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三人称練習シリーズ

冬の夜にもらえるプレゼント

作者: 秋雨そのは

サンタクロースって信じますか?

 黒い空は黄色い星明かりに照らされて、流れる星の様に道ができていた。

 遮る建物が無い山の様な一角は、身を凍る様な冷たい風が少女と男を襲って……2人は身を近づけて冷たくなる体を温めていた。

 下に見える街は、空に光る星の様に輝いていて……赤いマフラーを一緒に巻き付いている男に寄り添って空を見上げている少女、沙月雪菜は空の中にある光を見つめていた。


「まだかな、まだかな」


 雲ひとつ無い空と街並みを見ながら、ワクワクが抑えられないように何かを待っていた……その時が来れば何かが起こるように。

 周りには誰もいない、この場所は特等席だと言うように。

 脇にいる男は、寒さに震えながらも必死に待っている雪菜を抱き寄せている……自分の温もりを分けるように。


 その時、ジングルベルが流れそうな鈴の音が聞こえた……雪菜は「来た!」と言って、立ちがあって空の上を走る何かを見ていた。

 サンタクロースは実際に存在はしないとしても、少女は信じていた。


(サンタクロース!)


 そう、今……光る街並みの上を空を駆けているのはサンタクロース。

 信じる者が入れば、嘘や迷信が本当になるように……トナカイ2匹がソリを引き、その後ろには大量の袋があった。

 そして……袋の中身を取り出し空にバラまいては、家の中にプレゼント箱の様な物は消えていった。

 その姿は、自然にこっちに向かって走ってきていた。


(プレゼントは何だろう!)


 雪菜は過去に一度プレゼントを貰っていた……それこそ人生がひっくり返るようなプレゼントを。

 どんなプレゼントでも人生はひっくり返らないと思う……だけど、雪菜は全てが変わっていた。

 トナカイのソリに乗ったまま、白い髭を生やした赤い服を来た人は……雪菜達の前で止まって、箱を差し出しながら言った。


「やぁ……元気にしてるかい、今日のプレゼントはちょっとびっくりするかもね」


 そう言って箱を渡して、返答を待たずに去っていってしまった。

 箱を受け取った雪菜は、隣にいる男に笑顔で「しゅん! 今回も貰っちゃった!」と言ってはしゃぎながら男に抱きついていた。

 しゅんと呼ばれた男は、顔を引きつりながらも抱きつかれるのは嫌じゃなさそうだった。


「本当にいたんだな……サンタクロースってのは」


「だから言ったじゃない! お……私はプレゼントで変わったのよ!」


 雪菜の言い直した言葉は、今の姿に似合わない様な物だった……言い慣れても油断してると出てしまいそうなる。

 今が最高に幸せの様な表情で、雪菜はしゅんに「こんな私を好きになってくれて、ありがとう」と言っていた。

 しゅんはそれに、呆れたような……諦めた表情で言う。


「俺は、お前の事を好きなのは変わらねぇよ」


 と雪菜に視線を向けて、言った。

 2人は、綺麗な鈴の音と共に……ソリに乗っているサンタクロースを見ながら、話をする。


――1年前


 夜空が彩る様に、街の雰囲気は寒さを忘れるような温かい賑やかさと共に、星が落ちてきた様なイルミネーションに囲まれていた。

 そんな街の雰囲気が少しだけ届かない、寂れた建物の上に立っていた。

 フェンスの奥に立ち、風が少し強く拭いただけでも振り落とさそうな場所。


(もうダメだ……俺は死んで、星にでもなろう)


 そうして、男はフェンスによって支えられた体を離して……温かな雰囲気の街へ落ちていく、はずだった。

 街は誰かが落ちてくる! 自殺よ! という声が鳴り響き……温かな雰囲気は一瞬にして台風の様に凍りつく。

 地面に頭が突く瞬間……時が止まった、そう止まっていた。


「やぁ……遅くなってしまってすまないね、昔のプレゼントを今あげよう、喜んでくれると嬉しいな」


 鈴の音と共に聞こえて来た声は、少し年老いた様な……それでもはっきりした口調の声だった。

 男は何のことだか分からずにいた……地面の顔スレスレの状態で、誰が話しているのかも分からない。

 声をかけた人は、男のすぐ隣に……2匹のトナカイにひかれるソリに乗った人がやってきて。


「本当は10年前に渡す予定だったのが、今になってしまった」


 男は、人生が嫌になっていた……いっその事、自分という体がなくなってもいいから一度でもいい、幸せが欲しかった。

 男は、両親に嫌われていた……その理由は単純、男に生まれてきたからそれだけだ。


 そして昔、そう10年前に子供の頃信じていた……サンタクロースにお願いしていたんだ。


――僕を女の子にしてくれ、こんな生活は嫌だ!


