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 山頂の神社への道のりは山の南東から入り北側をぐるりと回り南西まで四分の三周する。

 落石や倒木は数多くあるが人工物は昔に敷かれたと言う石畳しか四人の目に入らなかった。

 すでに異世界へ来たのではないかと錯覚するほど現代を示す物が目に入らない。

 数々の怪談の元ネタにも遭遇するが特に怪異は起きなかった。

 時々林の奥で物音が聞こえると驚き警戒するが、何事も無く神社の階段下まで辿り着いた。


「職員室から【さすまた】なんて持ってきたけど役に立たなかったな」

「何言っているの。役に立つのはこれからでしょ? 異世界に行ったら武器が必要じゃない」

「僕の【竹ぼうき】は必要なさそうですね」

「…無いよりマシ…」


 階段の下から見上げる神社は神聖さよりも妖しさの方が印象深かった。

 所々崩れた階段の上に石で出来た鳥居が見える。

 ここからでも崩れていないのが不思議なくらい古い事が分かる鳥居だ。


「雰囲気あるわね。いつまでも下から見上げていても仕方ないわ。みんな上へ行くわよ!」


 司の号令で、階段の数を数えながら、登り始めた。

 本当は百段しかない階段が百八段になる時『別世界の入口が開く』そんな怪談もあるのだ。


「百六、百七、百八! ねぇみんな。百八段よ! いよいよ異世界が見えてきたわ」

「お前にだけな。この階段は最初から百八段なんだろ」

「由宇。テンション低いわね!?」

「これからこの階段へ向かって思いっきりジャンプすると思うと、こっちの方が怪談だ」

「僕は男だから平気です!」

「…晶…膝震えてる…」

「武者震いです!」


 司は鳥居をくぐり改めて神社を見渡す。

 今まで暗い林の中を抜けてきたせいか陽の光を浴びて明るい神社は神聖なものに見えた。

 だが物凄く寂れている。

 そしてどことなくみすぼらしい。

 何年も何年も誰も来る人はなく、忘れ去られた神社。

 神聖に見えたのは一瞬だけであった。

 振り返り鳥居を見れば、太陽が中に入るまで、まだ時間が掛かりそうだ。

 司は一つの案を思いつき、みんなへと提案した。


「ねぇ。まだ太陽が鳥居の中に入るまで時間がありそうだし、神社を少し綺麗にしない?」

「…賛成…このままでは神様がかわいそう…」

「僕も賛成です。【竹ぼうき】はきっとこの為に持ってきたのですね」

「悪い事じゃないしな。みんながやるなら俺もやるぞ」

「全会一致ね! じゃあ始めるわよ。晶君は境内の掃除。鶴っちは手水舎を綺麗にして」

「俺は?」

「本殿の蜘蛛の巣掃いをお願いするわ」

「お前は?」

「総監督よ! 汚い所を探して指示するわ」

「はいよ。任せた」


 司の指示に由宇は文句を言わず従う。

 何を言っても無駄だと知っているからだ。

 神社の本殿は土塀なのかコンクリートなのか判別はつかないが硬く白い物体で出来ていた。

 元は輝くほどの白さであったのだろうが、今はくすんで染みにまみれ、大分灰色っぽい。

 入口は金属の扉で出来ていた。

 緑っぽいので多分銅製と判断した。

 扉はごっつい南京錠で封印されている。

 窓が一つもない為、中を覗う事は出来なかった。

 由宇は本殿を一回り。

 掃除するところの確認を終えると【さすまた】を使い、軒下の蜘蛛の巣から掃っていく。


「東海林さん。落ち葉とかはどうしたら良いですか?」

「そうね真ん中から端へ向かって掃いて周りの林へ押し込めば良いわ」

「そんな感じで良いのですか?」

「良いわ。他に方法思いつかないし。何か思いついたら晶君のやりたいようにやってね」

「分かりました」


 晶は長い間に溜まったのであろう落ち葉を綺麗にしていく。

 本殿と同じで長い間に泥へまみれ茶色くなってしまった砂利もあるのだろう。

 昔は白い玉砂利が境内に敷き詰められていた事をうかがわせる。

