幕間 事件の裏側で
亮二視点。少し長いので、読みづらかったらすみません。
ありえないようなバタバタとした大きな足音を不思議に思っていたら、壊れそうな勢いでいきなり自室の扉が開いた。
一体、何をそんなに慌てているんだと思い、入ってきたアルフを見る。
今日はみんなで大迷宮に行っていたはずなんだが、一人で帰ってきたんだろうか?
「リョウジ、大変だ! カグラが攫われたらしい。キキョウが言うにはいきなり意識が途絶えて、呼びかけにまったく応じないそうだ。誘拐された可能性が高い」
余裕を持って見ていられたのは、アルフの言葉を聞くまでだった。
恐ろしい事を言い放ったアルフを見るが、冗談や悪ふざけではなさそうだ。
誘拐と聞いて、血の気が引く。
昼間、一人で美咲を外に出した事を後悔した。
一人になりたい気持ちもわかるからと、放っておかずに遠くで見守っておけばよかった。
「他のやつらは?」
焦るな、落ち着け!と、自分に言い聞かせながら、きつく拳を握る。
また俺は、美咲を守れなかったのか?
激しい苛立ちと湧き起こる無力感を何とか抑え込みながら、情報を得ようとする。
「ナルは帰ってすぐ、馬に乗って領主の館に向かった。誘拐なら権力者の手を借りた方がいいと言って。カズナリは迷宮で妖精が召喚できるコテージがないか確認中だ。リンとミコトはカグラのコテージで待機して、カグラの返事を待ってる」
みんなの行動を、アルフは焦燥感を露わにしたまま報告してくれる。
いつも飄々としたアルフだが、美咲が攫われたとなると落ち着いていられないのだろう。
妖精と召喚主は離れていても会話ができるから、通信手段として利用するつもりか。
そのレベルまで育ったコテージがあるといいんだが。
「大槻、結花さんもいないわ。もしかしたら、美咲さんと一緒かもしれない」
珍しく顔を青褪めさせた神流が、息を切らしてやってくる。
多分、家中見て回ったんだろう。
結花も一緒に誘拐されていたとしたら、和成は絶対捜索の方に回るだろう。
和成の暴走も止めないといけない事を考えると、頭が痛い。
その時、来客を知らせる魔道具の音が聞こえて、3人で勢いよく階段を下りていった。
誰が訪ねてきたにせよ、何らかの進展があったのかもしれないと期待した。
「夜分申し訳ない」
勢いよく扉を開けると、その向こうにいたのは思いがけない人だった。
記憶にあるのよりもずっと体格がよくなって、髪が金色になって伸びている。
「おっせーんだよっ!」
思わず胸倉を掴んで、殴りかかった。
その手を、易々というわけじゃないけれど受け止められて、余計にイラつく。
「大槻? 随分な挨拶だな。ここは神楽の家じゃないのか?」
俺の拳を手のひらで受け止めたまま、一条が不思議そうに問いかけてくる。
散々美咲を待たせて、その上、あんなに傷つけやがって。
今更どの面下げてきやがった。
数日前の美咲の姿を思い出したら、怒りが沸々と沸いてくる。
母親が死んだ時でさえ、あんなに泣いてなかった。
あの姿を見て、美咲は一条以外の男には見向きもしないだろうと思った。
美咲の心が壊れてしまうんじゃないかと不安で、繋ぎ止める様にただ抱きしめて、一晩過ごした夜の記憶はまだ新しい。
あの時は、目を離したら美咲がいなくなりそうで怖くて、一睡も出来ないまま見守り続けた。
いくらでも言葉を尽くして罵れるほどに、一条に対して思うところはあるけれど、今はそれどころじゃない。
「美咲は留守だ。誘拐されたかもしれない」
手を引きながら吐き捨てるように言うと、一条の表情が険しくなった。
