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密やかに想う  作者: 水城雪見
本編
75/109

57.妖精との交流

短いですが切りがいいので。次からはランスに戻ります。




 みんなは迷宮探索を、私は料理の研究と素材の改良をして、夏休みのほとんどを過ごすことになった。

 スパイスが手に入ったので、ランスに戻ったらカレーも作ってみる予定だ。

 カレーを食べた時にラルスさんの反応とか、想像するだけで楽しみだ。

 こちらでは、辛い料理はあまり存在していないから、きっと驚くに違いない。

 作って欲しい器具や、そろえたい材料などをノートに書き出して、研究結果もノートに纏めておいた。

 次の迎えが来る一日前に、みんな、難なく最下層の50層まで踏破したので、最後の一日は、地上でのんびりすることにした。

 旅行が終わったら、またコテージを大迷宮に戻すので、桔梗と戯れられるのも今だけだ。

 そう思うと少し寂しいけれど、桔梗とは言葉だけでなく、感情も伝え合う事ができるのは、迷宮に篭っていた時に実証済みだったので、心配はしていなかった。

 いざという時のためにも、コテージのレベルを上げておくのはいいことだと思うから、少しの間、桔梗には我慢してもらおう。

 コテージのレベルが10になったら、そのときはずっと手元に置いて、桔梗を可愛がるのだと今から決めている。



『主様、何をしているの~?』



 コテージの庭で昆布を干していると、桔梗が不思議そうに首を傾げていた。

 ふわふわと飛び回りながらの仕草が可愛くて、和まされる。



「昆布を乾燥させているの。一日、日干しにするのよ」



 こちらでは浄化の魔法を使うから、洗濯はあまりしないけれど、たまにシーツとか洗いたくなって、コテージの庭には物干し台のような物を作ってある。

 そこを利用して、日によく当たるように、昆布を並べて干していた。

 風が吹いているけれど、吹き飛ぶほどじゃないから、多分大丈夫だろう。

 竹を編んで作った笊のようなものに、青海苔も広げて干しておいた。

 干した物を砕けば、元の世界の青海苔みたいになる。

 できた青海苔の保存は、修学旅行の荷物に入れてあった密閉可能な保存袋を使うことにした。

 元々は、下着や靴下などの汚れ物を持ち帰るために用意していたものだけど、使わずに余っていた物があったのだ。

 念のためにと、少し余分に持ち歩く癖が、とても役に立った。

 

 お好み焼きやたこ焼きを作るのなら、紅生姜も欲しいけれど、生姜を漬けるための赤梅酢がない。

 梅干しはミシディアにあるみたいだから、梅干しを作る時にできる赤梅酢はミシディアにならあるのかもしれないけれど、こちらでは見たことがない。

 お祖母ちゃんは毎年、庭の梅を使って、梅干しと梅酒を作っていたから、作り方はわかるけれど、ランスでは梅が手に入らなかった。

 やっぱり、アルさんの実家に手紙を書いて、赤梅酢を譲ってもらうのがいいかもしれない。

 それか、店の庭に梅を植えるのも一つの手だ。

 梅は花も綺麗だし、いいかもしれない。

 帰ったら結花さんと相談して、植える場所を決めて、入手手段をミシディアの商人さんと相談しなければ。



『コンブ? 乾燥させてどうするの? お洋服?』



 私が梅に思いを馳せていると、桔梗は昆布の用途がわからないようで、干した昆布の周りを飛び回りながら尋ねてくる。

 昆布のひらひらとした感じが、桔梗には服のように見えたらしい。

 それがおかしくて、笑みが零れた。



「服にはしないわ。お料理に使うの。そういえば、桔梗は食事はしないの?」



 コテージの魔力でいいと言うので、今まで、桔梗に食べ物らしき物をあげた事はない。

 最初に魔力をあげたときも、登録のためといった感じだったし、他に栄養は必要ないのかと、今更ながらに気になって問いかけてみる。



『妖精は自然の魔力を吸い取って、生きてるのー。でも、桔梗は甘いの好きよ。昨日、リンがくれたの。甘いのおいしいの』



 リンちゃんが、おやつを分けてあげていたらしい。

 甘い物が気に入ったみたいなので、私も上げたくなってしまって、アイテムボックスからクッキーを一つ取り出して差し出すと、桔梗にはちょっと大きかった。

 半分に割ってあげると、両手で持って、嬉しそうに顔を輝かせる。



『主様、ありがとう~。いただきますっ』



 私達が食事の時に『いただきます』というのを覚えていたのか、食前の挨拶をしてから、桔梗には大きすぎるクッキーを両手で持って、幸せそうに齧りつく。

 美味しそうに食べていて、必死に咀嚼しているのがハムスターみたいで可愛いけれど、小さな桔梗の口には、クッキーは硬すぎるかもしれない。

 次はケーキとか、もっと柔らかいものをあげてみよう。

 桔梗専用の食器みたいなものを作るのもいいかもしれない。

 母が大事にしていたアンティーク調のドールハウスにあった、食器や家具を思い出した。

 あれが手元にあったなら、桔梗にはちょうどよさそうなサイズだったのに。

 こちらであれを再現するとなると、かなり難しそうだ。

 でも、いつか桔梗専用の家具や食器を作りたい。


 桔梗が一生懸命、クッキーを齧る姿を見ながら、昆布を干す作業に戻った。

 みんながたくさん食材を手に入れてくれたから、それを管理するのが大変だ。

 乾物にすれば、アイテムボックスから出しても日持ちはするけど、でも、それならそれできちんと処理しておかなければ、傷む事もあるし、置き場所にも困ってしまう。

 店に戻れば、前庭のほうが日当たりはいいのだけど、さすがに、店に入るときに見える場所に昆布を干したりはできない。

 だから、作業するなら今日の内なのだ。

 桔梗と他愛ないおしゃべりをしながら、昆布を干して、庭の手入れもした。

 新しく手に入れた野菜やスパイスを、永続的に庭でも手に入れられるように、配置も考えて植えていく。

 コテージのレベルが上がると共に、庭も広くなっているので、植える場所には困らなかったけれど、優美な雰囲気とは程遠い、家庭的な庭になってしまった。

 ゆっくり休むのは、帰りの船でできるからと、時々みんなにも手伝ってもらいながら、一日のほとんどを庭で過ごした。




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