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密やかに想う  作者: 水城雪見
本編
84/109

65.結婚披露パーティー




 準備はばたばたと忙しかったけれど、10の月の終わりに、みぃちゃんと結花さんは、恙無く結婚した。

 新居は、育ったコテージを店の裏庭に出して、そこに二人で住む事になった。

 他の場所に家を買うことも考えたみたいだけど、店に通うことを考えると近くの方がいいし、後は、結花さんの安全面を考慮して、同じ敷地内に住んだ方がいいということになったのだ。

 

 みんなでデザインを相談して、ディアナさんに作ってもらったウェディングドレスは、結花さんの可憐さを引き立てていて、とても良く似合っていた。

 みぃちゃんが、ドレス姿にしばらく見惚れて固まってたので、みんなで笑ってしまった。

 もちろん、その瞬間は、しっかりカメラに収めてある。

 式は平民街の教会で執り行われ、冒険者仲間や知人がたくさん参列した。

 仕事の合間に冒険者ギルドの職員さん達も、交代で顔を出してくれて、賑やかな式になった。

 ラルスさんも参列したいと最後までごねていたけれど、披露パーティーだけで我慢してもらった。

 こちらでは、仮面舞踏会はあっても、仮装というのはないみたいなので、ラルスさん達は仮面をつけて参加することになる。

 マティアスさんも、わざわざ学園を休んで帰ってきてくれて、一家揃ってきてくださった。


 準備の為に、二日前からお店は休みにしてあったので、店内の飾りつけは前日までに終わらせてあった。

 ハロウィンっぽく、でも華やかにホールを飾りつけ、個室は休憩で使えるようにしてある。

 料理も後は出すだけにしてあったので、式の後にみんなで、ホールに並べるだけで、パーティーの準備は済んだ。

 準備の間は忙しくて実感はなかったけれど、こうして当日になって、結花さんのドレス姿を見ても、二人が結婚したという実感がない。

 元の世界にいたならば、まだ高校生で、今頃は受験に備えて必死に勉強していた頃だから、結婚が身近に感じられないのも仕方がないのかなと思っている。



「ミサちゃん、準備が済んだなら、早く着替えようー。髪は優ちゃんがセットしてくれるって」



 リンちゃんに急かされて、2階の私の部屋に行く。

 ディアナさんに作ってもらった衣装は、リンちゃんのデザインで、素敵だけどとてもスカート丈が短い。

 レースが重なって、ふわふわとしたスカートは可愛いのだけど、膝上丈のスカートは初めてなので、試着した時は落ち着かなかった。

 元の世界から持ち込んだ黒のストッキングがあるので、足をさらさないで済んでいるのが唯一の救いだ。

 靴や髪飾りもリンちゃんがデザインして作ってくれて、可愛らしく仕上がっている。



「着替えたら急いでセットするわ。こちらでも髪が巻けるからよかったわ」



 この日のために、色々と必要な道具を優美さんはそろえてくれたらしい。

 私の髪は、嫌になるくらいまっすぐなので、巻くのは大変かもしれない。

 ワンピースに着替えて、ストッキングと靴を履いた。

 髪飾りと靴はおそろいで、ワンポイントでかぼちゃの飾りがついている。

 後々使えるように、かぼちゃは取り外し可能だ。

 スカート丈が気になるけれど、ワンピース自体は色も黒だし、レースがふんだんに使ってあって、とても素敵で気に入っていた。

 ドレッサーの前の椅子に座ると、優美さんが手際よく髪を巻いてくれる。

 みぃちゃんや結花さんと一緒に、お客様を出迎える役割があるので、私の身支度を優先してやってくれるらしい。

 リンちゃんも首に鈴のついた黒猫っぽい衣装を作ったけれど、まだ着替えていない。

 試着の時に見たけれど、猫耳のカチューシャと長いしっぽ付きの衣装は、リンちゃんにとてもよく似合っていた。



「いつもストレートだから、髪がくるくるだと雰囲気違うね。何か、いつもより可愛い」



 手際よく優美さんが髪をセットしてくれて、普段はしないようなきっちりとした化粧もしてくれた。

 支度が整うと、リンちゃんが笑顔で褒めるので照れてしまう。

