草木も眠る深夜1時。
草木も眠る深夜1時。蛍光灯も目を閉じた月明かりで、時計の針と冷蔵庫だけが静寂を揺らしている。
そっと開けたはずの窓の音が、それでも大きいような気がした。
「しいちゃん?」
きりちゃんの声がする。
「月、すごいよ。雲が見えるくらい」
開け放たれた窓から、冷えた空気が流れ込んできた。
二人でしゃがみこんだまま空を見て、ちょっと体をくっつけたらきりちゃんも寄りかかってくれた。
お風呂の熱とシャンプーの香り。髪はちゃんと拭けてるかな? 風邪引いたら大変だもんね。
「…バイト、受かってよかったね」
「うん、長時間はほんとありがたいって」
「そっか」
「でもきりちゃんのお弁当はちゃんと作るから!」
「はは、ありがと。……」
下を向いて髪をいじりだしたから、私は黙って待つことにした。
「……その、怒らないで聞いてほしい…」
「うん」
「…おじさんにあんなかっこいいこと言ったけど…」
私、しいちゃんを幸せにできるのかなって。
「おじさんのところから連れ出して、こんな狭いアパートでさ。…あ、わ、私はすごい幸せなの! しいちゃん来てくれて、残業も平気になったし! …私の一生で使えるお金とか時間とか、全部しいちゃんにあげちゃってもいいし! …でも、それでも足りないのかなって。私のせいで、しいちゃん大学も中退にされて、進路も全然変わっちゃって、私ご飯作るのもあんまりだし、…もやし多いし」
どんどん声が小さくなるはとこ。かわいい。
「…そうだね。最初なんにもなかったよねここ」
「う…」
「埃っぽくて、お鍋なくて。フライパンでうどん茹でたよね」
「うう…」
「…でも私、きりちゃんが好きだよ? …きりちゃんは私のこと」
「好きだよ」
まっすぐ私を見てくれた。
「ないものばっかりだけど、私が…、私がしいちゃんを好きなのは、それだけは絶対本当だから」
「うん、じゃあ私ここにいる。…きりちゃんと一緒がいい」
ぎゅっと包んであげた。伝わるかな、私が幸せなこと。
「…ありがとう…」
「…それに、お母さん最初から大学は嫌だったみたい。それでお見合いって」
「そうなの?」
「うん。『めかけの子はよそにやれ』だって」
「目欠け? しいちゃん目が悪いの?」
「ん? 目はいいよ? …なんで急に目の話?」
「…目の話じゃないの?」
「……ぷっ! あはは…やっぱりきりちゃん大好き」
「ん? え? え…? …やったぁ」
「……ね、きりちゃん」
目を閉じて、少しだけ上を向く。
「…しいちゃん…」
まだ少しだけ緊張する両手が頬を包んで、唇が優しく触れ合った。
今回の着想を得た曲は椎名林檎
「アンコンディショナル・ラブ(無条件の愛)」です