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翌日もぼくはウーパーのところに遊びに行って一緒に遊んだ。学校がある日は朝から遊べないけど、家に帰ってから準備をしてすぐにウーパーのもとへ行くようにしていた。学校の友だちと遊ぶのも楽しいけど、ウーパーが教えてくれる宇宙の不思議な遊びの方がぼくにはよっぽど魅力的に思えたのだ。ウーパーは出会ってから数日後には、ぼくと会話ができるようになっていた。それは自動翻訳機のおかげだ。宇宙人は地球に来る時はみんなその翻訳機を持っていて、地球では通じない言語でも自動的に翻訳して会話を手助けしてくれるのだ。会話ができるようになると、ウーパーは出会った時はこの翻訳機が壊れていてぼくと会話ができなかったのだと説明した。地球の人間と会話ができなくて困っていた時、たまたまぼくと出会い、会話ができないのにも関わらず怖がらないで一緒にいてくれたことが嬉しかったのだと改めて感謝されて、ぼくはとても照れ臭かった。
ぼくはウーパーの本当の名前を聞いてみたけれど、ウーパーはウーパーのままで良い、と言って本当の名前は教えてくれなかった。どうして、とぼくはウーパーを見上げたけれどウーパーははぐらかすばかりだった。ウーパーはどうにもそういうところがある。あまり自分について語ってくれないのだ。ぼくはウーパーが嫌がるならあまりしつこくはしたくなかったけれど、宇宙人と親しくなる機会はそれほどなかったから、どうしても興味が湧いて色んなことを質問してしまった。答えられる限りは、ウーパーはぼくの質問に答えてくれたけれど、やっぱりはぐらかす方が多かった。
しかし、ぼくはそのことをあまり深く気にしてはいなかった。ちょっと隠し事があっても、ぼくたちが友だちであることに変わりはないし、ぼくたちは毎日たくさん笑って遊ぶ、良い友だちであったからだ。
台風の接近によって、空は思い出したかのように激しい雨を降らせた。家の中にいても雨が屋根を叩く音で不安になってしまうほどの豪雨だった。ぼくはウーパーのことが心配で、秘密基地のことが心配で、そわそわしていた。学校が休みになってしまったからやることもなくてヒーローシールを取り出して眺めてはそれを大事に仕舞いこむという作業を繰り返していた。
いつも楽しみにしていた番組の放送時間になり、暇を持て余していたぼくに母さんが声をかけた。最近はウーパーと遊ぶことを優先しすぎていて、すっかり見るのを忘れていた。少しだけ楽しみができたのだけれど、それは台風の影響を伝える緊急のニュースに変わっていて、ぼくはがっくしと肩を落とした。どうやらこの豪雨のせいで近所の山で大規模な土砂崩れが起こったらしい、ということがわかった。それを聞きつけて母さんも一緒になってテレビを見始めた。近所の山道は、父さんが通勤で使っているのだ。土砂で通行止めされたら、この悪天候の中遠回りして家に帰らなければならない。
二人が見つめる画面の中でスーツを着た年配の男性キャスターがニュースを読み上げる。
『こちらの土砂崩れですが、単に豪雨によって地盤が緩んだからではなく、何か強い衝撃が加わっていたということがわかっています』
現場の様子です、とキャスターが手を後ろに設置されているモニターに向けると、そこには無惨にも崩れ落ちた土砂の下に何かが埋まっている様子が窺えた。土砂にまみれたそれは、金属質のゆるいカーブを描いたものだ。そのところどころに青白く発光する装飾がついていて、ぼくはその光をどこかで見たことがあるような気がした。この機体がぶつかった衝撃と豪雨によって土砂崩れが起きてしまったのではないか、と推測の説明をしながらニュースは続く。
『土砂に埋もれたこちらの機体なのですが、調査によると地球滞在許可申請を行っていない違法な機体であることが判明しました。中には何者かが搭乗していた痕跡が残され、警察は不法侵入罪としてこの機体の搭乗者の行方を行っています』
土砂の方は山の下のほうで起きたらしく、道路には問題がないらしい。一応父さんは無事に帰ってこれそうだ。しかし母さんの表情は晴れずに、いやねぇ、と母さんは呟いた。ぼくは母さんの方を振り返って「ねぇ、これってどういうこと?」と問う。母さんは手を止めて、うーん、と少し考えた後に噛み砕きながらぼくにニュースの解説をしてくれた。
「宇宙から地球に来るにはね、『遊びにいってもいいですか?』って地球の偉い人たちに聞かなくちゃいけないの。黙って急に入ったら、びっくりしちゃうでしょ」
母さんは、ぼくが友だちの家に遊びに行くのに、友だちやその親に何の許可も取らなかったら驚かれるし起こられてしまうということに例えてくれて、なるほどとぼくは納得した。
「じゃあ勝手に入っちゃってごめんなさいって、謝らないといけないね」
ニュースになる前に、ちゃんと自分で言いに行けばいいのに、とぼくは思いながら母さんにそう返した。悪いことをしたら謝るべきで、それならば早いほうがいい。これも福島先生の教えだ。けれど、母さんは少し濁すようにしてそうね、とぼくに同意した。それを不思議に思って首を傾げると、母さんは決まり悪そうな顔をしながら「でもね」と続けた。
「地球には、宇宙人のことをあんまり好きじゃないって人も多いの。だって、言葉も通じないし、文化だって全然違うし、それに狂暴な宇宙人だっているし……」
頬に手を当てて憂い顔を浮かべる母さんはため息をつきながら目を伏せた。その視線がさ迷っていて、何かを思い出しているようだった。
「母さんは宇宙人が嫌いなの?」
ウーパーはすごく穏やかで優しいよ、ちょっと違う文化の方が知らないことがいっぱいあって楽しいのに、と口を滑らせそうになってぼくはそれを飲み込んだ。代わりに言葉なら翻訳機をつけてるでしょ、とだけ反論してみた。よく知っているわねと驚かれたので、少しひやりとしながら学校で習ったのだと嘘をついた。
母さんはまだどこか悩んでいるような様子で、眉間に軽く皺を刻んだ。
「嫌いってわけではないんだけど……ちょっと、苦手、かな」
ぼくが今一番の友だちだと思っているウーパーのことを、いつか母さんにも紹介したかったのにそれは無理そうだなと思ってしょんぼりしながらぼくがふうん、と鼻で返事をすると、ほとんど同時に炊飯器がぴいぴいと鳴いた。ご飯炊けたわね、と母さんは夕飯の準備を進める。テレビを振り返れば、違法宇宙人に関する情報を提供するための電話番号が画面端に表示されていて、ぼくはなんとなくそれから目を逸らし、夕飯の準備を手伝うことにした。