表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
密やかに想う  作者: 水城雪見
本編
97/109

幕間 覚悟

一条視点


 まだ夢を見ているようだと、眠る美咲の長い髪に触れながら思う。

 変わらない、艶のある綺麗な黒髪を手に取り、そっと口づけた。

 張り詰めていた気が緩んだのだろう、美咲は少し熱を出しているようだ。

 食事の後、しばらくは起きていられたが、眠そうにしていたので無理矢理ベッドに寝かせた。

 まるで、眠ったら俺がいなくなってしまうかのように不安がって、ベッドに入るのを嫌がっていた美咲を思い出して、口元が緩む。

 やっと逢えた、そう思うと、どれだけ見つめていても、どれだけ傍にいても足りない。


 侍女を呼んで氷水を用意してもらい、看病がてら、しばらく付き添う事にした。

 心配だからというのもあるが、それ以上に離れがたいのだ。

 まだ、ずっと見ていたい。

 再会まで、本当に長かった。

 あの馬鹿貴族のせいで、馬を飛ばしてランスまで向かったのが、完全に無駄になってしまった。

 美咲のところへ辿り着くまでに、死にかけたこともあるし、命を狙われた事もあるし、騙された事もある。

 この世界の人の、いい部分も嫌な部分もたくさん見てきた。

 いい出会いもたくさんあり、思いがけない巡りあわせで、草原の国の王と養子縁組することになった。

 従者としてフレイとカイもつけてくれ、美咲を探す旅の安全も確保してくれた。

 いつか、恩を返さないといけない。

 王子としての地位を利用するからには、責任も果たさなければいけない。

 今は代理の人間が治めているが、王子として既に領地も賜っている。

 いつかは草原の国に帰り、領地を治めなければならないのだが、ランスに大切な人がたくさんいる美咲に、それをどう伝えたらいいのかわからない。

 すぐに草原の国に帰らないといけないわけではないが、どんなに遅くても数年後には帰ることになるだろう。

 美咲に、辛い選択を強いる事になるかもしれない。

 もうこれ以上、ほんの一欠けらの苦痛も与えたくないのに。


 カロンからの手紙を見せてもらったが、あれでは俺が結婚して、子供までいるのだと誤解されても仕方がないと思った。

 月野は俺が王子だということは知らなかったが、金銭的にまったく苦労していないのは知っていた。

 だから、俺といられれば、子供を産んだ後も、楽に生活できると思ったのだろう。

 俺が美咲を探している事を知っていたから、ああいう伝言を頼んだのだと思う。

 あの伝言を見て、美咲が俺を諦めればとでも考えたのだろうか。

 俺が月野を教会に預けて、王都を去るときも、随分しつこく引き止められた。

 あの時、店を出てから、忘れ物をしたからと月野は一人で店に入っていった。

 月野に何の興味もなかったから、気にかけなかったが、それで結果的に美咲が傷ついたのだと思うと、自分の甘さに腹が立つ。

 色々と経験を積んだつもりではいるが、まだまだ未熟だ。

 漸く辿り着いた美咲の周りは、予想通り、美咲に惚れた男だらけで、傷ついた美咲が付け込まれなくてよかったと、しみじみと思ってしまった。

 大槻が傍にいて、支えてくれたおかげで助かった。

 

 最初は、従兄妹同士だと知らなかったから、美咲の家を訪ねて大槻が出てきた時のショックは、計り知れないほどに大きかった。

『どうして大槻がここにいるんだ?』と、出かかった言葉を呑み込んで、何とか平静を装えたのは、大人の意地と臆病ゆえだ。

 俺が遅すぎたのだという決定的な事実を知るのが怖くて、聞けなかった。

 誘拐という非常事態だったので、取り乱したところを見せずに済んだが、待たせすぎた自覚は十分すぎるほどにあったから、情けない事に泣きが入りそうだった。

 その後、神流もいるのを見て、林原もいると知り、絶望しかけていた心に希望の光が差したが、どう見ても美咲に惚れているSランク冒険者が出てきた上、既に求婚済みの王子まで出てくるし、1年半という時の長さを思い知らされた。

