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密やかに想う  作者: 水城雪見
本編
73/109

55.経験不足




 次の日は迷宮の6層からスタートして、12層まで進めた。

 というのも、進めば進むほど、敵と遭遇することが減っていって、攻略がしやすかったのだ。

 3日目は20層、4日目はお昼に25層まで攻略したところで、一度、島に戻る事にした。

 迎えが来たときに誰もいないのでは、迷宮で何かトラブルがあったのかと、書き置きをみて誤解させてしまいそうなので、大事にならないうちに迎えの延長を頼んだ方がいいという事になった。

 元々、他の島の迷宮に入る予定だったから、それを取りやめて、海底迷宮の攻略をぎりぎりまでしてみることを、みんなで決めていた。

 観光にも行きたいような気がするけれど、島と違って人がいるだけで、特別に観光地のようなところはないようなので、それならば迷宮の方がいいという意見が多かった。

 私も魚が仕入れたかっただけなので、迷宮で魚が手に入るのならば、他の島に行く事もない。

 だから、船長さんたちには、元々の帰りの予定日に迎えに来てもらい、そのままランスに帰る予定だ。


 攻略を進めているうちに、アジとイワシとカニと太刀魚も手に入った。

 森のような層もあって、そこでは夏野菜がいくつも手に入ったので、根っこからいくつも収穫してきた。

 桔梗に頼んで、私のコテージの庭に植えてもらうつもりだ。

 ナスにトマトにきゅうりにピーマン、そして、大葉とアスパラにとうもろこしとスイカも手に入った。

 夏野菜は好きなので、浮き浮きとして収穫していたら、尊君に呆れられてしまった。

 欲しいスパイスが全部手に入れば、夏野菜のありがたみが尊君にもわかるのに!

 夏野菜のカレーが作れないのが、とても残念だ。

 かりかりに焼いたチキンと、素揚げした夏野菜のカレーはとても美味しいと思う。

 迷宮でスパイスも見つかったらいいのにな。

 迷宮のこの先の階層に期待しつつ、島のコテージに戻ると、桔梗が飛びまわりながら出迎えてくれた。

 癒されるような可愛らしさだ。

 コテージのレベルを上げて本当によかった。

 ちなみに、腕輪の効能は凄く、帰りに海で泳ぐ時は、話すことはできないものの、全然息苦しくならなかった。

 泳いでいるのに、息ができるのは不思議な感じがした。



「桔梗、ただいま」


『主様、おかえりなさいなの』



 頬に可愛いキスをもらったので、指先で頭を撫でておく。

 そのまま、肩に乗せて、まずは魔石の魔力をチェックしにいった。

 寝室の魔石の色は同じままで、あまり減っていないようだ。

 そのことにホッとしつつ、ついでだから、魔石に魔力を注いでおく。

 魔力が最大まで溜まると、深い青色になるらしいので、まずはその状態に持っていきたい。


 まだお昼なので、今日はお昼ご飯の後は、海でゆっくり遊ぶ事になっていた。

 カキ氷を作ろうと思っていたけれど、まだ作っていないので、外にいるうちに作ろうと思う。

 迷宮にいるときは、何となく、冷たいものを食べる気分になれない。

 明日からはまた迷宮攻略だから、今日の内に南国らしい海を満喫しておきたかった。

 やっぱり、私は冒険者に向いていないのかもしれない。

 連日、迷宮に篭っていると、段々鬱々としてくるというか、外に出たくなる。

 コテージがなかったら、一晩泊まれるかどうかも怪しい。


 迷宮を出る時に水着に着替えてそのままだったので、水着で昼食の支度をするのもあんまりかと思い、上から自作のサンドレスを着ておく。

 夏っぽいマリンブルーの布で作ったのだけど、我ながらとてもいい出来だと思う。

 風が吹くと、裾がひらひらとして心地いい。

 お魚続きだったので、今日はサンドイッチとスープを作った。

 それだけでは、多分足りない人もいるので、フライドチキンとサラダも用意しておく。

 みんな、ずっと迷宮にいたから、外の風と太陽を浴びたいのか、コテージに入ってこないので、コテージの庭にテーブルと椅子を出して、そこで食事をすることにした。

 外でも結界の中にいれば、桔梗を一人にしないで済む。



「桔梗もお手伝いしてくれる?」



 お願いすると、ふわふわと飛びながら、『はい、主様』と、嬉しそうに頷くので、アイスティーとアイスコーヒーを作ってもらうことにした。

 テーブルクロスをかけて、上に料理の大皿を並べていく。

 暑いので、スープは少し冷めても大丈夫かと思って、鍋ごとテーブルの真ん中に置いておいた。

 


「鳴君、氷をお願い」



 手伝いに来てくれた鳴君に氷を頼んで、アイスペールとゴブレットに入れてもらう。

 最近、ガラス工房を見つけて、コップの製作なども依頼しているけれど、まだ出来上がっていない。

 できたとしても、割れてしまうと、それだけで一日の売り上げの半分くらいの損害になるから、お店で使うのは厳しそうだ。

 状態保存の魔法というのがあるみたいだから、それを掛けられたら違うのだろうけど、魔法をかけてもらうのと、割れることもあるのを想定して使うのと、どちらがよりマシなのかよくわからない。

