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05.『矯正』

読む自己。

 翌朝、言い方はあれだけど兄がメンバーに含まれなくなってからは少しだけ会話が復活し始めた。

 足大丈夫? とか、味濃くない? とか、単なる親と子の会話ができるだけで嬉しくなってしまう。


「母さん、杏、もしあれ以上至の態度が悪くなるようだったら施設に行ってもらうつもりだ」

「え……施設?」

「引きこもり矯正施設だ」


 母には言ってあったのか目を閉じて黙っているまま。

 確かに怖いけどなにもそこまでしなくてもとは考えて。

 だけどすぐに頷くしかできなかった。

 だってああいう行為からエスカレートして殺害、という流れが基本だから。

 昨日のを見たら「お兄ちゃんなら大丈夫!」なんて言えるようなメンタルではいられない。


「一応そうならないようあいつが望んだとき以外相手をしない、いいな?」

「うん……」


 少しだけ腫れた足を押さえて小さく答えた。

 食べ終わった食器を自分で洗って10時まで時間つぶしをする。

 とはいえ、大好きな本を読んでいたらあっという間に9時30分になってくれて外にでた。

 早く来すぎたのかふたりはいなかったけど、ブランコに乗ってぼけっとすることに。


「杏ー!」

「あ、穂ちゃん」

「杏、雰囲気暗いね」

「あ……うん」


 無意識に足を押さえたせいで鋭い彼女に気づかれてしまう。

 私の足を見て「どうしたの?」といつもと違って真面目な顔で。


「昨日……家に帰ったらお兄ちゃんがお母さんに物投げてて……抱きついて止めようとしたら押されて尻もちついて……私の答えが気に入らなかったのか足に直接リモコンを……」

「……もう駄目だね、そんな状態だと分かって杏を帰せない。今日から私の家に住んで」

「でもお母さんが被害に……」

「私はあなたに傷ついてほしくないっ」


 萩原家には何回も泊まったことはあるし彼女のお母さんとお父さんとも仲良く話せる。

 もしそうなったなら大好きな穂ちゃんと帰っても一緒にいられて暖かい時間を過ごせるだろう。

 でもそうしたら私の母も父もどうなるの? 家を空けているときに万が一、ということも0ではない。

 それにひとり増えるのは結構な負担になるわけだし、気軽に「うん!」なんて言えるわけないのだ。


「私の家に来なさい、ひとり暮らしだし問題はないわ」

「ふ、藤原さんっ?」


 なんだろう今日は……いや彼女とは約束をしていたわけだから、なにもおかしなことはないけど。


「ちょっと藤原さんっ、杏は私の家でいいの!」

「あなたのご両親がいたらきっと大西さんは申し訳ないと思うでしょう? いくら知ってて仲が良かったとしてもね。その点、私の場合は両親がお金を振り込んでくれているだけで家にはいないわ」

