迷宮日記
悲しみを運んできたクリスマスに、乾杯(遅い)
雪の降る月 26日
ダンジョンの中もそろそろ快適を通りすぎて肌寒い
彼女いない歴=冒険者歴になりかけている俺は、訳あってソロでダンジョンに来てみた。
昨日のクリースマスの日、パーティーの紅一点が別のメンバーと結婚するなんて話を聞かされて
淡い恋心というか、あれ?俺実はモテてるんじゃね系勘違いが恥ずかしくなって顔を出せそうになくなった。
とかでは断じてない・・・断じて。
ゲフン
兎に角、今日は一人で居たかったのだ。
* * * * *
自身、そこそこ強いと自負しているが、流石に自棄になってもいつもパーティーで入り浸っている階層まで挑む勇気があるわけでもなく、日帰りで帰れるような深さの階層で鬱憤を晴らそうかと思う。
いつもは14層だが、8か9層までたどり着いたら帰ってこよう。
そう、考えながら入口の門を見上げる。
――1層。
ダンジョンを歩く。
一人でいると、昔のどうでもいいことが頭に浮かんでは消える
5年前の冒険者になりたての頃、この辺りで油断からゴブリンに刺されて死にかけた事を思い出す
――3層。
確か、いつも棍棒を持っている相手だから衝撃に強いフロートフロッグの防具を着ていれば
攻撃を受けても大丈夫だと思って突撃したらたまたま拾ったのか包丁を持っていて、
走りこんだ勢いのままブスッと腹に背中まで抜ける穴が空いたんだったか。
しかも錆びているものだったから破傷風にかかり1ヶ月ほど頭痛、吐き気、高熱のオンパレード。
あの時は本当に冒険者をやめようと思ったな。
――6層。
怪我の功名というか、また刺されて死にかけてはたまらないと魔法も使える、いわゆる
魔法剣士としての道を歩むことになったのだが、最初の段階で思いっきり壁にぶち当たっていた。
まず、魔導書を読む前に文字の読み書きができなかったのだ。
それだけで魔法を覚える前に1年近い足踏みになったのも良い・・・思い出じゃ、ないな。
最後の方なんて、物覚えが悪いからと教官の女性が家までやってきて勉強させられていたのだから。
――7層。
そろそろ物思いにふけっていると時には死ぬような所まで来た。とは言っても
見敵、
照準、
放射、で目を狙って魔法の矢でも撃ち込めば終わるような場所なんだが。
これで思い出したが、確かに物覚えは悪かったが魔力の練る速度と命中精度だけは
ギルド内でも覚えたての頃からいつも1番だった。
・・・魔物は一瞬の油断を狙って冒険者を殺しに来る。
その頃から、不意打ちやらにすぐ反応できる俺みたいな冒険者はもてはやされたものだ。
懐かしい記憶を先ほどオークの不意打ちで受けた怪我を魔法で治癒させながら懐かしく思う。
――10層。
気がつけば止める予定だった階層を通り過ぎていたらしい。
胃が音を出して空腹を訴える。
そろそろ昼を過ぎる頃だろうか、こういう時に限って食料を忘れた
急げば、日が暮れる前に門まで帰れるだろうと歩く向きを180度変え、また歩く。
――8層の深み。
意識をすると余計に腹が空く気がする。
この辺りが一般的な冒険者が装備を整え、ソロで活動できる限界の階層になる
ここから、センスや上等な武具がなければ生き残れない領域に入ってくる。
遠くから剣で斬り合う音が聞こえる。
音は一つだけ。多分、ソロなのだろう。
なんとなく、見に行ってみようと思った。
――8層の入り口付近。
金属同士が叩きつけられる音が曲がり角の向こうから響く
覗き込んでみれば、お下がりといったほうが良いような古ぼけた防具を身に着けた少女が
ミノタウロス いや、四つ腕だからハイ・ミノタウロスだな――と戦っていた。
土と血の飛沫に彩られたその顔は闘志に燃え華奢、と言うより可憐。可愛らしいと言うより美しかった