 掃除をしながら踏む玉砂利が鳴らす音は晶の耳へ心地よく響いた。


「鶴っち。手水舎はどんな感じ?」

「…水が枯れているわ…」

「綺麗になりそう?」

「…完全には無理…落ち葉を拾うくらい…」

「そう。やれる範囲でお願いね」


 鶴へ簡単な指示を与えると司は本殿へ。


「由宇。縁の下も綺麗にするのよ」

「はいよ」

「それにしてもこの本殿。怪しいわね。中を見て見たいと思わない?」

「絶対に南京錠を壊すなよ!」

「流石にしないわよ! 中が見たいだけ」

「神様に失礼だから覗くなよ」

「仕方ないわね。異世界への旅の安全を祈っておくわ」

「それは任せた」


 木製の賽銭箱は半壊していた。

 中を覗けばお賽銭の代わりに落ち葉で埋め尽くされている。

 司は賽銭箱へ五円玉を入れると『無事四人で異世界へいけますように』と祈る。


 しばらくすると神社の掃除が終わる。

 神社は少しだけ往年の輝きを取り戻した。

 時間もぴったりだ。

 太陽が鳥居の中へ入ろうとしている。

 司は掃除の出来にうなずくと、みんなへ指示を出す。


「みんな。掃除お疲れ様。きっと神様も異世界へ行く為に手を貸してくれるわ」

「…綺麗になった…」

「気持ちが清々しくなりましたね。これだけ綺麗なら怪談の数も減りそうです」

『子供達ありがとう。一度だけわしの加護を与えよう』

「【さすまた】が【スパイダースピア】へランクアップしたぞ」

「【スパイダースピア】って何ですか?」

「【スパイダースピア】とは【さすまた】の二本の角の間に蜘蛛の巣を張った空中を飛ぶ昆虫もゲット出来る素晴らしい武器だ。蜘蛛が居れば女子からキャアキャア言われる事も出来るぞ」

「…蜘蛛は我が眷属…」

「栗戸さん。こっちへ向けないでくださいね」

「晶へ絶対に向けないから安心してくれ。とにかく武器のランクが上がったって事だ」

「これで敵が出て来ても安心ですね!」

「…蜘蛛可愛い…」

「うんうん。気持ちが盛り上がってきたわね。みんな石を拾って」


 四人それぞれが少し大きめの玉砂利を拾う。


「それじゃあ。『いっせいのせ!』で投げるからね。準備は良い?」

「おーけー」

「準備出来ました」

「…いつでも良いわ…」

「じゃあ『いっせいのせ!』」


 四人が一斉に鳥居の上へ向かい玉砂利を投げる。

 それぞれ別の放物線を描きながら四つの玉砂利は奇跡的にも一度で鳥居の上へ全て乗った。


「見なさい! こんな奇跡が起こるかしら? 本当に異世界への扉が開いたのよ」


 司が手のひらを開いて手を繋ぐ事を促す。

 司の左手と鶴の右手が。

 司の右手と由宇の左手が。

 由宇の右手と晶の左手が。

 四人は一列に手を繋ぐと鳥居の中に見える太陽へ向かい全速力で駆け出した。


 四人が一斉に加速する。

 V1……もう止まる事は出来ない階段は目前だ。

 Vr……鳥居をくぐり、いざ跳躍と言う時に、晶が急ブレーキを掛ける。

 四人が同時にV2へ達する事はなかった。

 V2へ達した鶴と司は一斉に飛び立つが晶に引きずられて由宇は中途半端な跳躍となる。

 バランスは完全に崩れ四人はもつれあうように階段へ墜落していく。


 空中で天地が『ゴロゴロ』とひっくり返り始める瞬間。

 由宇は『女の子三人だけは俺が護らないといけない』と強い気持ちが浮かぶ。

 勇気を出して一度両手を離し、左手を懸命に伸ばし鶴の頭を手にする。

 そのまま司の頭も優しく抱えるように左腕の中へ。

 二人の頭を大事に抱え、右手を晶の頭へ伸ばしてキャッチ。

 護るように晶の頭を右腕で抱え込む。

 次の瞬間に体が硬い物へ打ちつけられた。

 由宇は『三人の頭だけは絶対に階段へぶつけない』と誓う。

 四人がもつれあいながら階段をどこまでも落ちていく。

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