 緩くウェーブのかかった髪は見慣れなくて、ちょっと気恥ずかしい。

 いつもならしないような格好に、いつもと違う髪型というだけで、心が浮き立つ感じがした。



「優美さん、ありがとう。二人とも支度を手伝えなくてごめんね。そろそろ、お客様も集まる時間だから行ってくるわ」



 支度を手伝えないのは心苦しいけれど、お客様を待たせるわけにもいかないので、お礼を言ってから、先に下に降りていく。

 玄関に行くと、みぃちゃんと結花さんが揃って待っていた。

 二人とも、まだ結婚式の時と同じ姿だ。

 お客様を出迎えてから、後で、仮装する事になっている。



「二人ともお疲れ様。あらためて、結婚おめでとう。末永くお幸せにね」



 教会でもお祝いは言ったけれど、改めてお祝いの言葉を口にすると、みぃちゃんははにかんだように微笑み、結花さんは涙ぐむ。

 


「美咲さん、ありがとう。私がこんなに幸せなのは、美咲さんのおかげなの」



 結花さんに抱きつかれて、抱き返しながら、宥めるようにそっと背中を撫でた。

 私が、ここで働くように勧めた事を、結花さんは感謝してくれているみたいだ。

 二人が出会うきっかけを作ったのは私かもしれないけれど、その後、結花さんが頑張っていたから、みぃちゃんは結花さんに惹かれたんだろうし、感謝されるようなことはしていないと思う。



「みぃちゃんをよろしくね。二人で幸せになって」



 ハンカチを取り出して、結花さんの涙を拭った。

 たくさん辛い思いもした結花さんだから、その分も幸せになって欲しい。

 


「お客様が到着したみたいだわ。二人はここで出迎えしてね」



 結花さんをみぃちゃんに返して、玄関の扉を開け放つ。

 外で馬車の音が聞こえているから、ラルスさん達がやってきたんじゃないかと思う。



「カズナリ、ユイカ、結婚おめでとう!」



 玄関に入ってきたラルスさんは、満面の笑みだった。

 ユリウスさんの結婚式の時と同じくらい、嬉しそうな様子だ。

 ラルスさんの相手はみぃちゃん達に任せて、従者の運び入れるお祝いの品を、とりあえず預かっていく。

 アイテムボックスに入れておいて、後で二人の新居に運んでおけばいいだろう。



「ミサキ? 素敵なドレスだね、とても良く似合っている。いつもと雰囲気が随分違うから、見違えたよ。いつも美しいけれど、今日は特に綺麗だ」



 クラウスさんと連れ立ってやってきたクリスさんが、恥ずかしくなるほどに熱心に褒めてくる。

 その言葉は、花嫁である結花さんに向けるべきだと思うのだけど。

 まさか、王都にいるはずのクリスさんまでいるとは思わなくて、驚いてしまった。



「王都からお祝いに来てくださったんですか? ありがとうございます、クリスさん。みぃちゃんが喜びます」



 恥ずかしい褒め言葉は笑顔で受け流して、遠方から来てくださったことへのお礼を述べた。

 王都からの距離を考えると、結婚式のためにわざわざ来るなんて、とても大変な事だ。

 しばらく一緒に迷宮に通っていたとはいえ、そう長い付き合いでもない、みぃちゃん達の結婚のお祝いに駆けつけてくださるなんて、何て優しくて義理堅い人なんだろう。

 クラウスさんとマティアスさんも帰ってきたから、便乗しやすかったのかもしれないけれど、それでも大変な事だと思う。

 仮装が珍しいのか、クリスさんにじっと見つめられて、落ち着かないような気持ちになる。

 強すぎる視線を向けられるのは慣れているけれど、でも、気恥ずかしい。



「クラウスがお祝いに帰るというから、ついてきてしまったんだ。今夜は仮装パーティーと聞いたんだが、仮面しか用意できなくて申し訳ない」



 こちらでは仮装というのはないようなのに、それでも、申し訳なさそうにしているクリスさんに、微笑みながら頭を振った。



「こちらの世界では、仮面をつけるくらいしかしないようですから、仕方がありません。仮装にしようと思ったのも、貴族が参加していても、冒険者の方々が緊張しないようにという配慮ですから。それより、今日はクリスさんにお出しした事のない料理を作ってありますから、たくさん召し上がってくださいね。楽しんでいただけたら嬉しいです」