確実に、モテない俺には縁がない人種と言える。
彼女は既に、体力の差から彼女は防戦一方となっている。
俺が完全に姿を出した時、彼女はミノタウロスのフェイントに引っ掛かり、胴に一撃を貰う所だった
吹き飛ばされ、血を零しながら地面に転がる。
どうにか体を捻り致命傷は避けたようだが、立て直す前にミノタウロスは無慈悲に止めを刺すだろう。
同業者の危機でも自分に関係がなければスルーしても良い。一瞬、そういう考えがよぎったが
これ以上、寝覚めが悪くなる様な出来事をスルーできる人間でもなく
俺は静かに、ミノタウロスに向かって駆け出していた。
ミノタウロスの特徴を幾つか挙げるなら
とにかく筋肉質で生半可な剣では攻撃が届かない。
そのせいで打撃武器も効果が弱い。
しかも高い耐久力で、魔法を撃ちこんでも当て方によってはなかなか死なない。
という魔物であるため、これ以上のものがわんさかいる下層は仲間が必要になる訳でもある。
口の中で小さく<武器に魔力を>のスペルを唱える
取り出した短剣はそれを受け、仄かに青い光を帯びる。
完全にこちらへ気がつく前にまず、動きを鈍らせる為に右の膝の裏を狙って短剣を突き出す。
皮膚の弱い抵抗の後、ズブリと刃は皮膚を突き破り関節の間へ割り込む、そして抉るように完全に膝を破壊した。
すぐさま短剣を引き抜くと、残った片足で踏ん張るミノタウロスの首。最大の急所へ力の限りもう一度突き刺した。
音を立て地面へ倒れるミノタウロスを無視し、彼女へ駆け寄る。
ここの致命傷ではない、はそれが即死ではなく、治療が間に合うという意味だ。
つまり、このまま放置すれば5分と経たずに死ぬであろう出血を止めるために一先ず、防具の留め金に手をかけた。
怪我は思ったよりも酷かった。
最低限の急所を守る、ソフトレザーを剥がしてみれば
傷はもう少し深く切り込まれていたらショックで即死してもおかしくないものだった。
はみ出そうな胸・・・ではなく、中身を押し込みながら手持ちの消毒液を振りかけ、
まずは傷口を焼き、簡単にくっ付ける。
気絶してくれているのはありがたい。
くっついたら一度火傷は置いて、内臓のダメージと傷を完全に治す。最後に火傷を完全に消す。
これが野郎、特にイケメンだったらまず顔を炎で念入りに治療してから顔をそのままに怪我を直してやる所だが、基本的に女性だけは綺麗に(周辺や古傷も含めて)治すようにはしている。
前に女性を治した時は、『ふん、貴様には礼をしなければならんな』と言われたんだったか。
その後の『後で家に寄って行け』の時にやけにそわそわしていた辺り、裸を見られたのが
よほど嫌だったのだろう。あれはお礼違いで速やかにボコボコにされると思ったから逃げた思い出だ。
10分ほどかけ、何もなかったように治した俺は少しの間周りの警戒に注意を向けていた。
彼女の意識が戻ったらしい動きを見て、目を開けようとしている彼女から俺は同じように逃げる為
自分の上着をかけると、そそくさと逃げるように階段へと向かう。
背後から声をかけられたようだったが聞こえなかったフリをしつつ、そのまま歩き続けた
ここまで来れる冒険者なら、ダンジョンから出るだけであれば一人でも、大丈夫だろう。
何日かして俺の下に一つの噂が流れてきた
曰く、そいつは命の恩人を探しているんだとか。
借りを返さなくてラッキーで済ませればいいのに、そいつも|"どいつ"《恩人》もお人好しなのだろう。
・・・・全く、いつになれば俺はモテるようになれるだろうか。
半月ほど前にやっとお酒が飲める歳になり
ついでにちょっと変わったものも書いてみたい年頃にもなりました。
なんでラノベ主人公とかはあそこまで露骨なフラグにも気が付かないんですかね?
呪いでしょうか いえ、朴念仁です。
それかケフィア。