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密やかに想う  作者: 水城雪見
本編
76/109

58.カロンの手紙




 旅行から帰ると、店にカロンさんから手紙が届いていた。

 ラルスさんやクリスさんがカロンさんの店に行った時に、私が紹介したことをカロンさんに話したらしい。

 いいお客様を紹介したことへのお礼と、しばらくカロンさんの店にいた転生者の吟遊詩人が、近々ランスに行くはずなので、よかったらお店で使って欲しいという用件の手紙だった。

 吟遊詩人の名前は、リュウジというらしい。

 これといった心当たりがないけれど、多分、一緒に転生してきた人じゃないかと思う。



「職業が吟遊詩人になってそうな人で、リュウジって名前の人、誰か知ってる?」



 夕食の席で、みんなが集まった時に聞いてみる。

 同じクラスの男子のフルネームは覚えていても、リュウジというのは特に珍しい名前でもないから、私のクラスだけでも二人の該当者がいた。

 彼らが音楽をやっていたかどうかまではわからないので、友達の多そうなみんなに聞いてみたほうが確実だ。



「吟遊詩人? 音楽をやっていたリュウジで僕が思い当たるのは、僕達と同じクラスだった阿久井龍司ですね。彼はバンドもやってましたし、僕は文化祭の時にキーボードで彼のバンドに参加しましたから、それなりに親しいですよ」



 阿久井という名前と、鳴君が文化祭で一緒にバンドをやったと聞いて、どんな人か思い出した。

 ギターを弾いていた人で、結構かっこよかったと思う。

 優しそうな雰囲気の人だけど、女の子には特に優しくて人気があったはずだ。



「あの似非フェミニストが、どうかしたの?」



 優美さんは、いつもながら男子には手厳しい。

 嫌そうな顔で問いかけれたので、あまり阿久井君のことを嫌ってないといいなと思う。



「カロンさんから手紙が届いていて、リュウジという吟遊詩人がランスに行くから、よかったらお店で使って欲しいって書いてあったの。わざわざ手紙に書くくらいだから、カロンさんのお店で、いいお仕事をしてたんじゃないかなと思って」



 お世話になったカロンさんの紹介でもあるし、問題のない人なら、お店で使っても構わないかと思うけど、みんなの意見を聞いてみることにする。

 吟遊詩人なら旅をしているだろうから、もしかしたら先生の消息を知っているかもしれないし、個人的には会ってみたい。



「阿久井なら、いいんじゃないか。一人かパーティで動いてるかにもよるけど。でも、まだ阿久井と決定したわけじゃないし、来てから考えよう」



 亮ちゃんの意見に、みんな頷いてる。

 阿久井君の人柄は問題ないみたいだ。

 確かに、違う人なのかもしれないし、今から考えていても仕方がない。



「それより、明後日からまた店の営業が始まるから、明日はみんなで大掃除しよう。カキ氷とシャーベットを期間限定メニューに加えるんだろ? メニューの用意もしておかないとな」



 半月も留守にしていたから、浄化の魔法があるとはいえ、掃除は大変そうだ。

 メニュー作りは、みぃちゃんと結花さんが申し出てくれた。

 イラストつきで作ってくれるらしい。



「美咲は、明後日からの仕込みをするといい。魚介のパスタもメニューにいれるんだろ?」



 魚介類が溢れそうなほどに手に入ったので、ペスカトーレとサーモンのクリームパスタをメニューに追加する予定だったのを、亮ちゃんは覚えていてくれたらしい。

 ツナも、それっぽいのを作れたので、バケットサンドも、具を変えたものを出してみるつもりだ。

 3種類あるとはいっても、そろそろ食べ飽きてる人もいるんじゃないかと思う。

 スモークサーモンが作れたら、クリームチーズと一緒にサンドイッチにするんだけど。

 牛肉も手に入れやすいんだから、ハンバーグをローストビーフに変えてもいいかもしれない。

 色々と考え出すと切りがない。

 とりあえず、もう少しで持ち帰り用のお菓子の販売はしなくてよくなるので、ツナサンド以外は、その後に考えてみよう。

 ディランさんに頼んで、燻製のための道具を作ってもらうのがいいかもしれない。

 鍋で燻製にする方法も知っているけれど、あれだと、一度にできる量に限りがあるから、店で使うなら、ちゃんとした大型の物が欲しい。

 この手の事はみぃちゃんと尊君が詳しいから、そのうちに相談しよう。

 あまり仕事を増やしすぎると、怒られてしまうから、相談もタイミングが大事だ。

 


「みぃちゃん、結花さん。パスタのメニューもお願いしていい? ペスカトーレとサーモンのクリームパスタも、期間限定にしておくわ。それとも、一日20食限定とかの方がいいと思う?」



 亮ちゃんに頷きを返してから、メニュー作成の追加を頼んだ。 

 一日で出す数を制限すれば、その分長くメニューに入れられるけど、一定期間のみと、どちらがいいのかよくわからない。

 考え込んでいると、亮ちゃんに軽く頭を小突かれた。



「悩むのは後にして、食え。美咲は食べる量が少なすぎる。また、寝込んでも知らないぞ?」



 箸が止まっていたことを指摘され、ため息をつかれる。

 みんなと比べたら、食べる量は少ないけれど、でも、前とそんなに変わっていないはずなのに。

 私が食べる量が少ないんじゃなくて、みんなが食べすぎなんじゃないかなぁ?

 それとも、転生して燃費の悪い体になってるんだろうか?