一瞬で纏う雰囲気を変え、俺を見据える。
「誘拐というのはどういうことだ? わかっている事を全部教えてくれ」
剣呑な雰囲気を抑え込んでいるけれど、目が爛々と輝いている。
目の前に誘拐犯がいたら、速攻で倒されそうだ。
俺が知っている穏やかな一条とは、全然雰囲気が違う。
修羅場をいくつも乗り越えた、大人の包容力のようなものを感じさせる。
そんな一条を見ていたら、ほんの少しだけ、焦燥感のような物が消えた。
Sランクのアルフよりも頼もしさを感じさせるとか、一体どんな経験を積んできたんだ。
「とりあえず、入ってくれ。中で説明する」
中に招き入れ、ホールに案内する。
いかにも旅装といった感じのマントを羽織り、動きやすそうなこの世界の衣服を身につけた一条は、旅慣れた雰囲気だ。
ランスに辿り着いて、そのまま、この店を目指してやってきたのだろうと、簡単に予測がつくほどに埃っぽいので、浄化の魔法を掛けてやった。
俺の願望かもしれないが、そこには、一刻も早く美咲に逢いたいという、強い気持ちがあるように感じた。
背はさすがに伸びていないが、体格が見違えるほどに逞しくなっている。
面倒な事に、誘蛾灯のように女を引き寄せそうな男振りだ。
以前も教師なんかやってるのが不思議な程の男前だったが、あの頃とは桁が違う。
貫禄まで備えて磨きがかかった感じだ。
強い男が好まれる傾向にあるこの世界では、さぞかし誘惑も多いことだろう。
妻子がいるという疑惑がどうにか片付いたとしても、一条とくっつくとしたら美咲は苦労しそうだ。
俺から見れば、美咲はそこら辺の女なんて、太刀打ちが出来ないレベルのいい女なんだが、大人しそうに見えるのか侮られやすい。
美咲の評価は、従兄の欲目もあるかもしれないが、求婚者の質や量を考えれば、そう外れてはいないと思う。
「一条先生、ご無沙汰しております」
男全般に厳しい神流にしては珍しく、一条に対して丁寧な挨拶をする。
まさか、他の生徒もいるとは思わなかったのか、一条は驚いたように目を瞠った。
どことなくホッとしたようにも見える。
もしかしたら、俺と美咲が従兄妹と知らないから、俺達の関係を誤解しているのか?
もしそうだとしても、もうしばらくは誤解を解かずに置こうと思った。
一条も少しは悩んで苦しむといい。
「神流もいるとは思わなかった。林原も一緒か?」
担任でもなかったのに、二人の仲がよかった事を知っていたらしい。
そういった、生徒をよく見ているところは、俺も尊敬していた。
教師としての一条は、見目が良すぎる事以外は、文句の付け所がない。
問いかけに短く頷いてから、神流はお茶をいれるためか、厨房に消えた。
「先生、こちらはSランク冒険者のアルフレッドです。彼も一緒に住んでいます。今、ランスの領主のところに、鳴が知らせに行っています」
椅子を勧め、今わかっている事や、こちらの状況をできる限り説明した。
合宿のように、たくさんの人数で住んでいる事に驚かれ、和成と結花が結婚したことにはもっと驚いていた。
生徒に先を越されて結婚されるほど美咲を待たせたことは、よく反省するべきだと思う。
一番腹が立つのは、美咲なら待つということを、一条が無意識に見越していて、尚且つ、美咲のそういった部分に一条が惹かれているということだ。
待てるからといって、寂しさを感じないわけではない。
そのことに、一条が気づいていればいいんだが。
途中で神流がいれたお茶を飲むが、とても落ち着いていられない。
とにかく情報が足りず、待つしかないというのが辛かった。
