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太陽のない国  作者: 遅筆マン
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神話

「私たちは二千六百年前、とある勢力と戦争をしました。……そう、神です。ここまでは有名な話でしょう」

 齢七十にもなる神話学長ゲシヒテは朗々とか語った。もう教壇に立って三十年にもなるのに、その声は未だ衰えず、スッと糸が張るような語りだ。

「ここからはみなさんにしか話しません。また、この聖ウルスラ学園の中だけでしか話してはなりません。……よいですね?では話しましょう。

 神との戦争で私たち人間は大変な被害が出ました。神の怒りです。みなさんは神の怒りというと絵本のような、雷を落とすものを想像するでしょう。それは間違いです。あれは聖パウロに対する『訓戒』にすぎませんでした。『怒り』はもっと恐ろしいものでした。それは、国中で非常に危険な病が蔓延したのです。外に出るだけで次々に人は倒れていきました。それに対する治療法も、対抗する術も人間にはありませんでした。ただ、祈ることしかできなかったのです。その時初めて、私たち人間が驕り高ぶっていたことを知ったのです。神をないがしろにする、ましては我々を救ってくださる神に反逆するなどという愚行を犯していたのだと。……少しいっぺんにしゃべりすぎましたね」

 ゲシヒテは一つ咳払いをした。そして教壇から生徒たちを見やる。その眼は様々であった。一心不乱にメモを書き記すもの、一言一句聞き逃さまいと熱を送ってくるもの、自らの思い至った考えを吐き出したいもの。ただ、彼らの熱はゲシヒテに向けられているのがひしひしと感じられた。どことなく彼を急かすようにも取れる。

 「……さて、ようやく気付いた我々人間は神に許してもらおうとしました。しかし、それはあまりに遅かったのです。既に病は蔓延していて、神ですらすぐにどうにかすることが出来なかった。だから神は私たちにこう啓示してくださったのです。『地に沈むがよい。永劫の果てに夜明けが来よう』と。それからは長い長い年月、人間は地下で過ごしました。再び啓示が来るまで待っていたのです」

 ゲシヒテが口を閉じると、教室は静寂に包まれた。今では誰もが身を乗り出す様にして話を聞いている。

「そして再び啓示が訪れてからは、みなさんもご存じの通りの神話だ。神に許された人間はは種をまき、魚を獲り、子を成した。そして神を崇めるために、またもう二度と神に逆らうことなどないように教会を建てました。この聖ウルスラ学園もその一部ですね。……おっと、そろそろ時間だ」

 ゲシヒテのこの言葉を最後に、大きな鐘の音が学園に鳴り響いた。

「今日はここまでにしますが、決して外で話してはなりませんよ。それでは」

 そういってゲシヒテが授業を締めくくると、少しずつ教室内がざわめきはじめ、そのうち大きな喧噪となった。友人通しで意見を交換するもの、ゲシヒテに直接質問しに行くものであふれかえった。話題はもちろん今しがたの神話である。

 そんな中、ぼんやりと窓を眺める少年がいた。名はハイト・ヴァール。彼の様子にいぶかしんだ友人のバーンが、彼に話しかける。

「どうしたハイト」

「ああ、いや」

 彼はこの国の人間には珍しい少し立った鼻をバーンに向けて言った。

「今日も晴れだなって、思ってさ」


週1更新を目指します。

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