 大槻が従兄だと、恋愛感情はまったくない保護者だとわかった時の安堵感は、とても言葉で言い表せない。

 大槻のおかげで、俺がどれだけ美咲に惚れこんでいるのか、自覚させられた。


 城で美咲に再会できた時、一瞬、場所も状況も忘れた。

 ドレスを着て綺麗に装った姿は、誰にも見せずに独り占めしたくなるほどに美しかった。

 あまりにも綺麗で女性らしくなっていて、目が離せなくて、瞬きをする間さえ惜しいと思うほどに、ずっと見つめていたくなった。

 少女期の1年半は長い。

 大輪の花の蕾が花開く様を、見損ねたような悔しさを感じた。

 あの時、美咲を一人にしてしまった報いだと、諦めるしかないが、何とも大きすぎる代償だ。

 これからはもう、目を離さずにずっと見ていたい。

 さっきの、胃袋を掴む宣言は本当に可愛かった。

 胃袋を掴む前に、既に心はがっちりと掴まれているんだが、それに気づいてないところも可愛いと思った。

 あまりにも可愛すぎて、理性が限界で、欲望に負けてつい口づけてしまったほどだ。

 啄ばむだけの子供みたいなキスだったのに、真っ赤になって恥らっている姿も可愛くて、でれでれになってしまっていたと思う。

 ついでに、あれがファーストキスだったと知らされて、嬉しさで舞い上がって、思わず美咲を抱きしめてしまった。

 十代の時の恋愛だって、もっと醒めていた様に思う。

 美咲が相手だと、自分を保つのが大変だ。

 

 

 

「美咲は大丈夫ですか?」



 軽いノックの後、大槻が寝室に入ってきた。

 熱を出したと聞いて、心配したのだろう。



「気疲れしたんだろう。誘拐されていたわけだしな。今は、よく眠ってる」



 美咲を起こさないように、小声で返す。

 大槻は美咲が心地よさそうに寝入っている姿を見て、安心したように息をついた。

 大槻にとって、美咲が大事な家族なんだと、その様子だけで理解できる。



「先生、向こうで少し、話をしませんか?」



 美咲を起こしたくないからだろう、隣の部屋に誘われる。

 離れがたい気持ちはあるが、それを口にするのはあまりにも大人気ない気がして、一度、美咲の額のタオルを冷たいものに変えてから、寝室を出た。



「大槻、もう、教師じゃないから、名前呼びでいいぞ」



 言いながら、ソファに腰掛けると、最初から話をするつもりだったのか、テーブルにはお茶が用意されていた。



「じゃあ、これからはそうします。まず、確認しますが、美咲はカロンの手紙の話をしましたか?」



 腰を落ち着けるなり、すぐに大槻が切り出してくる。

 あの手紙の内容を、大槻は知っているのだろう。

 知っていたのに、今まで直接問い詰める事がなかったのは、まずは俺と美咲で話をするべきだと思っていたからなのか。

 気がかりだったのに違いないのに、素晴らしい自制心だと思う。



「話を聞いて、手紙もさっき見せてもらった。俺に妻子はいない。カロンの店に行ったときは、俺のクラスにいた月野と一緒だったんだ。もちろん、フレイとカイも同席していた。王都に辿り着いた時、行き倒れ寸前の月野を見つけて、どう見ても出産間近の妊婦だったし、一人だと言うから、放っておけなかったんだ。教会に連れて行けば、預かってもらえるのはわかっていたんだが、嫌がる月野を説得するのに時間を掛けるより、美咲を探したかった。俺がカロンの店で美咲の手がかりを掴んだのを見て、邪魔をしようと思ったみたいだな。一度店を出た後、忘れ物をしたと言って戻って、あの伝言をしたようだ」



 話せば話すほど、言い訳めいて情けなくなってくる。

 俺の話を聞いた大槻は、安堵したような呆れたような、複雑な表情だ。



「一条さんは、自分が桁外れに男前な自覚はありますか? 自分が女にどんな目で見られているか、少しは自覚した方がいいですよ。そうでないと、俺は安心して美咲を預けられない。一条さんは、俺と美咲が仲のいい従兄妹同士なのに、学校でまったく話すらしなかった事を、不思議に思いませんでしたか?」



 それなりに整った顔をしてる自覚くらいはあるんだが、まだまだ足りないということなんだろうか?

