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脱出ゲーム~この世界からの試み~  作者: 有栖川紗菜
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脱出ゲーム~この世界からの試み~ ー第一話ー




ーーーキーンコーンカーンコーン…



「よっしゃぁぁぁ!!今日も学校終わったァァ!!」

チャイムと同時にクラスメイトの男子の叫び声が教室中に響く。それを合図とするようにクラスにいろんな声が溢れ出す。喋り声。笑い声。椅子を引く音。手を叩く音。


(壊れちゃったのかな…?この世界は…)


まるで毎日毎日、同じ世界を繰り返しているんじゃないかと錯覚するようにつまらない日々。


「…抜け出したいよ、平凡から、さ…」


まるでこの世界から逃げ出すかのように僕はヘッドフォンを耳に当てて教室を後にした。



夏の日差しはまるで、肌を突き刺すような感じだ。直接的な攻撃だけでなく、アスファルトからの帰り熱も加わり更に暑さを感じさせる。ヘッドフォンだけではこの茹だるような暑さから抜け出すことはできないみたいだ。


ーーードンッ…


「ぅあっ!?」


暑さについて頭の中で討論していたら両肩を強く小突かれた。僕はため息を吐きながら音楽を止めることなくヘッドフォンを耳から外し、後ろを振り返った。そこにあるのはやはり見知った顔で僕はもう一度ため息を零す。


「なに…萩李、もう少し優しく呼べないの?」


「こうでもしなきゃ、詩穂はヘッドフォンを取らないだろ!!それに、一緒に帰る約束してるのになんでいつも先に帰っちゃうんだよ!!」


茹だる様な暑さのせいか、ここまでの坂道を走って登ってきたのか、肩で息をした萩李はひと息も入れずに言葉を続ける。


「それに、ヘッドフォンを当てながら、歩くのは、やめろって、いつも、言ってるだろ…?後ろから、車が来た時に、気付かないじゃないかっ……せめてさ、イヤフォンにして片耳だけに付けようよ…なぁ?」


疲れたのか途切れ途切れで説教を垂れる彼を横目で睨んだ。


「………萩李…煩い。」


それだけを告げてもう一度独自の世界に逃げ込もうとした。が、しかし、敵は左側だけでなく右側にもいたのだった。スラリとした日にも焼けない真っ白な腕が呆気なくヘッドフォンを奪い取る。惚けた顔でその手の戻る方向へ顔を向けると憎ったらしいくらいに綺麗な笑顔を浮かべた恋人が待っていた。


「詩穂くん?ヘッドフォンはやめなさい。って萩李くんは言ったのよ?聞こえなかったのかな~?」


その笑顔と言葉だけで空気が冷たくなったような気がした。こういう時は、素直に謝るべきだと本能が告げている。


「…ごめん………なさい、神流ちゃんっ…」


「うん、うん!!わかればいいんだよ~?よしよし、いい子だね、詩穂くんは!!」


「はぅ…」


機嫌を良くした様子の神流ちゃんはおもしろそうに僕の頭をくしゃくしゃと撫でる。近づいた拍子に神流ちゃん特有の甘い香りが鼻を過ぎった。夏真っ盛りだというのに汗の不快な香りも漂わせない神流ちゃんは本当に女の子らしいなぁ…なんて思う。さっきの表情だってきっとみんなには見せない僕だけ見せる表情なんだろう。甘い香りも特別な顔も、神流ちゃんの魅力だ。


「うわああああ!!神流ちゃん、もう5.8秒も詩穂の頭撫でてる!!ダメ、ダメ!!それ以上詩穂と触れ合ったら子供ができちゃう!!俺は認めないからな!!そういうことは二十歳を過ぎて、責任を持てるようになってからだ!!」


「…萩李、夏になってウザさが倍増してる…学校のプールにでも沈んだら良かったのに…」


「それに、5.8秒って随分と正確だね…?萩李くんは頭の中にストップウォッチでも装備してるのかな…?」


「詩穂…ついに反抗期か…俺はずっと恐れていたけど詩穂がこれで大人になれるというのなら………!!」


「神流ちゃん、行こっか」


「うんっ!!そうだね、なんだか暑いし~…」


「詩穂ォォォ!?」


萩李とは昔ながらな付き合いで幼馴染みといえばそうだけど、唯一無二の親友でもある。昔から萩李には世話を焼いてもらってたけど、僕だってももう高校二年生だ。恋人との触れ合いまで萩李に制限される義理はない。


