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03.『自信』

読む自己。

 今日は藤原さんのアドバイスどおり早く掃除をしたので放課後暇だった私は図書室にいた。

 自分が選ぶとどうしても偏ってしまうのと、金銭的に新しいのを買う余裕はなかったからだ。

 椅子に座って普段は読まない本を読んでいると、横の椅子が引かれた音が聞こえて鞄をこちらにどかす。


「大西さん」

「うひゃ!?」

「……声が大きいわよ」


 額に手を当てやれやれと呆れた表情を浮かべている藤原さん。

 先程、彼女と別れたばっかりでまさか来るとは思わなかったからこれは仕方ない。


「ねえ、どうして私が行くとそんな驚くのよ、萩原さんが行ったときは抱きしめたりするじゃない」

「それは単純に……仲が良くないからですかね」

「はっ?」

「そ、そうじゃないですかっ」


 穂ちゃんは幼馴染というわけではないけどずっと一緒に過ごしてきた女の子だ。

 それに比べて彼女と会話し始めたのは一昨日なわけだし、無理もないと思うけど……。


「ねえ、私と萩原さんどっちが大切なの?」

「え、それは穂ちゃんですけど」

「はっ?」


 怖い視線から逃れるべく逆を向いたらカウンターの人に「静かにしてください」と怒られてしまう。

 というか……あの子だよっ!?


「大西さんあなた――」

「こほん、図書室はお喋りするところではありませんよ?」

「……またあなたなの?」

「なっ、し、失礼な反応ですね! 綺麗=なんでもしていいわけじゃないんですよ!?」

「図書室はお喋りするところではないわよ」


 その子は赤面し藤原さんは勝ち誇った笑みを浮かべていた。

 綺麗は負けず嫌いでもあるとも学ぶ……子どもみたいっ。


「だってあなたは大西さんを泣かせることしかしないじゃない」

「うっ……」


 うるうるとした目でこちらを見ているっ、……この子の味方をしたら怒るだろうか。

 でも見て見ぬ振りはできないから「この子が優しかっただけですよ」と言っておいた。


「怒ってくれるということは私に期待してくれているということですよ! ここを直したらもっと良くなるのにと考えてくれているということっ、私はそのことがとても嬉しいです!」