アルフは、美咲がずっと待っていた先生というのが、目の前にいるこの男だとわかったのか、見定めるようにじっと観察している。
「悪いが、今の内に少し仮眠を取る。後で動けるように、大槻達も食事を済ませたりしておいたほうがいい」
とりあえず、今わかっている事を聞き出してすぐ、一条はむかつくほど長い足を組んで、背凭れに体を預け目を閉じた。
こんな時によく眠れるもんだと思うが、確かに気力体力共に、補充できる時に補充しておかないと、肝心な時に動けないかもしれない。
一条の言う通り、いつでも動けるように、今出来る事、やらないといけない事を済ませてしまおう。
美咲が居ない状態で店は営業できない。
捜索で遠くに赴く事になるにしても、留守番は残すが、予約客がやってくる前に、休業の知らせをしておかないと、今後の経営に影響が出るだろう。
美咲が、ここまで頑張って経営してきた店なのだから、きちんとフォローしておいてやりたい。
「神流、悪いんだが、簡単な物でいいから、食事を用意してくれるか? 俺は休業の張り紙と、予約客に断りの手紙を書く」
「リョウジ、それは家の者にやらせよう。貴族相手の断りは、我が家が使いが出した方がいい。予約客のリストだけ用意してくれるかい?」
やるべき事を考え、指示を出していると、ホールの入り口からラルスさんが話に割って入る。
忙しい領主だというのに、わざわざ来てくれたらしい。
しかも、さっき鳴が知らせにいったばかりという事を考えると、すぐにここに駆けつけて来てくれたのだと思う。
見れば、いつも温厚な人だというのに、今日は雰囲気が恐ろしい。
表面上はにこやかなのに、触れれば切れそうな、そんな気配を漂わせている。
声に反応したのか、それとも気配にか、目を閉じていた一条が体を起こした。
「先生、ランスの領主のラルス=エルヴァスティ様です。ここに住む転生者の後見をしてくださっていて、美咲のことは娘同然に可愛がってくださっています」
俺が紹介すると、一条はこちらの貴族の礼儀作法に則って、ラルスさんに挨拶をした。
堂々とした所作は付け焼刃ではないようで、一体どこで覚えてきたんだと、不思議になる。
ラルスさんの館で、しばらく礼儀作法を習っていた俺や鳴でさえも、あれだけ流麗な挨拶は無理だ。
「初めまして。トモミ=イチジョウと申します。生徒達がお世話になっています」
一条の容姿が、俺達とは全然違うからか、ラルスさんは驚いた様子だ。
一条と握手を交わし、席についた。
クラウスとクリスも一緒にやってきたようで、鳴と一緒に入ってくる。
「貴族街も含め、ランスの街の中の捜索は、もう始めている。午後担当の門番にも話を聞きに行かせたから、もう少し情報を待とう」
さすが領主、行動が迅速だ。
既に動き出しているのがわかって、心強く思った。
ランスの街の中で囚われているようなら、早々に救出できると思うんだが、外へ連れ出されていたら、捜索は難航するかもしれない。
美咲がどこにいても会話のできる桔梗の存在が、こうなるととても心強い。
「もし、ランスにいないとしたら、王都に向かっているかもしれません」
何か心当たりがあるのか、クリスが憂い顔で切り出した。
まだ、誘拐かもしれないと知らされてそんなに経っていないのに、憔悴した様子だ。
「大叔父上、私がミサキに求婚した事を、兄上を支持する貴族が知ったら、美咲を誘拐する可能性もあるのではないでしょうか」
クリスがラルスさんの意見を求めるように尋ねる。
この国は長子相続ではないから、結婚相手次第で次の王が変わる可能性もあるということか?
