↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
交換日記は下駄箱の中に  作者: くにたりん
第2部
PR
42/52

第10話 文化祭

「おい、はしゃぎすぎだろ」


 棒読みになった俺の声が、奴らには届かない。


 船木屋の帰り道、連れの二人は現実社会から離れたせいか、今にも羽ばたきそうなほど浮かれている。ように見えた。


 呆れるのを通り越して、正直、不安になってくる。


 二人のように俺は笑えないまま帰宅すると、約束どおり、じいさんの手料理を囲むこととなった。


 男三人が語り合いながら、夕食を平らげていく。待ちに待った久方ぶりの客人の食いっぷりには、じいさんも破顔しているようで何よりだ。


 とは言え、今回の滞在の目的を見失うことはない。晩飯を楽しみながらも、「桃子奪還作戦」と称して、熱く長い議論を交わしたのである。


 作戦名そのままに、議題は「いかにして桃子を本来の世界に戻すか」だ。


「青葉くん、そもそも、砂上さんは戻るべきなの?」


 そんな疑問が海斗の口から飛び出したことで、途中、俺と海斗の乱戦になってしまい、じいさんを慌てさせた。口の達者な海斗に論破されまくった上に、「もう帰ろうよ」と懇願される始末。


「まあまあ、仲良くね。その女の子の話を聞いてから、どうするか決めればいいんじゃないの? ねえ」


 海斗との小競り合いの最中、じいさんがデザートのプリンにスプーンを突っ込みながら、わりかしまともな提案をしてきた。


「ま、正論だな。明日、状況を見て決めようぜ」


 テレビに視線を向けたまま、雅次郎が面倒くさそうに呟いた。


 海斗と俺は顔を見合わせ、今夜はこれで手打ちにしよう、とお互い納得できないまま、無言で頷いたところで。


「星」


「なに?」


「その、なんだっけ。桃子? って女から、話をする時間をもらえよ。出来れば、学校から離れた場所がいい」


 彼女のことを偉そうに呼び捨てした雅次郎を、瞬時に睨んで短く答えた。


「ああ」


 口ごもる俺を他所(よそ)に、雅次郎はバラエイティ番組に向かって、指差しながら笑っている。


 その後、なんとなく誰も議題に触れることなく、差し当たりのない会話に終始し、就寝の時間となった。


 月明かりだけの薄暗い部屋の中、俺は布団の中から天井を見つめている。桃子へのアプローチを、脳内でシミレーションしていた。


 頭の中でさえ何度もつまずくようでは、お話にならない。会話の切り口を探すものの、彼女を連れ出す状況にまで持ち込む有効な手段が思いつかず、眠れないのである。


「なんで、俺が真ん中なんだよ……」


 小さいことだが、イラッとしてくる。すでに寝息が聞こえる両サイドを、俺は目だけを動かし見遣った。


 お行儀がよく、死んだように眠る海斗。

 独り言のように寝言を言い続ける雅次郎。


 さすがに疲れていたのか、とりあえず目を閉じてみると、瞼は重くなり、意識がゆっくりと遠ざかっていった。何の策も思いつかないまま。


 明朝、目が覚めてみれば、部屋には一人っきりだった。しっかりカーテンも開けられ、窓からぬるい風が弱々しく顔を撫でる。


 重く感じる額を押さえながら、ゆっくりと半身を起こして、掛け布団に投げ出した両手をぎゅっと強く握りしめた。


「こんなことしていて……大丈夫なんだろうか」


 あいつらと一緒にいれば、少しは気分も晴れるかと思ったが、一人にされると、どうも家のことが頭に浮かんでくる。


 ついでに、開け放しになった襖(ふすま)の向こうから、三人の笑い声が聞こえてくるものだから、滅入る気持ちに拍車がかかる。


 