 男は変わったところで、何も変わらないと思っていても……両親が優しくしてくれるなら、望んでくれるならなりたかったと。

 赤い服の人は口調は、男の様で……髭を生やしているから、男だと思う。

 そして、男の目の前で……赤い四角の紐で包装された箱を渡す。


「それじゃ、渡したよ……来年も信じて待っていてくれるかな?」


 そう言って、トナカイを走らせて用は済んだとばかりに去っていってしまった。

 距離が離れた瞬間に、時が動き出すように地面に体が着く時……プレゼント箱が開かれた。

 開かれた瞬間に、目の前が真っ白になり……玉手箱の様な白い煙と共に。


 小さな女の子に、変化していた。


 それが沙月雪菜だった。

 頭から落ちている体は、地面に着地していて……着ていた黒のスーツは小さくなった体に合わないとばかりに、地面に落ちていた。

 雪が降り……寒い中、唯一ワイシャツの首元だけが体に収まっていた。


「智之! ……何処だ! あいつ馬鹿な事をしようとしてるんじゃないだろうな!?」


 沙月雪菜は後から付けられた名前……本当の名前は沙月智之、そして智之を呼んでいるのは唯一学校で出来た友達だった。

 薄着では極寒といえる中、急いできたのか長袖を着て……少しマシにするための赤いマフラーを首に巻きつけて、必死に名前を呼んで探していた。

 彼の名前は、葛城駿……沙月雪菜に寄り添っていた男の名前だ。


「しゅん……」


「!」


 その姿を見て、智之は……雪菜は呼んだ。

 言葉を聞いた瞬間に、駿はこちらを見ていた……変わった姿を見ても、驚いた表情をするわけでもなく、ただただ安心した表情になった。

 近づいて、幼くなっている智之と同じ高さにするために膝を折って……強く強く抱きしめた。


「お前が生きていてよかった……俺は、もう友を失う悲しみは嫌なんだ」


「……生きていていいのか? こんな、俺にみたいな奴が……?」


「いいんだ、お前が死んでいい理由なんてない! そんなに死にたいなら俺の後にしろ!」


 駿は、一切の友達を作っていなかった……それは、人付き合いが上手くないとかではない。

 智之は昔聞いたことがあった、彼の周りには死体が出来ると……それは、1筋のうわさからだった。

 友達になったものは、1週間以内に自殺や事故を起こし死んでしまうと。


 偶然だった……しかし、わざわざ近づける親もいなければ、近づこうとする友達もいなかった。


 そして、唯一怪我しても馬鹿騒ぎをやっても……死ななかったのが智之だった。

 智之からしてみれば、死んでしまえるなら構わないとばかりに、馬鹿騒ぎをしていた。


「俺は……誰かに愛されたかったんだ、親はお前なんか邪魔だ……何で生まれてきたんだと言われてきた」


 智之は親の喜ぶ顔が見たかった、子供から思っていた事はその1つだった。

 もしかしたら、愛してくれると思っていた……だけど、それも限界だった。


 そして……智之の体を持ち上げてブカブカのスーツと共に歩いて行く。


「これから楽しい事を探していこうな?」


 駿はそう言って、1人暮らしの部屋までそのままで……智之と駿は、親の許可の元……一緒に過ごすことになった。



 肌寒い風が、心地よい風に変わる時には……。

 部屋は窓から日差しが気持ちいいくらいの光が入り、2人は何処かに出かける準備で大忙しだった。


「しゅん! 早く!」


「わかってるよ」


 横に並んでは、好奇心を抑えきれないように、急かす智之……改ため雪菜は、駿の背中を叩いていた。

 黒い箱を持っている駿に、雪菜は小さい体を跳ねさせていた。

 それを、少し嬉しさを隠しきれていない駿の顔が見えていた。


「どうしたの、早くお花見の場所を取らないと!」


「分かってるっての」


(大丈夫かな、慣れない服だけど褒めてくれるかな?)


