ユウとユウ
「ああ、本当に私たちは兄妹ではなくて父娘になっちゃったわね」
「仕方ないだろう。真実を明かすわけにはいかないのだし」
「まあね。お互いに仕事上の都合もあるものね」
目の間にいる悠は、大げさにため息を吐きながら言った。何だかんだ言っても、僕は未成年だし、仁美さんは以前に大騒動を起こしている。それで、僕と仁美さんの結婚は所属プロダクションには報告はしたけれど、決して歓迎されるものではなかった。子どもがいる以上、仕方ないという反応だった。それに、やっと始まった仁美さんとの新婚生活を楽しみたかった。それで、秘密裡の結婚生活になるはずだった。
だが、マスコミにすぐにばれてしまった。同じプロダクションの未成年の俳優と女優が同じ家に帰っていくのだ。疑うなと言う方が無理だろう。しかも、小さい子までいる。2人の間の子ではないか、と更に疑いが増すのは当然だった。結局、僕は仁美さんとの結婚を公表せざるを得なくなった。さすがは、元お騒がせアイドル、今度は娘の彼氏を略奪結婚、という見出しまで某週刊誌は僕たちの結婚の公表の際に用意して出してくれた。僕は嵐が過ぎ去るのをじっと待つしかなかった。悠は僕と仁美さんが結婚した際に、僕と仁美さんの養女になった。それ故、僕は悠にとって養父と言う立場になったのだ。
母と勇が結婚する際に問題になったのが、私の立場だった。具体的に言うと、私の戸籍上の実父を正式に勇の実父にするかどうかだった。死後認知の裁判を行えば、勇と私が異母兄妹なのは証明されるのは確実だった。でも、そうすると母が勇の実父の愛人だったことが明らかになってしまう。幾らなんでもまずいという話になり、母がそれは止めたいと言いだし、勇も私も納得したのだった。勇はその代りに私を養女にすることを申し出た。公式に私を妹と認められないことへのせめてもの代わりになればということだった。私も母をそれを受け入れた。
「それにしても、私たちのお父さんは本当に美和子お祖母さんに殺されたのかしら。本当に殺されたのなら、なぜ死の際に問題にならなかったの」
「誰が告発したがる?それに表向きは単なる自損事故だった。警察も熱心に捜査するとは思えない」
悠は僕たちの父が僕の実母に殺されたのかもしれないという話を聞いてショックを受けた。なぜ、自分の実母が死後認知を求めなかったのか、という疑問が解けたものの、更なる疑問が生じたからだ。だからといって警察に駆け込み捜査を求めるべき云々までは、悠も言わない。余りにも事が重大すぎる。僕も殺人者の息子にはなりたくない。悠は苦悩した末、父の死については疑惑のままでこのまま永久に封印するという僕と母の仁美さんの判断に従うことにした。それに16年前の話だ。今更、新証拠が出てくるとは思えないし、僕の実母が証拠を完全にすでに隠滅しているだろう。
私は勇の話に完全には納得できなかったが、父の死については疑惑のまま封印するという養父母の判断に同意せざるを得なかった。証拠もなしに、勇の実母の美和子さんを殺人犯として告発は確かにできない。私は内心で父に真相を封印することを何度も詫びた。
「それにしても、どうして、父は私の名前をユウにしたのかしら」
「何れ、僕たちが会った時に同じ名前と言うことで分かってほしいと考えたからだと思うな」
「確かに同じ名前でなかったら、気づかずに終わったかもね」
僕たちはお互いに得心した。ユウ、この名前のお蔭で僕たちは知り合い、家族になれたのだ。
事実上の完結です。次章で、エピローグとして、裏でのユウの母2人の会話を描きます。