 


「ね、アルさん。レベルが高い人の方が、大食いとかそういうことはある?」



 亮ちゃんに叱られないように、食事を再開しながら、念のために聞いてみる。

 レベルが上がればあがるほど、必要なカロリーが増えるのなら、考えて食事を作らないといけない。

 迷宮に行く事が多いみんなと比べると、私のレベルは低い。

 その差が食事量にも関係するのなら、改善が必要だ。


 ちなみに、この世界の人のレベルの最高記録は173らしい。

 その人はもちろん過去の転生者で、世界中、あちこちの迷宮を踏破して回ったそうだ。

 随分長生きしたそうだけど、既に亡くなっていて、ミシディアに記念碑のようなものがあると、図書館の本に書いてあった。

 


「極端に違うってほどじゃないが、あるかもしれない。レベルが高い奴は、細くても小柄でも、驚くほどよく食う。カグラ以外はみんなレベル100を超えたから、食べる量が違うのは仕方がないかもな」



 最近、料理を作っても作っても足りないのは、魚料理のせいかと思っていたけれど、それだけではなかったみたいだ。

 やっぱり、みんなとは随分レベル差が開いてしまっていた。

 私は冒険者活動がメインじゃないから、それは当然の事で、そんな私でも、普通に街で暮らす人達よりは、ずっとレベルが高いのだけど、差が開きすぎるのはちょっと悲しい。

 今回の迷宮で、私のレベルは85になったけれど、みんなとは20くらい差があることになる。



「私も、もう少しレベルを上げた方がいいのかな?」



 レベルが上がればあがるほど、体は疲れにくくなるし、頑丈になる。

 危険に対処するという意味でも、冒険者に向いていないとか考えずに、レベル上げをするべきなんだろうか。

 それに、みんなと一緒に迷宮に行く時に、ずっと寄生状態なのも申し訳ない。



「上げたきゃ上げてもいいが、今のカグラでも、一人旅ができるレベルだぞ? 無理しなくても、100をこえると、レベルも上がりづらくなるから、そのうち、こいつらにも追いつくさ」



 私が何を気にしているのか、アルさんにはわかったらしい。

 突き放すでなく、好きなようにすればいいと教えられて、少し心が軽くなる。



「とりあえず、明日は、大掃除の前にコテージを大迷宮に出しに行かない? 馬を桔梗に全部預けてしまったら、不便になるかな?」



 ラルスさんにもらった馬車で馬を使うから、2頭は残しておくべきだろうか?

 私の馬ではないし、一人で決められることじゃないから、みんなの判断に従おう。



「それなんですが、今いる馬のうちの2頭を預けて、後の2頭は、子馬を買いませんか? 桔梗に聞いた話だと、やっぱり、子馬から桔梗が育てた方が、よりいい馬に育つらしいんです」



 鳴君は、私がいないところでも桔梗と交流していたらしい。

 馬を預ける事を考えていてくれたようだ。



「馬車があるから、2頭は残しておいたほうがいいだろうし、それでいいんじゃないか? ただ、馬を買うには紹介状が必要だろう? ラルスさんに頼めばすぐだろうが、今は、まだ王都から帰ってきてないはずだ」



 社交シーズンは夏の終わりのはずだから、王都からの移動時間も考えると、多分、まだ一ヶ月くらいは留守にするんじゃないかと思う。

 馬の購入は、まだ先でも大丈夫だろうか?

 コテージのレベルも上がり辛くなっているから、次のレベルまでは、最低でも数ヶ月単位で時間がかかるんじゃないかと予測してるけど、馬の飼育期間も考えると早い方がいいような気もする。



「一応、俺の紹介でも買えるから、明日、見に行くか? 子馬なら安いはずだ」



 アルさんも、馬牧場にツテがあるらしい。

 王都に行く時に馬を使っていたから、そこで借りたりしているのかもしれない。



「じゃあ、明日は馬を買ってから一度戻って、馬を桔梗に預けてから、大迷宮にコテージを出しに行こう。馬を持ったまま大迷宮に入るのは、馬が危険だからな」



 桔梗に預けると、馬もコテージと一緒に片付けられるみたいだから、亮ちゃんの言うやり方が一番安全で無駄がなさそうだ。

 今いる内の2頭は今夜の内にでも、桔梗に預けておいていいかもしれない。

 帰ってすぐに裏庭にコテージは出してあるから、すぐ終わるだろう。

 


「それなら、馬は私とアルさんとみぃちゃんで買いに行くわ。帰るまでの間、みんなには大掃除を頼んでいい? 大迷宮は危険だから、できるだけみんなで行きましょう」



 紹介主のアルさんと、いつも馬の世話をしているみぃちゃんがいれば、馬の購入はスムーズに済むと思う。

 大迷宮から帰った後、大掃除となるとみんな大変だろうから、先にやれるだけやっておいたほうがいい。



「わかった。じゃあ、アルフ、手間を掛けるけど頼むな。それと、みんな、寝る前にコテージに魔力を注いでくれ。明日になると、注いでいる余裕もないだろうから、今夜の内に満タンにしておこう」



 旅行中と帰ってきてからと、少しずつ魔力を注いだりもしたけど、まだ100%にはなっていなかった。

 大迷宮に行く前に、できれば100%にしておきたい。


 その後も、明日の詳しい打ち合わせをしながら、時間を過ごした。

 明日、子馬を見に行けるのは、ちょっと楽しみだった。




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