第3話
「おーいお嬢ちゃんこっちハンバーグ定食三つね」
「はいかしこまりました。 少々お待ちください」
「サリアちゃん水おかわり」
「はい、どうぞ。」
「サリアちゃん今日もかわいいね。」
「まぁ、ありがとうございます。」
時間は現在、十二時三十分オーゼ食堂はいつお通りの常連であふれかえり大盛況となっている。
料理がおいしい、安い、そして大盛りという三拍子がそろっており、さらに近くに冒険者ギルドがあるためか、新米の冒険者がよく食事に来ていた。
もちろん、ずっとこの食堂を利用している熟練の冒険者の姿もちらちら見かける。
サリアはそこでいつもの様に接客をしていると初見のお客が来店した。
「いらっしゃいませ二名様ですか? ただいま席が全部埋まっておりますので、しばらくお待ちいただくことになりますがよろしいですか?」
ちょうど満席となっていたためサリアはいつも通りの対応をした。
「ああ、何だよ待たなきゃいけねーの?」
「……はい、申し訳ございません」
「ああ、んだよ、ちっさい店だから繁盛してねぇと思ったのに、これじゃあ飯食えねぇじゃん」
やってきたのは冒険者と思われる二人組の男だった。
1人はがたいがよいスキンヘッドの男で文句を言った男だ。
もう1人は小柄な男で、肩までかかるぼさぼさの髪がとてもむさ苦しい印象を与えている。
サリアはあまり良い印象を持てなかったが彼女がどうこうできる相手でもなく、またどう対処して良いのかも分からずに困惑していた。
「しゃあねーな。 まぁ俺たちは優しいから席が空くまで待ってやる。 その代わりあんた、ちゃんと俺達にサービスしろよ。それと、仕事終わったら俺たちと遊ぼうぜ」
「……それは申し訳無いのですが、無理です。」
「ああっ! お客様がせっかく待ってやるって言ってるんだそれくらい当然だろ」
「そんな……」
「つべこべ言わずにお客様の言うことを聞きやがれ!」
男が声を荒げた時スキンヘッドの男の後ろにいた小柄な男の方が「ひっ」と小さく息をのんだ。
それにスキンヘッドの男が気づき周りを見ると他のお客達が全員男2人をにらみつけ、先ほどまで賑やかだった店内はしんと静まりかえっていた。
「な、何だよおめえらやるってのか!」
男は威嚇するように声を張り上げたが、それはどこかおびえを含んでいるように響き、最初の威勢は無くなっていた。
「ちょっとぉ、急に静かになったんだけどぉ。何かあったのぉ?」
厨房からオーゼおばさんがのしのしと歩いてやって来るとサリアと男達の間に立ち、オーゼおばさんの体に隠れて男達の姿がサリアから見えなくなった。
「お、お前がこの店の店主かよ、せっかく食事に来てやったのにすげー不愉快な思いをしたぜ。どうしてくれるんだよ!」
「まぁー、それはごめんなさいねぇ。でも、ルールだからちゃんと順番は待ってねぇ。どうしてもお腹がすいて我慢できないなら、その辺の屋台で何か買って食べたら良いんじゃないのぉ」
「はぁー、人がせっかく食事に来てやったて言うのに何だよ。」
相手が女と思ったためか、さっきよりも明らかに強気になってすごんできたが、オーゼおばさんは特に何とも思わなかったのか、いつもの様に人の良い笑顔で対応している。
しかし、男はオーゼおばさんが下手に出ているのを良いことにどんどんつけ上がっている。
サリアは助けを求めるように、周りをちらりと見ると先ほどとはちがいなぜかいつもの雰囲気に戻りつつあった。
サリアはあれっと思う。
なぜさっきまであんなにぴりぴりしていたのにこんなにも普通に戻ったんだろう?
しかも一部の常連に関してはわめいている男を見てにやついていた。
「てめえみたいな図体がでかいだけのデブ女なんて軽くあしらえるんだぞ! 分かってんのか!」
一瞬、時間が止まったようにサリアは感じた。
「……二名様ぁ、お帰りですぅ。 ドスコーイ」
そんな声が聞こえたと思ったら周りの空気が震え、オーゼおばさんの向こうで何やら鈍い音が聞こえた。
サリアはびくっとしつつも、そろっとオーゼおばさんの後ろから顔をのぞかせた。
すると、店の入り口から五メートルほど離れたところにさきほど散々わめき散らしていた男が仰向けに倒れているのが見えた。
そしてもう一人いた小柄な男の方は大柄な男の巻き添えになってしまったのか、下敷きになって気絶している様だった。
「いやねぇー、私はちょっと他の子より体が大きいだけでデブでは無いのにねぇ。 ちょーとふくよかなだけなのにねぇ」
そう言って「ほほほ」と笑い、オーゼおばさんは入り口のドアを閉めると厨房に引き返していった。
固まっていたサリアを呼び戻すかのようにお客が声をかけられ、サリアは何事も無かったかの様にアルバイトの終了時刻となった。
「お疲れ様でした」
「はい、おつかれさまぁ。 また明日もよろしくねぇ」
その日のアルバイトを終えサリアは訓練をするためギルドに向かい歩く。
訓練をしていてもなんだかあまり実力がついていっているように感じずサリアは悩んでいたが、今日はギルドの訓練所でオーゼおばさんのかけ声をまねをすれば何か変わるかもしれないと根拠の無い自信を胸にギルドに向かい歩みを進めていた。
今日は少しでも早く訓練をしたいとサリアは思い、いつもは使わない近道の路地裏を歩いていた。
入って少ししたところに人が倒うずくまっているのが見えた。
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