明してそれから家をあとにする。

 彼女の家に着いて床に寝転んだ。

 あの家に帰らなくていいと思ったら一気に気が抜けたのだ。


「菫ちゃん……迷惑掛けちゃうけど」

「大丈夫よ、あなたが傷つかずに済むならいくらでも構わないわ」

「うん……」


 私もなにか返していきたい。

 でも、唯一できるご飯作りであっても彼女の方が上で。


「杏さん……」


 体を擦り付けるようにして抱きしめてきた彼女を抱き返した。

 この程度の行為でも喜んでくれるのならと。

 18時を超えた頃ここに穂ちゃんがやって来た。


「あー! ずるいよ菫っ」

「だって……」

「……もう私もここに住む!」

「べつにいいわよ」

「え、いいのっ!?」

「なにを驚いているのよ、杏さんが喜んでくれるなら構わないわ」

「ぐっ……中身まで綺麗なんてずるい!」


 分かる、彼女はずるいんだ。

 こんな子に甘えられたら断れるわけがないのに。

 3人で彼女が作ってくれた肉じゃがを食べて相変わらず美味しくて。

 お風呂に入ると穂ちゃんもやって来た。


「うーん、狭いなあ」

「もう、文句言っちゃだめだよ」

「でーも、こうして密着できて嬉しい」

「きゃっ……もぅ」


 私も……穂ちゃんがいてくれて嬉しいよ、あ、スキンシップはあれだけど。


「流石に3人は厳しいわね」

「私は下でもいいよ?」


 ふたりには体を休めてほしい。

 私は床でも兄に暴力をされないというだけで十分だ。


「そんなことできるわけないでしょうっ」

「そうだよっ、杏ってやっぱりばかなんだからっ」


 ええ……。


「大丈夫よ、穂さんが下で寝ればいいのよ」

「仕方ないなーいいよそれで」

「えっ? い、いいの?」

「なんで菫が驚くの!」


 そういうことならとベットに寝させてもらうことに。

 穂ちゃんはどこでもすぐに寝れるタイプなので寝息が聞こえてきた。

 菫ちゃんは甘えん坊さんなのかこちらの手をギュッと握りこっちを見ている。


「杏さん……」

「なに?」

「……穂さんがいるからそんなに落ち着いているの?」

「それもあるけど、顔を叩かれずに済むんだなと思ったらね」


 それだけじゃなくて菫ちゃんを信用しているからというのもあった。

 手をギュッと握り返すと彼女は小さく「あ……」という声を漏らす。


「ふふ、菫は甘えん坊さんだね」

「……やめて」

「だめだよ、だってこんな綺麗な子が甘えてくれてると思ったら言いたくなるよ」


 片方の手で白く柔らかい頬に触れる。


「熱いよ?」

「杏のせいよ……」

「じゃあやめよっか」

「駄目っ」


 私はゾクゾクと震えていた。

 身長も高くて胸も大きくて髪も綺麗、そんな子を自由にできているということに。

 ……た、叩かれても仕方ないかもしれない、うん、私は悪い子だ。

 冗談はともかく、からかうのをやめて目を閉じる。

 明日も学校だしあまり起きているわけにもいかない。

 それに……彼女の赤く蕩けた顔を見ていたら間違えてしまいそうだったから。


「お、おやすみ菫」

「……おやすみなさい杏」


 調子に乗らないよう気をつけると私は決めて寝たのだった。

杏は魔性の女。

相手は女の子だけど。

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