クリスの言う意味がよくわからない。
クリスが王子だとわかって、アルフ達は驚いているようだけど、今は黙っている事にしたようだ。
「どういうことでしょう? 説明いただけませんか?」
一条が口調だけは丁寧に、けれど剣呑な雰囲気は隠せないまま問いかける。
俺も知りたかったので、あえて口は挟まなかった。
慇懃無礼ともいえる一条の態度に、クリスは一瞬、腹を立てた様子だったけれど、今はそれどころではないと思ったのか、王位を巡る事情を説明し始める。
ティアランスの王には3人の王子がいて、クリスは第3王子だ。
第1王子と第3王子のどちらかが、能力的に次の王位に就くことになっているけれど、二人の能力や実績に差はほとんどない。
普通はそういう場合は、先に生まれたほうが跡継ぎになるらしいが、転生者である美咲がクリスと結婚すれば、確実に能力の高い世継ぎが生まれるのが確定するので、クリスが王位に就く可能性が高くなるらしい。
しかも、美咲には現王の叔父にあたるラルスさんの後見もある。
ティアランスの王宮ではそれが大きな意味を持つと、簡単に予測がつく。
そうなると、第1王子を支持する貴族にとって、美咲は邪魔な存在になるのだろう。
「暗殺でなく誘拐となると、第1王子の派閥の貴族の可能性は高いかもしれません。貴方と神楽の結婚を確実に阻んで、第1王子を有利にするのなら、神楽を殺すよりも第1王子と結婚させた方がいい。今は、転生者の女性はたくさんいますが、新たな転生者の女性を探すより、王家の血を引くランスの領主が後見している神楽を、第1王子と結婚させればいいと考えたのではないでしょうか。貴方が神楽に入れ込んでいるのがあちらに伝わっているのなら、神楽を取り込むことがより効果的だと考えるでしょう」
状況を分析し、淡々と一条は語るが、目だけが怒りを孕んだままだ。
決め付けはよくないが、第1王子陣営というのが、一番可能性はありそうな気がする。
第1王子と美咲が結婚すれば、クリスの結婚を阻める上に、第1王子の王位継承がほぼ確実になるのではないかと思う。
それにしても、一条は何故、ラルスさんが王家の血を引く存在だと知っていたのだろう?
そこまで説明した覚えはないのに、どこで知ったのだろう?
「皆様、食事はおすみでしたか? 美咲さんほどのものは作れませんが、今の内に少しでも何か召し上がりませんか?」
ワゴンで料理を運んできた神流が、テーブルに料理を並べていく。
簡単に食べられるようにか、おにぎりやサンドイッチを作ってくれたらしい。
「おにぎりなんて久しぶりだ。神流、具は何が入ってるんだ?」
一条は海苔が巻かれたおにぎりを、懐かしそうに見ている。
一年以上、和食から遠ざかっていれば、当然の反応だろう。
「左から、梅干し、ツナマヨ、鮭です。味噌汁もありますので、召し上がってください」
豆腐とわかめの味噌汁を、スープカップで神流が出す。
久しぶりの和食なのだろう。
こんな時ではあるが、一条の雰囲気が和らいだ。
「ありがとう、神流」
礼を言い、一条がおにぎりを手に取る。
食欲はなかったけれど、食べられるうちに食べておこうと、俺もおにぎりに手を伸ばした。
クラウスもクリスも、騎士団にいるだけあって、こういったときの心構えはできているのか、沈鬱な表情ながらも、食べ始めた。
アルフも、不機嫌そうに黙り込んだまま、おにぎりに齧りつく。
美咲を心配しているというのは当然ながら、クリスが王子であることも、美咲にプロポーズした事も、知らなかったことが気に掛かっているのかもしれない。
まるっきり通夜状態での食事を終えた頃、馬に乗って和成が帰ってきた。
鳴が乗っていった馬を、迷宮に近い東門に待機させていたらしい。
桔梗から伝え聞いた情報では、やはり、結花も美咲と一緒にいるらしく、和成は怒り狂っていた。
愛する女を誘拐されたのだから、和成の反応の方がわかりやすい。
一条は、静かに怒っているのはわかるんだが、美咲に対する感情が見えない。
やはり、あの手紙にある通り、妻子がいるから、今の一条の怒りは、生徒を誘拐されたという類のものなんだろうか?
