悠
「一体、何があって私を避けるの」
「ごめん。君を妹として見ることが出来なくなったから」
「は?」
「君を娘として見ないといけなくなった」
「何を言いだすの」
勇に対して、私の異母兄かもという話をしてしばらく後から、勇の態度がおかしくなった。私を避けるようになったのだ。自分でも、いきなり知人からそんな話をされたら、その知人を避けたくなることもあるだろう。だが、何となく私の心の琴線に触れるものがあった。なぜなら、私の母が妙に上機嫌な日々が続いていたからだ。
「何かいいことがあったの?」と私が尋ねると、
「秘密」と母に笑ってかわされてしまう。
1日、2日ならともかく、そんな日々が母に続くのはさすがに怪しい。私の勘は、勇と母の態度は関連しているとささやいた。母を問い詰めても、あっさりかわされそうだ。ここは勇を問いただすべきだろう。勇を半分強引に例の喫茶店に連れ込んで、私は詰問した。そして、冒頭の顛末になった。
勇は頭を抱え込みながら、小声でつぶやいた。
「君のお母さんと関係を持ってしまった。何といえばいいか分からない」
私は頭の中が沸騰した。勇の腕をつかんで、喫茶店の会計を済ませた後、勇を半分引っ張って、自分の家に連れ込んだ。勇は私の成すがままだった。それが私をますます苛立たせた。私の家に着くまでに勇は私に何度か話しかけたが、私には何を言っているのか、さっぱりわからなかった。それくらい、私は興奮しきっていたのだ。
母は家にいた。私が血相を変えて、勇を家に連れ込んだことで、真相が発覚したと思ったのだろう。母は何とも言えない表情を浮かべてから言った。
「あら、ばれちゃった?」
「ばれちゃったじゃないでしょう。何を考えているの」私は激昂して、母に話しかけた。
「ええ!勇を恋人として好きになっただけじゃない。何が問題なの」
「ややこしいから、ゆうというな」私はますます激昂した。さすがに母はまずいと思ったのだろう。
「ま、落ち着きなさい。落ち着いて話し合いましょう」と母は言った。私は憤然としたが、このままでは話が進まない。私は応接間に勇を引っ張り込み、母と勇を私の前に座らせた。
「何もかも話してくれる」私は啖呵を切った。
「私が勇を好きになって、勇も応えてくれた。そういうこと」母は悠然と言った。
「自分の歳とか、立場が分かっているの」
「私は20代、勇は10代、大した歳の差はないわ。そして、私と勇の間に血のつながりはない。恋人になって、将来、結婚しても私と勇に問題はないはずよ」
「常識を考えてよ。私からしたら、兄と母が結婚することになるのよ。大問題だわ」
「世界的にはよくあることよ」
「お母さんのいう世界が、一般の世界とは違うのが今の一言でよく分かったわ」母と私は論争した。すると、勇がおずおずと言いだした。
「それよりも言わないといけないことがあると思うのだけど」
一体、何をしでかしたのだ、この母と兄は、と私が思っていると、母が、
「そうそう、あなたに言うことがあったわ」と言い出した。
「喜んで、あなたの妹か、弟が出来たわ」
「は?」私は今日、自分でも何度目か分からなくなった科白を言った。
「勇の子どもを妊娠したの。運命ってあるのね」母は幸せそうに言った。私は茫然自失してしまった。