 美咲の保護者に近い大槻に、交際を反対されるのは困るから、もっと真剣に考えた方がいいのかもしれない。

 校内での大槻と美咲は、クラスが違うというのを抜きにしても、まったく交流がなかったように思う。

 二人ともとても目立つ生徒だったから、もし、従兄妹同士なのが知られていたら、もっと噂になっていたに違いない。

 まったく何も聞いたことがないということは、きっと隠していたんだろう。

 仲が悪いならともかく、仲がいいのに隠していたとなると、確かに不思議だ。



「従兄妹なのを隠していたんだよな? 何か理由があったのか?」



 俺が尋ねると、大槻は苦い表情でため息をついた。

 よく見れば、美咲と同じ色合いの髪と瞳で、雰囲気がとてもよく似ている。

 同学年ではあるが、兄妹だと言われても、納得できそうなほどだ。



「小学生の時、俺を好きだという女子達に、美咲はいじめられてました。あいつは我慢強いから、俺に何も言わないで我慢してて、美咲がカッターで切りつけられる事件があって、それでいじめが発覚しました。俺と美咲は、中学から私立に入りましたけど、その事件以降、学校ではほとんど話さなくなりました。俺には、それしか、美咲を守る方法を思いつかなかった。俺のせいで美咲を傷つけるのは、絶対に嫌だった」



 まだ、大槻の傷は癒えていないのか、淡々と語りながらも、表情はとても辛そうだ。

 自分が原因で、大切な家族が傷つけられたら、ショックは大きいだろう。

 大槻と美咲は、産まれた時から一緒に育った、家族同然の従兄妹同士だと聞いた。

 美咲も、カッターで同級生に切りつけられたなんて、どれだけ傷ついた事だろう。

 暴力を受けた時に怖いのは、体の傷よりも心の傷だ。

 俺が過去に付き合った彼女達も、嫌がらせを受けたりしていた事があったから、大槻の気持ちを、少しは理解できる。

 そう何人も彼女がいたわけではないが、好きな相手が、自分のせいで傷つけられるのは、本当に辛い。



「転生してからも、美咲は、俺達のせいで、嫌味ややっかみをぶつけられる事も結構ありました。できるだけ守るようにしていたけど、完全には防げなかった。俺達でさえそうなんだから、一条さんと付き合うとなれば、もっと大変です。美咲が貴族の養女になろうが、一緒に転生してきた奴らにしたら、元同級生なんです。美咲の身分なんて何の意味もない。反対に一条さんの身分は、大抵の女にとっては魅力的なんです。王子というのは、実態がどうであれ、一緒にいれば、苦労せずに贅沢な暮らしが出来る、そう思われても仕方がない身分です。その上、一条さんの容姿は、同性の目で厳しく見ても極上なんですから、色目を使わない女が珍しいと思ってください。それくらい自意識過剰でいないと、一条さんの場合はダメです。美咲がほしいなら、美咲以外の女につけ入れられる隙を作らないでください。今回のカロンの手紙を美咲が読んだとき、それはもう酷い嘆きようで、美咲の心が壊れるんじゃないかと思いました。仲のよかった母親が死んだときでさえ、あんなに泣かなかった。俺が声を掛けても全然届いてなくて、ジゼルみたいに死ぬんじゃないかと怖かったですよ」