**************



「おお、入口から祭りのムードたっぷりだねえ」


「当たり前だろ。文化祭なんだから」


「そんなこと言って、楽しみなんじゃないの? 雅次郎くん、学校イベントに参加するなんて初めてでしょ?」


「は? 初めてだけど? 何か問題ある?」


 浮かれた会話を交わす二人と並び、俺は一人、青白い顔で、久々にくぐる学院の校門を仰ぎ見る。


 力強い毛筆で「桜光祭」と書かれた、見上げるほど大きな看板。風船や手書きのイラストなど、装飾は一切なく、この力作一点に集約されているせいか、思いのほか迫力がある。


 門の先を見ればや、そこは鮮やかな祭りそのものだ。各クラスの催しものを宣伝する立て看板が左右に並び、校舎までの道のりを彩っている。


「朝から、結構お客さんが来ているね」


 のんびりと感心する海斗の口調とは反対に、俺は二人の後ろでギクシャクしながらついて歩いていた。


 雅次郎が歩きながら、素っ気ない素ぶりで振り返って言う。


「お前、緊張してるの? 今からそんなに張り詰めてどうするよ」


 呆れ顔で溜息をつく雅次郎に続いて、海斗までが、漫画のようなふざけたウインクを投げてくる。


「そうそう。肩の力を抜いてさ、かるーくお茶に砂上さんを誘えばいいんだよ」


 こいつらには俺の崇高な想いが、まったく通じていないように感じる。首筋から流れる汗を手の甲で拭いながら、俺はむすっと言った。


「人ごとだと思って……簡単に言ってくれるよな」


 いきなり、前を行く二人がその場に立ち止まった。


 振り返った二人と目が合い、思わず俺は顔をそらす。


「――なんだよ」


「ほら、肩の力を抜いて。まずはさ、安井くんの教室に行って、ケーキセットをご馳走になろうよ。リラックス、リラックス」


 続けて、雅次郎が口を開く。


「難儀なヤツだ。サクッと声を掛けて、デートに誘えばいいだけだろう」


 デート? 俺はヤツのニヤけた顔を、訝しげに二度見した。勝手にハードルを上げられては困る。


「雅次郎くん、デートじゃないでしょ。僕たち二人も同席するんだから」


「そっか。まあ、どちらにしろ、そんな気難しい顔して誘われたら、女も警戒するだろ。もっと、ゆるい感じにして欲しいね」


「よくまあ、ツラツラと……サクッと誘って、というのは、ただのナンパだろ? 見ず知らずの俺の誘いに、桃子が簡単に頷くとも思えんね!」


 鼻息荒い俺を見て、海斗が小さく頷きながら、ボソッと言った。


「確かに――それもそうだね。青葉くんだしなあ」


「今……かすかに悪意を感じたのは、俺の気のせいか?」


 海斗は苦笑した。


「ごめん、ごめん。そんなつもりじゃ」


 難しい話でも語るように、雅次郎が神妙な顔つきで割って入ってきた。


「いや、お前たちの懸念はもっともだ。緊張しまくりな上に、女に不慣れな星には、かなり荷が重いだろうよ」


「僕がその役を担っても構わないけど、当事者である青葉くんが誘い出したほうが、彼女からより多く話を引き出せると思うんだよね」


 俺が不甲斐ないばかりに、最初の関門でつまずいている、ということか。


 黙り込んだ男三人は顔を突き合わせ、それぞれの頭の中でシナリオを描いていた。しばらく考え込んだ後、雅次郎が歯を見せニッと笑い、馴れ馴れしく、俺の肩に手を乗せてきやがった。


「いいか? お前は本人を前にした時、どうあがいても上手く話せないだろう。だが、そのままでいい。無理して緊張を隠す必要はない」


 雅次郎の腕を払いのけながら、「そんなんで……上手くいくのかよ?」と不満を露わにした。


「いいんだって。ダダ漏れしている緊張感と、そのオドオドした態度。大いに有効活用しようじゃないの」


 雅次郎はそう言って、腰に手を当てると豪快に笑い始め、海斗もにっこりと微笑み「そうだね」と同意した。


「わりい……俺は全く理解していない」


 ボソボソと答える俺に、海斗が黒縁眼鏡のブリッジをクイっと人差し指で上げながら、フッと笑って言った。


「今回は策を練るより、正攻法の方が上手くいく確率が上がるだろう、って話だよ」


 こんな場面で偏差値というか、格の違いを見せてつけられたようで、気持ちも態度も豆粒くらい小さくなった。

読んでいただきありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。