 そんな事を思ったのか、雪菜はハッとなって耳まで真っ赤にして、顔を覆っていた。

 その姿に駿は笑って、雪菜の頭に手を置いて撫でていた。

 その後は、雪菜が「子供扱いするな~」と言いつつ出かけていった。



 学校が始まり、熱くなっていく日差しと気温の季節には……。

 しゅんが休みに入り、2人で何処かに出かける準備をして行こうとしていた。


「家の親が、雪菜を連れてこいって聞かなくてな」


「しゅんと一緒なら、何処でもいいよ!」


 雪菜がしゅんに向けて、恥ずかしがるわけでもなく言うと……顔を背け「……俺はロリコンじゃね、俺はロリコンじゃね」と呟いていたが、雪菜は気づいていないようだった。

 耳まで真っ赤にして、熱い日差しの様に温かい雰囲気が包んでいた。

 雪菜は首をかしげて、今来ている服の様な……薄い白い服の様な、純粋な無意識に呟いていた。


「学校に行けない間、お前が寂しくしてるんだからと……聞かなくてな」


「そ、そんなこと無い! ……少し寂しいな、なんて思ったけど」


 体を背けたまま言うしゅんに、雪菜が強く言った後……段々声が小さくなると共に顔が赤くなっていた。

 部屋の中は、日差しや気温より熱くなっていた。

 それに耐えられなくなったのか、しゅんが振り向いて雪菜の手を引いていた。



 気温が下がり始め、紅葉が落ち始める季節には……。

 部屋の外で、小さな体で大きなほうきを持って、落ち葉をかき集めている雪菜の姿があった。


「しゅん~! 早くお芋持ってきて!」


「あぁ……こっちは寒いってのに、元気だな」


 下がる気温に元気な姿で叫ぶ雪菜に、やれやれという感じで手一杯の芋を持って、落ち葉が山盛りになっている所に歩く。

 山盛りの落ち葉と雪菜を見比べて、しゅんは呟く。


「よく集められたな」


「身長の事言ってるのか!?」


(しゅんは、どうなんだろう……)


 怒りつつも気になって、顔をうつむいた雪菜を疑問に思ったのかしゅんが「どうしたんだ?」という言葉をかけてきた。

 雪菜の気持ちを伝えようと、顔を上げるが中々声に出せない……。

 そして、頭を横に振り……しゅんの事を見つめると。


「しゅん!」


「あ?」


「俺……いや、私はしゅんの事が大好き!」


 その言葉を言ったら、雪菜は顔を下に向けて……先は聞きたくないとばかりに耳まで塞いでしまった。

 しゅんは、そのまま持っていた芋を地面に置いて……雪菜に近づいて。

 雪菜の頭に手を乗せながら呟く。


「そうか……俺も少し前から気づいていた事があったんだ」


「!」


「お前が大好きだったんだ」


 小さな小さな体の雪菜の頭を撫で、優しい口調でしゅんは呟く。

 何時からだという事は2人共分かっていなかった……けど、それに気づくのに時間の問題だった。

 雪菜は涙を浮かべながらも笑い……しゅんは優しく笑い。


「ずっと、一緒にいようね!」


「あぁ」


 そして、2人は冷たい片手を出して横に並んで……握っていた。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 雪菜としゅんは、プレゼント箱を2人で持ちながら草原に座り、懐かしい様な少し恥ずかしい話を終えた。


 2人は立ち上がり、プレゼント箱を開こうとした時……不意にプレゼント箱が開かれて、雪菜の体が白い煙に包まれる……。

 白い煙が晴れると同時に、雪菜の体に変化があった……。


「お前、その姿……」


「え?」


 煙から出てきたのは、少女の面影を残した……しゅんより少し身長が低い、女性の姿だった。

 服も変わり、サンタからの贈り物だからか……温かいサンタ服を着ていた。

 2人が躊躇ちゅうちょしていた、互いの気持ちを言えない一番の原因は、身体的な物だった……雪菜の体は丁度10年前の体という事、体の変化と共に医者から聞かれされていた。


「しゅん!」


 そう言って雪菜はその体のまま……しゅんに抱きついた。

 小さな体とは違い、重さに耐えられなくなって、2人は草に倒れてしまう。

 だけど、2人の顔は凄く幸せそうな顔をしていた……。


「サンタは、素敵なプレゼントをくれた!」


「そうだな……」


 そうして、寒さを忘れるくらい温かな2人の空間は……綺麗な鈴の音と共に輝いていた。

お読みいただいてありがとうございます

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