「馬を乗り潰しそうな勢いで走る馬車? それなら、間違いなく王都方面に向かっている。俺がランスに向かう途中ですれ違ったから、間違いない」
情報を照らし合わせると、一条は怪しい馬車に心当たりがあったらしい。
どちらに向かったのかがわかっただけでも、捜索はしやすくなるから、大体の見当がついてホッとした。
王都方面に向かっているとなると、やはり、第1王子の派閥の貴族が怪しい。
この時期なら自分の領地にいるのではないかと思ったけれど、家族や親族などに領地を治めさせ、1年のほとんどを王都で過ごす貴族も珍しくないそうだ。
それに、王都周辺に領地のある貴族もいる。
「みんな、馬には乗れるのか? 俺は馬で王都に向かうが、お前達はどうする?」
情報を得るだけ得たら、一条はそのまま、飛び出していきそうな様子だ。
夕方にランスに辿り着いたばかりのようなのに、休む気はないらしい。
「今出ても、外は真っ暗だ。朝を待ってから出るべきだろう」
ずっと黙って様子を見ていたアルフが、一条と対峙するように引き止める。
夜は魔物と遭遇してもわかり辛いし、アルフの言う事ももっともなのだが、明るくなるまで待つのは辛い。
ずっと旅をしてきた一条は、夜の移動がどれだけ大変かは知っているはずだが、引く気はなさそうだった。
「どうせ気がかりでろくに眠れないのなら、暗かろうが王都を目指したほうがマシだ。それに、探し出すと神楽と約束したからな。どこにいようが絶対に約束は果たす。今までと違って、大体の居場所の見当がつくだけずっといい」
この広い世界を、美咲を探す為に旅をしていた一条の言葉は重い。
俺だって、美咲を探し回ったからわかる。
それがどれだけ大変で、精神を削る行為なのかを。
1年半近く、一条はずっと探し続けていたんだ。
いくら約束したからって、生半可な気持ちでできることじゃない。
それがわかるから、妻子がいるかもしれないことに腹が立つ。
どうして、ただ美咲の事だけを考えて、探し当ててくれなかったのかと思う。
そうであれば、安心して美咲を任せる事ができたのに。
「先生、僕も行く。結花ちゃんは僕の奥さんだからね。取り戻しに行って、誘拐犯にはしっかり思い知らせないと気がすまない」
和成も一人でも飛び出していきそうだ。
これは俺が付き添うしかない。
それに、美咲を誘拐した犯人に報復したいのは俺も同じだ。
うちの美咲と結花に手を出した報いはきっちりと受けてもらう。
「俺も行く。ラルスさん、大変申し訳ありませんが、アルフに馬を貸してやってください。鳴と神流は留守番しててくれるか? 一人だと、連絡係が足りないだろう? 一人店に待機して、一人は迷宮と行ったり来たりできる奴がいたほうがいい。桔梗は迷宮から動けないんだから」
指示を飛ばし、出かける支度を整える。
神流が残っていた軽食を手際よく纏めて、持たせてくれた。
「大槻、犯人を見つけたら、私とリンの分も殴っておいて。手加減なしでいいわ、頼んだわよ?」
冷静そうに見えて、神流も相当腹を立てているらしい。
俺は「わかった」と、力強く頷き、一条と和成を追いかけるように外に出た。
「待て、私も行く。行き先が王都なら、私は役に立つ。いざとなったら騎士団も動かせる」
クリスと、それを追うようにクラウスもやってくる。
集団でいたほうが、途中で魔物が出てきても対処しやすいだろう。
じっと待っていられない気持ちはわかるから、拒否するつもりはない。
「急げ、遅れるなら置いていく」
既に馬上にいる一条が、俺達を急かす。
一条の馬は、詳しくない俺が見てもわかるほどに、大きく立派な馬だった。
堂々とした風格のある、見惚れるほどに綺麗な黒い馬だ。
もう、何度目になるかわからない疑問が浮かぶ。
1年半の間に、一条はどんな経験をしてきたのだろう?
すべてが解決したら、聞かせてくれるだろうか。
とりあえずは、美咲と結花を助けなければ。
すべての疑問は後回しにして、俺も馬に乗った。
何が何でも、絶対に助け出す。そう決意して、ランスを後にした。
一条がやっと到着です。