 懇々と説教するように語っていた大槻が、最後は、美咲の様子を思い出したのか、顔を青褪めさせる。

 それほどに辛い思いをさせていたのだと、さっき、美咲から話を聞いたときとは比べ物にならないほどに、強く実感させられた。



「ジゼルって、バレエのか? 身分を偽った婚約者のいる貴族に裏切られて、衝撃のあまり死ぬ村娘だったよな? 酷く泣いたというのは聞いたんだが、そこまで深刻に受け止めていなかった」



 俺は馬鹿だ。

 結婚を嫌がって泣いてくれたのが嬉しいなどと、よく言えたものだ。

 美咲の性格を考えれば、どれほど辛くても、過剰に申告する事などないのはわかりきったことなのに。

 大槻に指摘されるまで、まったくそれに気づかなかった事に、思いっきり凹んでしまう。

 少しは成長できたかと思っていたんだが、女が絡むとダメ過ぎる。



「すまなかった。俺は反省と覚悟が足りないようだ。正直なところ、やっと再会できたのが嬉しくて、美咲に甘えていた。あまりにも優しく許してくれるから、すんなりとそれを受け入れてた。大槻が指摘してくれて助かったよ。これからは十分注意する。できるだけ他の女には関わらないし、関わる時も、第三者に頼む事にする」



 生徒が困っていたら、多分放っておけない。

 けど、俺が直接でなくても、教会関係者に頼んだり、フレイとカイを通して助けたり、そういうことが出来るはずだ。

 今までも、美咲以外はいらないということを示していたつもりだったけれど、これからはもっと徹底する事にしよう。

 俺が反省を示すと、大槻は漸く表情を和らげてくれた。



「頼みます。美咲は他の男じゃダメみたいですから、きちんと守って、幸せにしてやってください。俺は、一条さんと再会して、一条さんになら美咲を任せられると思いました。妻子がいるというのが、誤解で本当によかったと思っています。美咲は、何でも自分でやろうとする悪い癖があります。甘えるのが下手で、人を頼るのも下手で、馬鹿みたいにお人よしですが、優しくて一生懸命な奴です。大人びてるのは見た目だけで、中身はまだ子供ですが、そのうち、一条さんに釣りあうくらい成長すると思います。俺の自慢の大事な従妹なんです。美咲の事をよろしくお願いします」



 座ったまま、大槻が深々と頭を下げる。

 ほんの短時間の話だけで、大槻がどれだけ美咲を大事にしていたのか伝わってきた。

 俺を信じて、大切な家族を託そうとしているのが、痛い程に感じ取れた。

 生半可な気持ちでいたらいけない。

 再会して、俺にとって美咲がどれだけ大切なのか実感できたのだから、大切にしなければ。



「大槻、頭を上げてくれ。こちらこそ、よろしく頼む。美咲はまだ若いから、ゆっくりと関係を深めていければいいと思っているけれど、俺の気持ちはもう決まっている。絶対に大切にすると約束する。俺は恋愛に関しては、鈍感らしいから、気がついたことがあったら、指摘してくれると助かる。今後ともよろしくな」



