勇
「あら、悠は仕事で出かけて家にはいないわよ」
「知っています。悠を交えずに直接、あなたと話をしたかったので来ました」
「何を話したいの」
「悠は僕の異母妹なのですか」
「玄関先で話すことではないわね。中で話さない」
「分かりました」
悠のお母さんは、ある程度、僕が来ることを予期していたのか、僕がいきなり来ても驚かなかった。悠のお母さんが出かけていたらどうしようと僕は思っていたので、幸運だった、とこの時の僕は喜んだ。
悠のお母さんは、応接間に僕を案内すると、長い話になりそうだからお茶を準備すると言って、部屋から出て行き、しばらくしてお茶を持ってきた。悠のお母さんが腰を落ち着けると、僕はあらためて話を切り出した。
「本当のことを話してもらえませんか」
「本当のこと?何が本当なのか、あなたには分かるの」
「少なくとも悠と僕が血のつながった兄妹なのかどうかは分かるつもりです」
「確かにそのとおりね」
僕と悠のお母さんのやり取りはそんな感じであらためて始まった。悠のお母さんはお茶の香りをあらためて楽しむようなふりをした後、ゆっくりと話し始めた。
「悠があなたの異母妹なのは本当よ。でも、悠の父は表向きはいない。何故か分かる?」
「悠を認知する前に、僕の父が亡くなったからですか?」
「半分正解。残り半分は、あなたと悠の父が殺されたのかもと私が疑ったからよ。そして、悠の認知を私が求めたら、悠も殺されるかもと私が思ったから」
僕はショックの余り、固まってしまった。
「あなたのお母さんの性格は、あなたの方がよく知っているでしょうね。あなたのお母さんは、悠とあなたのお父さん、あの人とは別れたくなかった」悠のお母さんは、そこで言葉を切った。
「あの人は、正直に言って、あなたのお母さんに内心うんざりしていた。だから、秘密裡に私と交際を始めた。その時には、あの人はあなたのお母さんとはいずれ離婚して、私と再婚するつもりだった、と私は信じている。そして、私は悠を妊娠した。でも、折悪しく私の父が孤独死して、私がスキャンダルを起こしてしまった。さすがに二重のスキャンダルはまずいとお互いに考えて、あの人は私に身を隠すことを勧めて、私はその言葉通りに身を隠した。ほとぼりが冷めて、悠が産まれた後で、あらためてあの人と私は再婚するつもりだった。でも、あの人は交通事故死した。その時に、私はあの人の死を疑ったの。本当に交通事故で死んだのかって。証拠はないわ。でも、状況的にあなたのお母さんを私が怪しむのも分かるでしょう」
僕はショックの余りに黙って、冷めたお茶をすすった。悠のお母さんの言うことが、僕の目から見てもあり得る話だったからだ。僕のお母さんは、今でも僕のお父さんに執着している。もし、僕のお父さんが離婚を決意して浮気をしたら、僕のお母さんはそれを許さなかっただろう。
「それにしても、あなたはお父さんにそっくりね。お父さんと同様に私を愛してくれない」僕が我に返ると悠のお母さんは熱っぽい口調で僕を誘い出していた。
「冗談は止めてください」僕は思わず言った。
「冗談ではないわよ」悠のお母さんは僕の耳元でささやいた。