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密やかに想う  作者: 水城雪見
本編
96/109

幕間 失恋までのカウントダウン

尊視点。美咲のコテージにて。




『主様、ふわふわなのー。それにどきどきできゅうなのー』



 美咲によく似た桔梗が、頬を抑えながら、くるくると飛び回っている。

 ここしばらく、泣き出しそうな元気のない様子だったから、元気になったのは嬉しいんだが、いつも以上に意味不明だ。

 ただ、これを深く追求したら、心に物凄いダメージを食らいそうな予感がしている。


 いつかはこんな日が来るのがわかっていた。

 一条が誘拐された美咲を救出に向かったと聞いて、失恋までのカウントダウンが始まったのがわかった。

 俺の場合、好きだと告げることもできず、態度で示す事もできなかったのだから、自業自得だ。

 

 多分、初めて逢った時から美咲に惹かれてたと思う。

 俺と鳴が従兄弟同士だと知って、『似てるね』と言ったのは、美咲が初めてだった。

 小さい頃から、事あるごとに出来のいい鳴と比べられ、実の親にすら、常に鳴よりも下に見られていた俺には、美咲の言葉が嬉しかった。

 俺と鳴が従兄弟だと知ると、大抵、従兄弟だけど似てないと言われる。

 それが当たり前だったから、似てると言われたとき、『どこが?』と、素っ気無く返してしまった。

 美咲が言うには、俺と鳴は、顔と、器用そうで実は不器用なところが似ているらしい。

 素直じゃない俺と、実はひねくれてる鳴。

 確かに、似ているといえば似ているのかもしれないと、すんなり受け入れられた。


 美咲は、俺と鳴を比べない。

 鳴とは関係なく俺を見る美咲といる事で、いつの間にか自分でも、鳴には敵わないと決め付けて、最初から諦めていた事に気づいた。

 俺と鳴を比べる誰もが、俺を下に見ることを、当たり前と受け入れるようになっていた自分に気づかされた。

 だから、それに気づかせてくれた美咲が、俺は好きだった。

 でも、美咲が俺のことをそういう意味で好きではないのはわかっていたから、友達として傍にいられるだけでいいと思っていた。


 成り行きで俺が妖精を召喚することになった時、『頼むから美咲を何とか護ってくれ』と、願いをこめて、妖精の名前は護にした。

 願い通り、護は頑張ってくれた。

 護と桔梗のおかげで、遠くにいても連絡を取る事ができて、より安全な方法で美咲達を保護する事ができたし、事前の根回しも出来た。

 一条が草原の国の王子になっていたのは驚いたが、理由はわかる気がした。

 多分、一条も美咲を護る力が欲しかったんだろう。

 実際に、今回の件では、一条が王子だったおかげで、後腐れなく誘拐犯を片付ける事ができた。

 もし、平民を誘拐した罪にしか問えなかったら、あの貴族が、ダメージを受けるほどの罰を与える事はできなかっただろう。

 そうなっていたら、今後、また似たようなことを画策する貴族が出てこなかったとも限らないし、そういう意味も含めて、一条が王子という身分を得ていた事に助けられた。



『尊~、亮二から伝言。美咲は納まるべきところに納まったって。友達なのに応援できなくてごめんって』



 護からメッセージが飛んでくる。

 予測はしていたから、それほど胸は痛まなかった。

 護の存在にも救われているのかもしれない。

 言葉だけでなく、俺を気遣うような優しい想いまで一緒に飛んできて、妖精とはいいものだなと思う。

 優しい、偽りのない心が、直に伝わってくるから、とても癒される。

 亮二も、直接言えないから、妖精経由にしたんだろう。

 美咲が帰ってくるまでに、気持ちの整理をつけておけということかもしれない。



「気にすんな、馬鹿。って伝えて」



 美咲は友達だから、幸せになってくれるのなら、それでいい。

 口にするのを躊躇う程度の想いなら、そのうち消えてなくなるだろう。



『亮二が、お前が馬鹿って言ってるー』



 能天気な声が頭に響いて、可笑しくて笑った。

 妖精はそれぞれ性格は違うようだけど、可愛いのは共通のようだ。

 何が伝わってくるのか、まだ、きゃーきゃー騒ぎながら、じたばたしている桔梗を見ていたら、笑みが漏れた。

 成り行きだったが、護の主になれてよかった。

 美咲が無事で、本当によかった。

 事件は片付いたが、もう少しだけここに待機していようかと思う。

 桔梗を見ていたら、失恋の傷は、意外に早く癒えそうな気がするから。


 その後、桔梗にじたばた悶えている理由を聞いたら、『乙女の秘密~♪』と、かわされてしまった。

 妖精でも小さくても、女は女だと思わされた。




次は、いつもの時間に一条視点で投稿します。

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