 ……図書室でだすべき大きさではないとしても言っておきたかったのだ。

 黙ったままのふたりを見て偉そうに言っちゃった! と後悔した私は、早々に本を片付けて図書室をあとにした。

 大丈夫悪口は言っていないんだしと内心をもやもやさせつつも私は走り、下駄箱にたどり着く。


「はぁ……はぁ……疲れたぁ……」


 靴に履き替え外にでる。


「ねえ、鞄忘れてたわよ」

「あ!」


 藤原さんが来てしまったことと、やらかしてしまったことを恥ずかしく思った。

 お礼を言って鞄を受け取ろうとしたら返してくれず、途方に暮れる羽目になる。


「……なんで逃げたの」

「え、偉そうに言ってしまったなあ……と」

「だからって挨拶もなしに帰ろうとするの?」

「……ご、ごめんなさい」

「あーもうっ……」


 せっかく綺麗な髪をガシガシとかいてこちらを睨む藤原さん。

 綺麗は短気、なのかもしれない。


「これからはやめてっ、嫌われているみたいで嫌なのよ」

「これは私が弱いせいですから、不安にならないでくださいね」

「……帰りましょう」


 綺麗は一緒に帰りたがりでもある、と。

 昨日と同じようにオレンジ色で優しい世界だった。

 いつもどおりでなんてことはない要素にそう感じるのは、なんだかんだ言いつつも付き合ってくれる藤原さんが横にいるからだろうか。

 今日注目したのはその白く綺麗な手。

 思わず触れたくなるくらいの魅力があって、無意識に近づいていたのか手が実際に触れてしまう。


「ばっ……な、なに?」

「あっ……いえ、手が綺麗だなって」

「……クリームとか塗っているもの、あ、当たり前の結果よ!」

「ふふ、子どもっぽくて可愛いです!」


 腰に手を当てつつ目を瞑って言うところとか特に。

 ……褒めたのに手をつねられてしまいすぐに涙目になったけど。

 別れのときがやってきて挨拶をし別々の方向へと歩きだす。


「こーら!」

「あ、穂ちゃん!」


 部活をしているとは言っても最後まで活動するわけではないから今更ここで会っても驚いたりはしない。


「……なんで毎日藤原さんを口説いているのっ」

「違うよ、綺麗だから綺麗だって言っているだけで」


 彼女の両頬を両手で優しくはさみつつ「穂ちゃんも綺麗なお顔だよ」なんて言ってみる。


「……ばか」

「そういうところは藤原さんに似ているかな」


 ぷいと視線をそらすところとか特にね。

 いつまでもここにいたってしょうがないので歩き始める。


「今日もお母さん微妙なんだろうな~」


 お友達とは上手くいっても家では気まずいままなんて悲しい。

 お兄ちゃんが仕事を始めれば雰囲気が柔らかくなるのだろうか。

 藤原さんと普通に会話できるようになったいまなら、きちんと怖がらずにぶつかれる気がする。

 ただ、これは自惚れだったんだろう……。


「余計なこと言うな!」

「……ご、ごめんなさい……」


 20時過ぎ、私はお兄ちゃんの部屋から敗北して撤退。

 部屋で涙しているとお母さんが来て私に言った。


「杏、変に刺激するのはやめて」

「……ごめんなさい」

「……どうせ言ったところで働きはしないわよ、無駄なことしていないで杏は自分のことをすればいいの」


 無駄って……とは思ってもお母さんがいちばん傷ついていることを知っているため言えなくて。

 だって高校を卒業して社会人になって少し経つまでは本当に優しかったんだお兄ちゃんは。

 行けるときはお母さんのお買い物に付き合って荷物を持ってあげたり。

 家にいればお風呂掃除とか洗い物とかを率先してやってあげていたりした。

 正直、私なんかよりもずっとお母さんの役に立っていて、仲も良かったからより悲しいんだろう。

 いつまでも泣いていたところで悲しいだけなのでお風呂に入ることにした。

 洗って湯船につかるとはぁと息がこぼれる。

 夜ご飯を食べたときも沈黙に包まれていたうえに、そこにいまのだから。

 窓ガラスがノックされ開けると穂ちゃんがいた。


「今日泊まってもいい?」


 1分後、彼女は同じように湯船につかりつつそんなことを言う。


「べつにいいよ?」

「やったっ、ありがと! ぎゅ~っ」

「は、恥ずかしいよぉ」


 スポーツ大好き少女ということもあって、筋肉も適度にありそして……胸も。

 自分にはないのにどうしてこの子にあるんだ! と鷲掴みした。


「ひゃんっ!?」

「……ずるい……ずるいよぉ」

「は、離してっ……あっ」

「ぱっつんにしてくれた罰だよ~」


 ……お母さんに怒られた。


「もぅ!」

「ごめんっ、でもそんなのを平気で人にぶつけてくる穂ちゃんが悪いのっ」

「……あっても邪魔なだけだよ?」

「言ってはならないことを言った! 逮捕ーっ」


 なんてやり取りをして疲れた私たちは部屋へと戻る。


「至さんだめだったの?」

「うん……」

「そっか~こんな可愛い妹からのお願いを断るとかありえない!」

「言われたくないことってあるよ誰でも」


 ベットの上で足をパタパタさせつつ大好きな本を読む。

 なんて幸せな時間なんだろうか……横に穂ちゃんがいることもすごく大きい。


「ねえ、どうして一気に藤原さんと仲良くなっているの?」

「仲良くなれてるかな?」

「だって藤原さん必ず杏のところに行くよね?」

「うーん、頼りないから心配なだけだよ」


 綺麗って言ったら微妙な反応になるし多分まだ信用されていないんだと思う。

 それと問題なのはあの子だ、今日はえらそうなこと言って逃げてきてしまったけど、明日絡まれなければいいな。


「でもほら……穂ちゃんはたくさんお友達がいるし、ね?」


 もしいまより距離ができてしまっても乗り越えられるようお友達を作っておく必要があると考えていた。

 だってひとりだとすぐに自惚れるし寂しがるし泣きたくなるし悲しくなるから。


「沢山お友達がいるからなに?」

「え、いや、私より優先したいことだってあるで――」

「そんなのないよっ」

「ううん、あるよ。だから無理してほしくない、無理させないためにお友達を作るの」


 利用しているとも捉えられてしまうので少し申し訳なさはある。

 それでも大好きな女の子に大好きなことを、大好きな子といられるようにしてあげたいのだ。

 それを考えたらいまのままではだめで、私もそろそろ強くならないといけないということだろう。

 なぜか泣いちゃった穂ちゃんを抱きしめて「泣かないで」と言った。


「うぅ……杏のばか」

「……穂ちゃんのためだから」


 私だって穂ちゃんにはいつも側にいてもらいたいけど、甘えてばかりではだめなんだっ。

 あの綺麗な人に綺麗だと言えたことで少し自信を持てたので、いままでよりかは上手くやっていける気がする、いや、上手くやってくんだ絶対に。

 そして私がもっと素晴らしい存在になれたなら、改めて彼女に「友達になって!」と言うっ。


「だから穂ちゃんが泣いてたら意味ないんだよ、泣かないで?」

「……寝る」

「うん、寝よっか」


 布団に入ってリモコンで照明を消した。

 穂ちゃんが手を握ってきたので握り返して、私は目を閉じて寝たのだった。

だからヒロイン候補を2人もだしたらいかんのよ……


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