「うっ……確かに杏的にはそっちが合っているかも」

「ま、待ってください! まだ行くとは決めて――」

「「あなたに傷ついてほしくない!!」」


 と、とりあえずふたりの怖さに圧倒されてしまっていた飯島さんを連れてきた。


「し、シフォンケーキを食べましょう!」

「それが……ごめんなさい大西さん!」

「え?」

「き、緊張しちゃって……焦げちゃったので……」

「し、仕方ないですよ!」


 甘いものを食べさせてもらってふたりと戦おうって思ってたのに……。


「いまから行きましょう私の家に、見てからでも悪くないでしょう?」

「そ……うですね」


 というわけで藤原さんの家に移動。


「流石に狭いね」

「一軒家だとでも思った?」

「ふむ、でもふたりくらいなら普通に生活できるね」

「家事は全部私がやるし問題はなにもないわよ大西さん」

「ま、待ってください……揺れてしまうのでやめてください」


 自分ひとりだけ安全な場所に逃げるなどいいのだろうか。

 また母が泣かされてしまうのではないかと不安で仕方がない。

 あと……最悪な場合も……。


「それなら1日住んでみたらどう?」

「それがいいよ杏っ」

「あ……そ、そういうことなら」


 シフォンケーキを食べるという約束からどうしてこうなったんだろう。

 飯島さんはプルプル震えちゃっているし、いますぐにでもふたりきりになってあげたいけど。

 でも……この綺麗な女の子と一緒に過ごせるかもしれないと考えたら……駄目だった。


「あっ、私は部活あるからもう行くね! 杏、素直にならなきゃ駄目だよ?」

「うん……穂ちゃんありがと」


 入り口まで見送って部屋に戻る。


「あー……私はお邪魔ですよねー帰りますねー」

「え……あ、今日はごめんなさい、私のせいでこうなってしまいましたから」


 彼女は「今度は絶対シフォンケーキ焼いてきますね」と言って帰っていった。

 見送ったあと部屋に戻ってクッションに顔を埋めて心地良さそうにしている彼女に話しかける。


「藤原さん、いいんですか?」

「……ふぅ、あなた次第よ」

「……本当は綺麗な子と一緒に生活できるのは楽しいだろうなって思いました」

「……そう」


 いろいろ言い訳をしていたけどやっぱり怖いんだ私が。

 いますぐにでも逃げたくて仕方ないときにこんなこと言われたら影響受けても普通だと思う。


「家事は全部やってあげる、でもそのかわり条件があるの」

「条件、ですか?」


 お金、大切な物、部位、彼女はなにを望むのだろうか。


「敬語をやめてちょうだい」

「え、そんなことでいいんですか?」


 これから諸々のことでひとり分余計にお金がかかるのにそれくらいで……。


「本当は違いますよね? 隠しているお願いがあるんですよね?」


 それでは等価交換とは言えない。

 もっと踏み込んだ希望を言ってくれたほうが信じられるというものだ。


「……いいのよ、敬語をやめてくれるだけで十分だわ」

「だめですよ、隠さないでください」

「しつこい、それが条件よ」

「……それくらいでいいなら……藤原さん、よ、よろしく……」


 彼女は穏やかな笑みを浮かべてからギュッと抱きしめてくれた。

 それをしてくれる理由も分からないものの、私もぎこちなく抱きしめ返しておく。

 ゆったりとした時間を過ごしていたらあっという間に19時を超えて。

 作ってくれたドリアを「美味しい!」と食べ、ためてくれたお風呂に入らせてもらった。


「あ、でてきた、遅いよ藤原さん」

「ふふ、結構長風呂派なのよ」


 21時を超えて少しだけ眠くなってきたので床に寝転ばせてもらう。


「眠たいの?」

「うん……」

「寝ましょうかそれなら」


 連れてってくれたのは寝室では、部屋をほぼ占める大きさのベットが置かれてあった。


「……いいの?」

「ええ、寝ましょう」


 布団の中に入らせてもらって少し心を落ち着きなくさせる。

 同じように入ってきた彼女の手をギュッと掴んで目を閉じた。


「ばっ……甘えん坊なの?」

「うん……寂しいから」

「もしかして萩原さんにもこうしているの?」

「ううん……穂ちゃんのほうからしてくる」

「意外ね……」


 意外と寂しがり屋の甘えん坊さんで、そういうところが可愛いんだよね穂ちゃんは。


「杏」

「えっ!?」


 まさか呼び捨てにされるとは思わなくて大きな声をだしてしまった。


「……顔が赤いわよ」

「やぁ……」


 恥ずかしい、穂ちゃんやお母さんにだって呼ばれているのにどうしてこんな……。


「だってあなた、萩原さんといられないからそんなに寂しいのでしょう?」


 ドキリとしてなにも言えなくなる。

 そう、穂ちゃんの両親とも仲良かったらべつにいいかなとも考えていたのだ。

 それでも藤原さんにだって興味があってこうして一緒にいるわけなんだけど……隣にいるのが穂ちゃんじゃなくて寂しさが込み上げてくるばっかりで。


「……ごめん」

「謝られるとむかつくわ」

「あ……うん」


 手を離そうとしたら強く握られてできなかった。


「いいから寝なさい、おやすみなさい」

「うん……おやすみ」


 すぐに優しい力に戻してくれたので寝れないということはなさそうだった。

みのりが好きなのは仕方ないね。

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