 食道楽のクリスさんなら、食べた事のない料理は喜んでくれると思う。

 わざわざ王都から来てくださったのだから、楽しんでもらいたい。

 食べた事のない料理があるとわかって、クリスさんはわかりやすく目を輝かせた。



「それは、とても楽しみだ。あぁ、そうだ。これをよかったら受け取って欲しい。王都で素晴らしい店を紹介してくれたお礼と、お土産だ。ミサキにはよく似合うと思う」



 さり気なく差し出された箱を、素直に受け取った。

 理由のないプレゼントを受け取るのは苦手なのだけど、クリスさんはいつも細々と何かしらプレゼントしてくださるので、慣れてしまった。

 断るほどでもない、それでも、もらうと嬉しいような物を選ぶクリスさんは、女性の扱いになれた人なんだと思う。



「いつもありがとうございます、クリスさん。クリスさんが贔屓にしてくださってありがたいと、カロンさんからはお礼状が届きました。カロンさんはとてもお世話になった方ですので、ご恩返しができたようで嬉しいです」



 感謝の言葉を口にすると、クリスさんは照れたような様子だ。

 他のお客様はみぃちゃん達のところに直接向かっている事もあって、しばらくクリスさんと話をした。

 王都のカロンさんの店の話や、私たちの世界のハロウィンの話、私の仮装の説明など、話が尽きない。

 こちらが恥ずかしくなるほどに褒めてくるのはちょっと困るけれど、クリスさんの話術は巧みで、話をしていると楽しかった。



「クリスもきていたのか。久しぶり、王都からわざわざありがとう」



 支度を終えて降りてきた亮ちゃんが、話に入ってくる。

 ヴァンパイアの仮装は、意外によく似合っているけれど、小さな牙が邪魔そうだ。



「亮ちゃん、それ、喋りづらくない?」



 笑いながらからかうと、亮ちゃんが僅かに顔をしかめる。

 やっぱり、喋り辛いらしい。



「まぁ、料理を食べる時は外すことにする。それより、美咲はホールの様子を見てきてくれないか?」



 料理と一緒につけた牙まで飲み込んだら大変だから、それがいいと思う。

 ホールに行くように言われたので、クリスさんに軽く会釈してから、その場を離れた。

 ホールからは、ピアノとギターの音が聞こえる。

 鳴君と阿久井君が相談して、結婚式に相応しい曲をいくつも用意していた。

 今日は立食形式のパーティーなので、空いたお皿やゴブレットはこまめに片付けないといけない。

 料理も、足りなければ出せるように、かなり多めに用意してあった。

 全体を一通りチェックしたけれど、何の問題もないようだ。


 お客様を出迎えた後で、みぃちゃんと結花さんが挨拶をしてから、パーティーは始まった。

 こちらのドレスとは違う、結花さんのウェディングドレスは注目の的だった。

 白のレースやチュールをたくさん使ってあって、可憐な結花さんのイメージにあわせて、あえて丈は短くしてある。

 若い花嫁ならではの、ミニのウェディングドレスだ。

 さすがにダンスをするほどのスペースはなかったけれど、耳に馴染んだ音楽が流れる中、楽しく歓談しながら、料理を楽しんでいる人達。

 貴族も平民も関係なく入り乱れて、みぃちゃんと結花さんのお祝いに集まっている。

 今日は、テラスも開放して、そちらにもテーブルと椅子を出してあった。

 仕事を終えて、途中で参加してくる人もいて、楽しく賑やかなパーティーになった。

 

 



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