(だから、萩李とは、一緒に帰りたくないんだよ…)


僕が睨みつけると「やっとこっちを見た!!」と爽やかに微笑む。どこまで都合のいいやつ何だ、コイツは。


神流ちゃんが僕の右側。萩李が僕の左側。

少しだけ大きな二つの影に挟まれた僕の影。

いつもと何も変わらない夕焼け小焼けの音と共に。


炎天直下の夕暮れ。それは、つまらない日々の一部だった。





「あぁ~…」


気付けば身支度も何もかも終わり、後は寝るだけとなってしまうのが僕の一日だ。そうなると、少しだけ幼い冒険心を取り戻すようにとベッドにダイブしたくなる。妹やお母さんがいないことを確認して思いっきりベッドに飛び込む。


ーーーガッ!!


「いっ…たぁ…うわぁ、今日はついてないな…」


そのせいでベッドの淵に弁慶をぶつけるだなんて良くあることだ。15年間見慣れた水色の天井を見上げながら口をそっと開いた。


「今日も…何一つ変わらなかったよ…」


誰に告げるわけでもない独り言。

明日こそは変わるかもしれないと希望の篭った報告。

変わらないだなんて、そんなことずっと続ければわかっているんだけどね、なんて……。


そんな捻くれたことを考えてただ天井を見上げていたら気付けば眠りについていた。



ーーーチュンチュンッ…


鳥の囀りとカーテンの隙間から溢れる微かな光で僕は目を覚ました。目覚まし時計へと目を向ければ時刻は午前六時頃を指している。いつも起きる時刻と大差変わりない。だらだらと体を起こして欠伸をしながら階段を降りる。


「おっ、詩穂姉ちゃん、おっはよ~」


「百合亜…僕、男だから“姉ちゃん”はないと思うなぁ…」


「そーだっけ?詩穂兄ちゃん女の子っぽいからさ~」


妹の百合亜はニヤリと笑いながらトーストを噛じる。僕はそんな百合亜を横目で見ながら向かいの席に座った。キッチンで忙しく動いていたお母さんが僕の分のご飯を運んでくる。分量を間違えたのか、今日はいつにもましてボリューミーである。


「お母さん、僕、こんなに食べれない」


「あんたね~…もう高校二年生なんだから、そんな思春期の女の子みたいなこと言わないでくれないかしら?百合亜を見て見なさい。詩穂なんかより、ずっと体格がいいわよ?」


「もー!!お母さーんっ!!それじゃあ、私が太ってるみたいだからやめてよねー!!」


百合亜は頬をふくらませながら話の流れを替えようとしたのかテレビのリモコンを手に取り電源を付けた。朝の番組といえばニュースばかりでつまらない。大事件であってもそれは僕に関係ない遠い世界でのことであり、結局は変わらない日々が始まるだけなのだ。


そう、そうであったはずなのにーーー。


ぼーっと見つめていた箱の中に映ったのは僕が通う学校の映像であった。頭が追いつかないでいるとキャスターの声が嫌でも頭に流れ込んできた。


【え~…昨日の夕方、×××高校一年生の宮守萩李くんが行方不明になりました。家に帰った形跡はあるのですが、親が家に帰った時には萩李くんはいなかった様子です。また、萩李くんは家庭内でのトラブルや学校でのトラブルなどもないため、警察は誘拐の可能性があるとして、捜査を進めております】




「えっ…?」


反射的に手に持っていたトーストを落としてしまった。

ーーーミヤモリシュリ…?

それって、僕の良く知ってる…あの世話焼きでウザったい宮守萩李…?だって、×××高校の一年で宮守萩李といえば彼奴だけだし……


「詩穂…兄ちゃん…」


トーストを拾った百合亜が僕の顔を心配そうに除き込み首を傾げた。


「大丈夫…なわけないか。萩李さんって、詩穂兄ちゃんの親友でしょ?」


「えっ…うん…」


外部の人間にそう言われるとああ、やっぱりそうなんだ。と妙に納得した気持になる。



ーーーいつも通りがどこかで崩れる音がした。

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