 パフェグラスが作れたら、お店でデザートにパフェを出したいと思っているけれど、チョコレートがないのが本当に残念すぎる。



「ミサちゃん、何かお手伝いある?」



 リンちゃんが駆け寄ってきて、手伝いを申し出てくれた。

 私が寝込んでから、リンちゃんもちょこちょこと色々手伝ってくれる。



「それだったら、桔梗が作ったアイスティーとアイスコーヒーを運んでくれる?」



 お願いすると、リンちゃんは頷いて、キッチンまで駆けていった。

 桔梗の手伝いができるのが嬉しいらしい。


 鳴君が、みんなを呼びにいってくれたので、先に椅子に座った。

 以前は、一人だけ座って休んでいたりとか、落ち着かなかったけれど、やっと少し慣れて来た。

 一人で頑張る事で、反対に迷惑を掛けてしまうこともあるとわかったので、休めるときは休むようにしている。


 直射日光は眩しいけれど、でも、暑くて我慢できないというほどではないのは、湿気がないのと、程よい風が吹いているからだろうか。

 白い砂浜も綺麗な海も、現実感のない美しさで、こんな場所でのんびりとしていることが不思議になる。

 海外に行った事はないし、家族旅行も、お母さんが生きている頃に行ったきりだから、旅に出ることに慣れていない。

 だから、こういった場所で、何をしていいのかわからなくなって、時間を持て余してしまう。

 旅先だというのに、何かしてないと落ち着かない。

 こういうのを貧乏性って言うんじゃなかったかな?

 まだ10代なのに、ろくに遊び方すら知らない。

 知らないことだらけ、足りないものだらけだと思う。



「魅力が足りないかなぁ……」



 先生と再会して、傍にいられるようになっても、こんな私では、退屈だと思われてしまうかもしれない。

 そんな事を考えていたら、小さく呟いていた。



「何を寝ぼけた事を言ってるの。そんなこと、あるわけないでしょ」



 いつの間にか隣の椅子に腰掛けていた優美さんに突っ込まれ、ついでに、軽く頭を小突かれる。

 言葉はきついけど、慰めてくれてるのはよくわかった。



「でも、私、お母さんみたいじゃない? 一緒に暮らすと便利だけど、一緒に遊びに行くとつまらない人かも」



 不安を口にすると、優美さんは皮肉な笑みを浮かべたまま、小突いた手で、優しく私の頭を撫でる。



「毎日遊んで暮らせるわけじゃないんだから、お母さんでもいいじゃない。それに、母親だって女よ? 自分の前でだけ女になってくれるなんて、この上なく男の自尊心を擽る存在じゃないの。何を考えてたか知らないけど、美咲さんをつまらないとか言うような男は、さっさと捨てればいいのよ。そんな、見る目のない男は、付き合うだけ時間の無駄だわ」



 私を慰めてくれながら、優美さんが誰かに視線を向けているけれど、後ろにいるのでよくわからない。

 確かに、今から心配してても意味がないし、優美さんの言う通りならいいなと、ちょっと元気が出た。

 考えてみたら、同じ年頃の女の子と、こういった話をすることさえ初めてだった。

 私はやっぱり、色々と経験不足だ。



「ありがとう、優美さん。おかげで元気が出たわ」



 友達っていいなと思ったら、とても幸せな気分になって、自然に笑みが浮かんだ。

 何だか私、とっても幸せだ。


 ふわふわとした嬉しくて幸せな気持ちのまま、ご機嫌でご飯を食べていたら、アルさんや尊君と目が合ったけれど、すぐに視線をそらされてしまった。

 二人とも顔が赤かったので、外で食事をするのはやっぱり暑かったのかな?と、ちょっと反省してしまった。

 次はパラソルを使えるようにしておこう。





  

 ロフトのベッドでお腹にタオルケットをかけて、リンちゃんは気持ちよさそうに寝てる。

 ご飯の後、遊び疲れたみたいで、おやつ代わりのカキ氷を食べた後は、ずっと眠そうだったから、みんなで一緒にお昼寝をすることにした。

 カキ氷でテンションが上がり過ぎて興奮したのも、みんなが疲れた理由の内の一つかもしれない。

 カキ氷には、みんな驚いて喜んでくれて、ディランさんに無理を言って、カキ氷器を作ってもらった甲斐があった。

 今度、お店でも夏限定でカキ氷を出してみることになった。

 氷菓子はこちらでは見当たらないので、物珍しさで売れるんじゃないかと思う。

 帰ったらシャーベットも作ってみる予定だ。


 ロフトにはベッドは二つしかないので、結花さんと同じベッドに横たわる。

 ダブルサイズのベッドなので、小柄な結花さんとなら何の問題もない。

 潮を落とす為に、軽くシャワーを浴びておいたので、石鹸の匂いがして心地いい。

 横向きで寝心地のいい体勢を作って、ベッドの上のクッションを一つ、ぎゅっと抱きしめた。

 こうやって柔らかい物を抱きしめていると、安心する。



『主様と一緒~』と、桔梗もやってきて、クッションの上に蹲った。

 甘えてくるのが可愛くて、胸が温かくなる。



「おやすみ、桔梗」



 指先で頭を撫でてから、目を閉じた。

 亮ちゃんだけはロフトに上がれるようにしているので、何かあったら呼んでくれるはずだ。

 連日、迷宮の探索であまりゆっくりできなかったから、少し疲れていたみたいで、目を閉じるとすぐに睡魔がやってくる。

 ガラス越し、午後の柔らかな光が入ってくるロフトで、のんびりとお昼寝をして過ごした。

 目が覚めたら、みぃちゃんが夕飯を作ってくれていて、更にのんびりと過ごす事ができた。



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