 今まで美咲を大切に守ってきた大槻に、感謝の気持ちをこめて俺も深々と頭を下げた。

 大切にしてきた大槻の分も、これから俺は頑張らなければいけない。

 責任を感じるけれど、その重みを心地いいと思う。

 美咲に関することなら、何でも許容できてしまいそうだ。



「俺達がこんなに真剣にあいつの事を思ってるのに、あいつ、能天気に寝てるんですよね」



 寝室の方を見遣って、大槻がわざとらしくため息をつく。

 硬すぎる空気を変えてくれるつもりなんだろう。

 前から思っていたが、大槻は外見だけでなく、中身も大人びている。

 まだ10代だというのに、同世代の友人と話すのと、同じように話せる。



「大槻、敬語、やめないか? 名前も一条でも知巳でもどっちでもいいから、呼び捨てでいいぞ。俺はお前の事を、目下とは感じていないから」



 敬語なしで、対等に話して欲しくてそう言った。

 まだ10代でこれなんだから、末恐ろしい。

 成長が楽しみだとも思う。



「じゃあ、遠慮なく一条と呼ばせてもらう。名前呼びは、美咲が焼きそうだ。あいつ、結構やきもち焼きだから」



 あっさりと口調を変え、冗談まで言う。

 確かに、さっき可愛いやきもちを焼かれたのは、何となくわかった。

 美咲にやきもちを焼かれるのは、素を見せてくれているようで、嬉しくなる。



「顔、緩んでる。イケメンが台無し」



 容赦なく突っ込まれ、真顔を作るが、美咲を思うだけで蕩ける。

 今まで経験した事がないくらい、溺愛してると思う。

 歳が離れているからなのか、美咲が何をしても可愛いと思ってしまう。



「やっと再会できて、可愛い美咲を堪能中だから諦めてくれ」



 時間が経てば、でれでれしないのかというと、そこはちょっと自信がないが、そう言っておく。

 


「まぁ、いいけどな。目の前で臆面なく惚気られれば、ほとんどの女は引くだろうし。で、今後の事だけど、ラルスさんと美咲の養子縁組が終わったら、ランスにみんなで帰る予定だ。美咲と結花は馬に乗るのは無理だと思うから、馬車で帰るつもりだ。一条は今後はどうする? 美咲の店は大きいし、和成と結花が結婚してコテージに移ったから、部屋は従者の分もあるんだが、一緒に暮らすか?」



 大槻が今後の予定を話しながら、伺うように俺を見る。

 美咲がランスにいるとわかってから、今後どうするかは、俺も少し考えていた。

 美咲奪還の計画を練るうちに、ラルスと意気投合したので、ランスの街のことも少し聞かせてもらっていた。



「それなんだが、美咲の店に近い場所にある貴族街の屋敷を一つ、ラルス殿から譲り受けることにした。美咲の店に、いきなり俺が従者付きで入り込むのも気が引けるしな」



 美咲の店に一緒に住んでいるやつで、美咲に惚れている男もいるようだから、無神経に同居するのも悪い気がする。

 ずっと傍にいたいが、それは今でなくてもいい。

 それに、恋愛初期くらいは、待ち合わせてデートする楽しみとか、あってもいいだろう。

 後は、俺がランスにしばらく腰を落ち着けるとなれば、草原の国から執事と従者がやってくる。

 草原の国との行き来は大変だが、領地に関する報告書などが送られてくるようになるだろう。

 場合によっては、侍女も派遣されるだろうし、そうなった時に、全部美咲の店で受け入れてもらうわけに行かない。



「あぁ、確かに、一緒に住んでる内の二人は、美咲に惚れてる。俺がガードしてたから、口説く隙はなかったが。後は、一条も知ってる通り、クリスが求婚して断られてる。それと、商業ギルドのギルドマスターのアーネストも、美咲に求婚してるが、こっちは放置気味だ。店が開店してからは、あまり接点がなかったからな。でも、俺の見るところ、一番諦めが悪いのはアーネストだ。あれは一筋縄ではいかない。今は大人しいのも、機を見ているんだろう」



 思いがけない名前が大槻の口から出てきて、驚いた。

 アーネストと言えば、ユリアの兄だったはずだ。

 何やら一筋縄ではいかない男のようだが、ユリアの兄と考えれば、それも当然かと納得できる。



「アーネストって、アーネスト=マクダネル? ハーフエルフの男か?」



 俺が確認するように尋ねると、まさか知っているとは思わなかったのか、大槻も驚いたようだ。

 森の国でアーネストの妹に世話になったことや、手紙を預かっている事などを、手短に説明すると、想像もできないような偶然がおかしかったのか、大槻が笑った。

 


「広いんだか狭いんだか、わからない世界だな」



 しみじみと言う大槻の言葉に、俺も同意して頷いた。

 変なところで繋がりがあるものだと思う。

 その後、話の流れで、アーネストとラルスが昔なじみだと聞いて、それにも驚かされた。

 人の縁とは面白いものだ。



再登場後の一条のイメージが、がらがらと崩れる音が聞こえるようです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